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到来した“ボーイズグループ新時代”──競い合うJO1、BE:FIRST、K-POP、ジャニーズ

松谷創一郎ジャーナリスト
タワーレコード池袋店で大きく扱われているJO1(2021年8月30日/筆者撮影)

チャート上位4組がボーイズグループ

 日本のメイン音楽チャートであるビルボードHot100、その8月25日付の結果はなんとも興味深いものだった。上位5組中4組がボーイズグループだったからだ。

 1位になったのはJO1「REAL」、続いて最近オーディションで生まれたばかりのBE:FIRSTのプレデビュー曲「Shining One」が初登場で2位に入った。

 3位は、ジャニーズ事務所のSixTONES「マスカラ」が先週から2ランクダウンで留まり、4位のback numberを挟んで、5位にはBTSの「Permission to Dance」が7週連続でトップ10圏内を維持している。

 ジャニーズ一強が長らく続いてきたJ-POPのボーイズグループ状況は、ここに来て大きく変わろうとしている。さまざまな方向からジャニーズのコンペティターが登場し、まさに“ボーイズグループ新時代”といった様相を呈し始めた。

オーディション発のJO1とBE:FIRST

 今回5位圏内に入った4組は、それぞれ出自が異なる。

 1位のJO1は、視聴者参加型のオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN』から生まれた11人組だ。番組を制作した韓国のCJ ENMと吉本興業が手を組んで設立した、LAPONEエンタテインメントが運営している。

 メンバー全員が日本出身だが、ダンスや楽曲などはK-POP色が強い。NiziUと同じくK-POPのノウハウと現地の人材を組み合わせた、いわば“K-POP日本版”といった存在だ(「“K-POP日本版”が意味すること」2020年9月28日)。また、今年は同番組シーズン2も開催され、弟分となる11人組のINIも年内のデビューを控えている。

 2位のBE:FIRSTは、SKY-HI(AAA)主催のオーディション「THE FIRST」から誕生したばかりの7人組だ。SKY-HIが設立したBMSGに所属している。

 長期の合宿など入念な審査をくぐり抜けてきた7人のパフォーマンスは、かなり高い水準に達している。SKY-HIがプロデュースした「Shining One」も、J-POPのメジャーシーンではこれまでなかなか見られなかった質のものだ(「BE:FIRSTとSKY-HIが見る未来」2021年8月25日)。

SixTONESのJ-POPとBTSのK-POP

 3位のSixTONESは、デビューから1年半ほどでジャニーズ事務所でも一、二を争うほどの人気グループとなった6人組だ。

 デビュー曲はX JAPAN・YOSHIKI提供だったが、今回の「マスカラ」はKing Gnuの常田大希によるもの。いっしょにデビューしたSnow Manが先進的なダンスミュージックに向かっているのに対し、SixTONESはサビをユニゾンで歌う日本的なグループアイドル路線を堅持している(「嵐が後輩たちに残したもの。SixTONESとSnow Manの行方」2021年1月27日)。

 5位のBTSは、言わずと知れたK-POPのトップアーティストだ。昨年「Dynamite」で世界的な大ヒットとなったが、今年5月の「Butter」に続いて送り出したのが、この「Permission to Dance」だ。この3曲すべてが本家ビルボードでも1位に輝いた。

 今回はイギリスのポップシンガーであるエド・シーランによる作曲で、前2作と同じく全編英語詞。ダンスそのものをモチーフとしているが、歌を中心とした聴きやすいポップスだ。なお、日本のビルボードチャートでは依然として「Butter」が7位、「Dynamite」が12位に入っており、BTSの人気のピークは続いている(「日向坂46がBTSに惨敗した日」2021年6月8日)。

“新時代”を導いたK-POP

 K-POP日本版、非ジャニーズ、ジャニーズ、そしてK-POP──それぞれ異なる出自のグループがチャート上位で競い合っている。日本のボーイズグループ状況は急激に活性化し始めた。

 さらにひとつ補足すれば、ここには登場していないEXILE TRIBE擁するLDHにも大きな動きが見られる。

 つい最近、LDHは大型オーディション「iCON Z ~Dreams For Children」を開始した。これは、ボーイズグループ・男性ソロ歌手・ガールズグループの3つを生むためのプロジェクトだ(ガールズグループはBTSのHYBEとの共同プロデュースとなる)。K-POPに押されて一時の人気に陰りが見える同社にとって、この企画は起死回生を狙ったものだと考えられる。

