「100万円が消えた」 新札の対応に苦慮するゲームセンター
7月に新札が発行されてから2か月あまり。各地のゲームセンターでは、両替機の紙幣識別機を交換するのか、あるいは両替機ごと買い替えるのか、その対応に今なお追われている。
今も昔も、ゲームセンターにとって両替機は必要不可欠な存在である。はたして、今回の新札の発行によって、現場ではどんな影響が出ているのだろうか?
個人経営の店舗では極めて大きな負担に
大手オペレーター(※ゲームセンターの経営会社)で「モーリーファンタジー」などの店舗を経営するイオンファンタジーの広報に取材したところ、同社では今月の時点で両替機、およびメダル貸出機は全店舗で最低1台以上の新札対応が完了しており、年内に全台の対応が完了する予定だという。
紙幣識別機の交換、または両替機の買い替え費用は負担になっているかも尋ねたところ「実務の手間、コスト共に負担であることは間違いありません」(同社広報)とのことだった。
それでも「あらかじめ計画に織り込んでおり、業績に対する大きな影響はございません。おかげさまで、8月度の国内事業は過去最高の売上を記録しております」(同)と、経営面で特に問題ない旨の回答をいただいた。
(参考リンク:イオンファンタジーのホームページ)
・「2025年2月期8月度の売上概況」(※PDF形式)
一方、個人経営の店舗では、新札の対応でたいへんな苦労を強いられている。
岡山県倉敷市にあるゲームセンター「ファンタジスタ」では、現時点で新札の対応がまったくできていない。店長の大島幸次郎氏によると、昨年のうちに注文した新しい両替機は店に届いたものの、肝心の新札対応の紙幣識別機が入っておらず、交換はまだ「順番待ち」の状況だというのだ。
実は、新札の発行直前のタイミングで両替機を注文すれば「すぐに納品されていたと思います」と大島店長は言う。では、なぜ昨年の段階で注文を決めたのか? そこには深い理由があった。
「新札に対応した両替機は、発行直前のタイミングになると入手が困難になると予想され、また値上がりが確実との情報もあったので早めに注文しました。ところが、紙幣識別機の供給が追い付いていないそうで、現時点で当店では新札への対応ができていない状況です。
結果的には、両替機を新札の発行直前に購入したほうが早く対応できました。ですが、両替機の価格が上がったので、どちらの判断が良かったかは難しいところですね」(大島店長)
2022年4月に掲載した拙稿「新500円玉の対応に苦慮するゲーセン さらに待ち受ける『2024年問題』とは」でも紹介したように、ゲームセンターにとって新札や新硬貨の対応は、単なる機械の「交換」の範ちゅうを超えた「負担」となる。
筆者が某地方のオペレーターに取材したところ、紙幣識別機を交換すると1台につき約10~15万円の費用が掛かるという。
「ファンタジスタ」で使用していた両替機は、残念なことにメーカーが紙幣識別機の交換を実施しない機種であったため、新品を買わざるを得ない状況になってしまった。
「比較的新しい両替機を使用している店であれば、紙幣識別機の交換だけで済むのですが、当店のようにまるごと買い替えとなると非常に厳しいですね。金額で言うと100万円ほど、およそ半月分の売上が消えたことになります」(大島店長)
「投資したくない」のに投資せざるを得ない理由
電子マネー決済システムがゲームセンターにも広く普及した現在でも、100円玉や千円札専用のゲーム機類は、ごく当たり前に存在する。またオペレーションの都合上、ほとんどの店舗ではスタッフの手作業だけでは対応しきれないため、両替機なしでの営業は「あり得ない」ことだ。
「新札は手両替で対応しています。今はまだ大丈夫ですが、長引くと売上のロスにつながる恐れもあるので、早く供給が追い付いてほしいと願っています」(大島店長)
加えて、大島店長は「両替機は直接売上につながらないので、出来るだけ投資はしたくないのですが、お客様の利便性を考えると対応しないわけにはいきません」と話し、前述の地方オペレーターも「売上が上がる類の投資ではないので、単純に負担でしかありません」と口をそろえた。
どこの店でも、両替機には「投資したくない」のが偽らざる本音なのである。
「新札対応補助金」導入の検討を
筆者が都内を中心に、定期的に足を運ぶゲームセンターの対応状況を10軒ほど調べてみたが、本稿の執筆時点で両替機がすべて新札に対応している所もあれば、まったく手付かずの所もあり、店舗によってバラバラだった。
さらに、いくつかの店ではビデオゲームコーナーの両替機のみ、新札に対応していないことに気が付いた。プライズ(景品)ゲームなど売上が多いコーナーを優先して対応し、逆に少ない所は投資を控えたのだろう。
ある都内の個人経営店では、すべての両替機で新札が使えるようになってはいたものの、以前まで数十台あったビデオゲームを撤去し、その代わりにプライズゲームの台数を増やしていた。両替機への投資を手早く回収するため、あまり人気のない、もしくは収益性の低いビデオゲームのオペレーションに見切りをつけたのかもしれない。
ずっと以前から「必要経費」になるのはわかっていたとはいえ、ゲームセンターは新札の発行によって大きな負担を強いられている。特に、経営規模の小さな店舗では電気代の高騰や、コロナ禍の最中に受けた融資の返済にも追われ、新作ゲームやサービスに資金を回すのがますます難しくなっている。
今からでも遅くはない。ゲームセンターに限った話ではないが、政府は新札対応の両替機の購入、または改造を実施した店舗に補助金を出す制度を導入してはどうだろうか。