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2022年『紅白歌合戦』・4つのポイント──アニメ、非ジャニーズ、K-POP、ジェンダーギャップ

松谷創一郎ジャーナリスト
2022年6月18日、韓国・ソウルでのドリームコンサートにおけるIVE。(写真:REX/アフロ)

 昨日、73回目となる『NHK 紅白歌合戦』の出場者が発表された。それぞれ21組ずつ42組、さらに来年から休養する予定の氷川きよしが特別企画で出演することとなった。

 ただ、出演者はこれで全員ではないはずだ。たとえば紅白のチームに割り振られるメンバーは昨年よりも1組ずつ少ない。今後、企画枠も含めて徐々にラインナップが揃っていくはずだ。

 よって、現状名前が見られないback numberやYOASOBI、今年大ブレイクしたなとりやTani Yuuki、XG、そして昨年の『紅白』でもっとも注目された藤井風などの出演が期待されるところだ。

 現段階でも、今年の『紅白』にはさまざまな特徴がすでに見られる。ここでは4つのポイントについて考えていこう。

筆者作成。
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アニメ関連曲の大ヒット

 今年の『紅白』でもっとも注目されるひとつは、やはり「ウタ」の登場だろう。と言っても、これは興行収入180億円を超す大ヒットとなった映画『ONE PIECE FILM RED』に登場するオリジナルキャラクターだ。作中で歌うシーンも多く見られるが、この歌の部分を担当しているのが一昨年から「うっせぇわ」などのヒットを続けるAdoである。

 Adoはこの映画の主題歌「新時代」で今年も大ヒットを飛ばしたが、今回の『紅白』ではあくまでも「ウタ」名義での出演だ。アニメのキャラクターが出場するのは、番組史上はじめてのことだという。それはいまも顔出しをしていないAdoが、会場に姿を現して歌わないことを示唆しているのだろう。

 ただ、この企画はAdoが顔出しをしない前提で組まれた可能性が高く、ARなどを絡めた力の入った演出が期待される。

King GnuやAimerも

 アニメ主題歌が大ヒットする傾向は、近年非常に目立っている。記憶の新しいところでは、『鬼滅の刃』のテレビ・映画版の主題歌を担当したLiSAがそうだった。Ado(ウタ)以外にも、今年『紅白』に出場する3組もアニメの主題歌で大ヒットとなった。

 King Gnuの「一途」と「逆夢」は『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌とエンディング曲、Aimerの「残響散歌」は『鬼滅の刃 遊郭編』の主題歌、そしてOfficial髭男dism「ミックスナッツ」は『SPY×FAMILY』のオープニング曲だ。

 90年代には地上波ドラマの主題歌が大ヒットするケースが目立ったが、いまやタイアップによるヒットの中心は複数の動画配信サービスで観られるアニメにフェイズを移している。

 実際、出場するこれら4組の曲は、いずれも今年Spotify Japanチャートで1位に輝いている。ストリーミングの再生回数は、アニメ人気の影響だけではなく、曲の強度がなければ増えることはない。これらはしっかりとヒットを出し、『紅白』制作陣もそれをちゃんと認識していたことがわかる。

筆者作成。
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シーンを変えたJO1とBE:FIRST

 もうひとつの今年の『紅白』のポイントは、非ジャニーズのボーイズグループの出演だ。具体的にはJO1とBE:FIRSTだ。日本ではジャニーズ以外のグループがヒットしにくい傾向が続いていたが、この両グループは確実にヒットを積み上げてきた。

 ジャニーズと異なるのは、端的に言ってストリーミング配信の有無だ。ジャニーズは、いまも一部のグループ(Travis JapanやKis-My-Ft2など)以外は配信されていない。新しい音楽メディアを当たり前のように使ったJO1とBE:FIRSTが、動きの遅い巨人の横をさっと追い越していったという印象だ。

 JO1は、韓国最大手の制作会社CJ ENMと吉本興業が手掛けるグループ。BE:FIRSTは、AAAのSKY-HI(日高光啓)が設立したBMSGから生まれた。ともにプロセスが公開されるオーディションで選ばれたこともあり、その実力はたしかなものだ。

弱まるジャニーズ忖度

 だが、JO1とBE:FIRSTは、テレビ朝日の『ミュージックステーション』にいまも出演できていないなど、その活動はかならずしも十全ではない(JO1メンバーの白岩瑠姫とBE:FIRSTを手掛けた日高光啓が、ともに元ジャニーズJr.だったことも関係しているのかもしれない)。