 このことからもわかるように、そこでポイントとなるのはやはりK-POPだ。JO1とBTSが大人気なように、K-POPは内閉化が著しかったJ-POPに洋楽とは異なる新たな外部性(刺激)をもたらした。欧米ほど遠くなく、かと言ってJ-POPでもない──この活性化が“ボーイズグループ新時代”を導いている。

インターネット時代のCDセールス

 この4組は、音楽だけでなくプロモーションや販売戦略も異なる。そこでポイントとなるのは、廃れゆくメディアであるCDの捉え方だ。

 JO1は、ストリーミングやMV配信、音源販売もしているが、CDセールスにも力を入れている。楽曲やパフォーマンスはほぼK-POPだが、海外と比較すると依然として大きなCD売上が見込める日本のマーケットを取り逃がさない戦略だ。加えて、積極的に地上波のバラエティ番組に出演して認知度を高めることにも余念がない。日韓の大手プロダクションが手を組んだだけあり、K-POPとJ-POPのハイブリッドな戦略だ。

 BE:FIRSTはまだ正式デビューしておらず、「Shining One」もプレデビュー曲という位置づけだ。今回はCD販売をしておらず配信のみで曲が流通している。SixTONESやNiziUなどのように配信のみのプレデビューを経て、CDセールスを正式デビューとする展開になると見られる。この手法は、CD売上が依然として大きい日本のマーケットにおける独自の方法論になりつつある。

 ジャニーズのSixTONESは、いまもCDセールスを中心としている。YouTubeでMVは配信しているが、ストリーミング配信や音源販売はしていない。「ジャニーズをデジタルに放つ新世代。」とのキャッチコピーでプレデビューしたSixTONESだったが、CDという古いメディアを使った戦略に固執しており、さほど「デジタルに放つ」とは言えない存在だ。

 BTSの「Permission to Dance」は、「Butter」のカップリングとして発表された曲だ。海外版のCDはいちおう存在するが、ストリーミングなど配信がその中心だ。CD売上が全体の1~2割ほどの海外では、もはやCDは熱心なファン向けのアイテムでしかない。

 K-POPは00年代後半頃からYouTubeでMVを配信するなど、グローバルに向けた展開を早くからしてきた。インターネット時代の来たるべきマーケットに率先して乗り出し、その投資の結果として先行者利益を享受し続けている。

動きの遅い巨人・ジャニーズ

 こうして見ると、当然のことながらストリーミングや音源販売などに乗り出さないジャニーズ事務所の遅れが際立つ。現在は一部のグループでストリーミングを始めているが、それは極めて限定的だ。ビルボードの指標でもCDセールスの比重は年々弱められており、SixTONESも2週は上位に来たがCDセールスが収まる今週以降はかなりランクを下げると予想される。

 現状はジャニーズファンだけがCDから音源をリッピングして、それをスマートフォンにいちいち入れる面倒を課せられている。こうした状況に対し、少なくないファンが不満を漏らす状況も散見される。遅かれ早かれストリーミング等の解禁はなされるだろうが、ここ数年は時間経過とともに入れ替わっていく若者を取り逃しているだけになっている。

 逆に言えば、こうしたジャニーズの新しいデジタルメディア対応の遅れによって、JO1やBE:FIRST、そしてBTSなどK-POPが優位に立てているとも言える。動きの遅い巨人が、足の速い新参者に追い抜かれようとしているのだ。こうしたメディア戦略の違いによっても“ボーイズグループ新時代”が生じたのである。

J-POPの明るい未来としての“新時代”

 K-POPがもたらした外部性とインターネットメディア戦略──それによって生じた“ボーイズグループ新時代”は、今後さらにJ-POPを活性化させることになるはずだ。かつてはジャニーズの半ば独占市場だった状況に、互いに切磋琢磨する活性化が生じ、さらに変化していくことが予想される。

 今後の注目は、ここまで触れてこなかったグループがどのようにこの上位層に食い込んでくるかだろう。

 たとえば、JO1を生んだオーディション『PRODUCE 101 JAPAN』に参加したメンバーで構成されるORβITOWV、元ジャニーズJr.の7ORDER、そして年内にデビュー予定のJO1の弟分・INIなどがそうだ。加えて、キャリアの長いDa-iCE超特急も安定した人気を維持している。

 振り返れば、マーケットが右肩下がりのなかで日本のポピュラー音楽シーンは00年代後半から長い停滞に入っていた。歌謡曲との差異化として80年代末に生まれたブランド・J-POPにも、変化の乏しいこの状況によってまるで演歌のような雰囲気が漂い始めていた。

 そうしたなかで到来したのが“ボーイズグループ新時代”だ。それは、久しぶりに外部性を獲得したJ-POPが明るい未来を切り開こうとする動きにほかならない。

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ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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