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ゲーム開発者が自ら語る、アーカイブ化されずに日々ゲームが消えゆく悲哀

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:ロイター/アフロ)

以前に拙稿、「日本が世界に誇るゲームを後世に 国もバックアップを始めた保存活動」などでご紹介したように、近年は産学官の各方面の手によって、これまでに発売されたゲームを後世に残すためのアーカイブ活動が始まっている。日本ゲーム博物館やゲーム保存協会などが手掛けるゲームの動態保存、立命館大学や納本制度を利用した国立国会図書館によるゲームソフトの収集、文化庁の「メディア芸術データベース」の作成・公開などがその代表例だ。

だが、ゲーム開発者目線で見ると、今後もアーカイブ活動を続けるにあたっては、ゲームの収集などとは別の大きな問題があるのだという。

では、その問題とはいったいどんなことなのか? 20年以上にわたりゲーム開発を続ける、あるメーカーのベテランプロデューサーに、匿名を条件にお話を伺った。

ネットワーク対応型ゲームのアーカイブの難しさ

昨今のゲームは、家庭用でもスマホ用でもアーケード(ゲームセンター)用でも、そのほとんどがネットワークに対応している。ネットワーク対応型のゲームは、一度サービスを終了させてしまうと、サーバーの再構築などが困難になるため、再び元の状態に戻すのはほぼ不可能となってしまう。

「サービスが終了してしまうと、やはり現場のプロデューサーやディレクターは、みんな悲しい思いをします。個人的には、ガラケー時代(※)のゲームがすっかり忘れ去られているのがつらいですね。攻略本とかも作られず、自分たちの爪あとが何も残らないというのは、やっぱり寂しいですよ」(プロデューサー氏)

※筆者補足:プロデューサー氏は、モバゲーやGREEがサービスを開始する以前のガラケー時代から、携帯電話用のアプリゲームを多数開発している。

そこで、最近のスマホ用ゲームでは、サービス終了後もスタンドアローンでずっと遊べるよう、アップデートをかけたうえでサービスを閉じるケースが増え、ユーザーにもその配慮が徐々に認知されつつあるという。

「ただし、スタンドアローンでも遊べるようにするためには、プログラムを書き換えたり、サーバーを切り替えるためのコストも当然かかりますから、すべてのメーカーが実施するとは限りません」(同氏)

また、信じられないことに、同氏によるとサービスを終了したスマホ用ゲームのなかには、キャラクターの画像データだけを取り出して、中国や韓国のメーカーに売ったり、ソースも含めて丸ごと売却してしまうケースもあるとのこと。

「画像やソースを買ったメーカーでは、それを元にしてまったく別のゲームに作り変えてから、新作として配信するんです。言わば、一種のリサイクルですね」(同氏)

リサイクルと言えば確かに聞こえはいいが、ゲームアーカイブという観点から見れば、実に由々しき問題だ。

筆者の取材に応じてくれたプロデューサー氏(筆者撮影)
筆者の取材に応じてくれたプロデューサー氏(筆者撮影)

作品への愛着、こだわりがない作り手が急増

サービスが終了した結果、スタッフクレジットが表示されなくなったり、自身が手塩にかけて作った作品が原型をとどめたまま、世間一般に知ってもらう機会を永久に失ってしまうのは、開発者としては実に寂しい限りだろう。「私は過去に、こういうゲームを作りました」と誰かに教えようとしても、すでに現物がこの世に存在せず、その中身を十分に伝えることができないケースもあり得るという悲しさは、察して余りある。

では、メーカーあるいは配信元のパブリッシャーにおいて、開発者スタッフの名前や実績を後世に残すべく、スタッフクレジットもゲーム内データの一種として、アーカイブ化を率先して行う動きはあるのだろうか?

「スタッフクレジットは、パブリッシャーとの契約時点で『一切出さない』と決めるケースが実はかなりあります。パブリッシャー側では、できればスタッフクレジットを入れようとは思っていても、それを作るコストが発生するのを嫌うことがありますし、そもそもクレジットを作ろう、残そうという意識自体があまりない人もいるんです」(プロデューサー氏)

スタッフクレジットが出ないことや、サービス終了後に自身の作品がこの世から消えることに対して強く不安を持つゲーム開発者は、BGMや効果音を作曲するサウンドコンポーザー(作曲家)に特に多いという。

「サウンド制作の方からは、『曲の買い取り契約はやめてほしい』『サービス終了後、自分が作った曲を聴いてもらえる機会がなくなるのはつらい』というお話はよく聞きますね。でも、メーカーとの力関係から、実質的には買い取り契約しかなく、作曲者にも商業的な権利を与えるような契約はほとんどありません」(同氏)

Nintendo Switch Onlineのトップ画面より。現行のプラットフォームで古いタイトルを再配信する仕組みは「アーカイブを実現をさせるための答えのひとつでしょう」とプロデューサー氏は語る(筆者撮影)
Nintendo Switch Onlineのトップ画面より。現行のプラットフォームで古いタイトルを再配信する仕組みは「アーカイブを実現をさせるための答えのひとつでしょう」とプロデューサー氏は語る(筆者撮影)

さらにプロデューサー氏は、ゲーム開発の現場においては、もうひとつの大きな問題があると指摘する。

「これは私の個人的な考えですが、最近の若いゲーム開発者は、自身の作品に対する愛着がかなり薄いように感じます。ただ言われたことしかやらず、頼まれたものしか作らない人が増えたように思いますし、本来クリエイターであるはずなのに、ゲームを作ること自体にそれほど価値を見いだせていない人が、かなり多い気がします。

 その結果、『もしビジネスに失敗してサービスが終了しても、自分の名前は残らないから別にいいや』とクレジットに対する意識が低く、そこに載ることに価値を見いだせない人も普通に見掛けるようになりました。なかには、『自分の名前を残したいから、スマホ用だけじゃなくて家庭用ゲームも作りたい』という若手もいますが、少数派ですね。

 ソーシャルゲームが人気になってからは、関わる人やものがいろいろと増えたため、自分が作ったものに対する関心や意識が薄れてしまったのかもしれません。今はこちらのほうが、かなりリアルな問題だと思います」(同氏)

当のゲーム開発者にも、自身の名前が残らなくなることに対して、不安や危機感がない若手が増えているとは……。もしこのまま自身の作品に対する愛着を持たず、アーカイブに関心が向かない開発者が増え続けた結果、アーカイブ活動が再び停滞するようなことになったら一大事だ。

「私としては、アーカイブをやっていただけるとうれしいですし、ほかのクリエイターにとっても、いろいろなゲームをアーカイブしておくことで勉強ができるのでありがたいと思います。私個人の考えでは、各企業に任せるだけではアーカイブの実現は無理だと思いますので、例えば行政とか、CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)などの業界団体が中心になって動くほうがいいでしょうね。そうしなければ、みんなでやろうという流れはおそらくできないでしょう。

 『ゲームは文化だ』と言いたいのであれば、やはり行政や業界団体とかがアーカイブ活動をやるべきです」(同氏)

産業面でも文化面でも、ゲームの恒久的なアーカイブ活動を実現させるには、はたしてどうすればいいのか? 今後も機会があれば、ゲームアーカイブに関する諸問題と、その解決方法・事例などをぜひご紹介していきたいと思う。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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