 しかしTBSの『CDTV ライブ! ライブ!』や、フジテレビの音楽特番、そしてこの『紅白歌合戦』のように、ジャニーズに忖度する傾向は徐々に弱まりつつある。

 その一方で、ジャニーズは今年も6組が出場する。この5年ほどは5~6組で推移しており、今年極端に変動があったわけではない。メンバー3人が脱退するKing & Princeも順当に選ばれた。その一方で、EXILEや三代目 J Soul Brothersなど2007年から出場が続いていたLDH勢の姿が消えた。

 今年の『紅白』の人選は、こうしたボーイズグループのシーンの変化を感じさせる。

K-POP関連が10%以上

 3つ目のポイントは、K-POP関連のグループだ。具体的には、TWICE、IVE、LE SSERAFIMの3組と、K-POPのプロダクションが日本で手掛けるNiziUと前出のJO1である。それは全体の10%を超すほどだ。ガールズグループだけを見ても、J-POPからはPerfume以外では乃木坂46と日向坂46のみ。K-POP勢はそれを上回ったことになる。

 そこで注目されるのは、やはり3組のガールズグループだろう。そこには明確な共通点もある。メンバーにそれぞれ日本人が含まれていることだ。IVEのレイ、LE SSERAFIMのサクラ(宮脇咲良)とカズハ、そしてTWICEのミナ・サナ・モモがそうだ。3グループ合わせて計20人中6人、つまり3割が日本人ということになる。これも出場の後押しになったのだろう。

 新人のIVEと、まだ日本デビューもしていないLE SSERAFIMの出場は意外でもあった。ただ、この両グループのグローバルヒットを考えると、TWICEも含めたこの3組が揃うのは非常に豪華なことは間違いない。

 昨年12月にデビューしたIVEは、その後発表した2曲も含めYouTubeのミュージックビデオの視聴回数がいずれも1億を超える。とくに最新曲「After LIKE」は、驚くほどのヒットだ。グロリア・ゲイナーのディスコナンバー「恋のサバイバル(I Will Survive)」をサンプリングしたこの曲は、Billboardのグローバルチャートで20位、Spotifyでも48位に入ったほどだ。

IZ*ONEだった4人

 BTSの所属するHYBEから5月に鳴り物入りでデビューしたLE SSERAFIM(ル・セラフィム)も、デビュー曲 ’FEARLESS’から大ヒットを続け、先月の新曲’ANTIFRAGILE’も順調に推移している。両グループは、あっという間にK-POPのトップの仲間入りをした印象だ。

 IVEとLE SSERAFIMには、もうひとつ共通点がある。それはIVEのユジンとウォニョン、LE SSERAFIMのサクラとチェウォンの4人が、昨年4月まで期間限定グループ・IZ*ONEのメンバーとしてともに活動していたことだ。

 IZ*ONEは、実は2019年に『紅白』出場が確実視されていた。が、直前にグループにアクシデントが生じ、土壇場でキャンセルになったと見られる。4人はIZ*ONEで実現できなかった仕事を、3年越しで成し遂げたことになる。

 4人が舞台で顔をそろえるシーンが見られるかはわからないが、新型コロナによって日本活動ができないまま解散にいたったIZ*ONEのファンにとっては、IVEとLE SSERAFIMの『紅白』同時出場には、万感の思いがあるだろう。

ジェンダーギャップを埋めてきた“紅白”

 ここまで、アニメとの関係、非ジャニーズのボーイズグループ、そしてK-POPの勢いと3つのポイントを見てきた。

 最後にひとつ挙げるならば、昨年から『紅白』が打ち出しつつあるジェンダー区分の見直しがあるだろう。それは赤と白がグラデーションとなったロゴにも表されているが、今年は女性メンバーがひとりいるSEKAI NO OWARIが紅組で出場するなど、そこはなんらかの意図が込められているようだ。

 その詳細は当日になってみなければわからないが、これまでの『紅白』は音楽人気のジェンダーギャップを埋める機能を果たしてきた。筆者が昨年明らかにしたように、日本のポピュラー音楽の人気は概ね男性アーティスト6:女性アーティスト4の比率だ。

筆者作成。
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 「歌合戦」の名目で出演者がほぼ半々だった『紅白』は、そうしたギャップを(おそらく意図せず)解消する役割を果たしてきた(「紅白が『男女同数』を止めたら何が起きる? 民放特番の男女比に見る“衝撃の事実”《女性比率はMステ32%、FNS歌謡祭37%》」2021年12月28日)。

 学校のクラス名簿でも男女混合の現在、たしかに紅/白の区分は古臭いものに感じられる。だが、『紅白』でそれを単純に無効化すれば反動として男性アーティストの増加が生じる可能性もあるということだ。

 以上を踏まえて、『紅白』がどのような演出を施すのかに注目したい。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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