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海上自衛隊「いずも」をドローン撮影した張本人に直撃してみた!

山田敏弘国際情勢アナリスト/国際ジャーナリスト
問題の動画を撮影したと見られる这是我小号4のBilibili動画のページ

神奈川県横須賀市の海上自衛隊横須賀基地に停泊する海上自衛隊の護衛艦「いずも」が、中国人らしき人物によってドローンで撮影され、大きな問題になったのは記憶に新しい。

この事件が発覚すると、木原稔防衛大臣は「悪意をもって加工、捏造(ねつぞう)されたものである可能性を含め、現在分析中だ」と述べ、「調査・分析を進めるとともに、関係機関と緊密に連携しつつ、基地警備に万全を期す」と語った。

分析を行った防衛省は5月9日、「当該映像は実際に撮影された可能性が高いとの認識に至った」との見方を明らかにした。これは深刻な話で、仮にドローンが爆弾や生物兵器などを搭載して自衛隊基地にでも突っ込んだら、とんでもない大惨事を起こす大規模テロになる可能性もある。

当初、日本の専門家などが「いずも」に艦番号が見えないとして「この映像は捏造の可能性が高い」「AIで作れる」などと感想を述べていたが、筆者は最初からこの映像は捏造ではないとみてきた。事実、筆者が運営するYouTubeの「スパイチャンネル 〜山田敏弘〜」でもそれについては説明しているので、ご興味のある方はぜひご視聴いただきたい。

護衛艦「いずも」を撮影したドローン動画
護衛艦「いずも」を撮影したドローン動画

そもそも「いずも」のほかの画像や動画を見てみると、艦番号が書かれていない時もあるので、艦番号の有無によって、この動画が捏造かどうかを判断することはできない。

さらに言うと、このクオリティの動画をAIで作るのはかなり手間がかかるし、簡単ではない。AIでの動画生成には、かなりのコンピューター処理能力が必要で、それを確保するにはそこそこコストもかかるし、生成に時間もかかる。それをしてまでこのような動画を捏造するというのは考えにくい。

筆者の分析では、このドローン動画は、「いずも」がJR横須賀駅の近くにある海上自衛隊横須賀地方総監部の逸見岸壁に停泊していた際に撮影され、しかも「いずも」や周囲の建物の影などを見ると、夕方前の午後に撮影されていたことが見えてくる。

「いずも」が停泊していて撮影された場所(Google Map より)
「いずも」が停泊していて撮影された場所(Google Map より)

この動画を撮影したのは、中国の動画投稿サイト「Bilibili動画」で「这是我小号4」というアカウントの人物だった。このアカウントの投稿などを見ていくと、这是我小号4は、ドローンで撮影した「いずも」の動画を3月にアップしたが、サイト運営側から動画を削除されている。这是我小号4が運営側に連絡をしても埒が明かず、結局、動画内に「旭日旗」が映っていることで動画が削除された可能性があると考えたようで、動画内の「旭日旗」を「うんこ」の絵文字で隠して再投稿している。

さらに、「いずも」を撮影したスチル写真も2点ほど投稿していたので、それだけでもこの動画が本物である可能性は高いと考えられた。

この動きを見ると、おそらく、当初この動画を投稿した段階では、中国政府や中国の情報機関が背後にいたとは考えにくい。「旭日旗」を掲載して削除されてしまうようなヘマはやらないと考えられるからだ。ただこの動画が、日本政府や防衛省などを巻き込んだ騒動になった時点で、中国政府関係者が、这是我小号4に接触している可能性はある。

日本政府がこのドローン映像を本物だと発表してすぐ、这是我小号4は、自身のXで、「亲爱的政治家の皆さん、お疲れさまです。私の写真作品について会議を開いてくださってありがとうございます」と挑発的な投稿を行った。「亲爱的」とは「親愛なる」という意味だ。

この投稿を受けて、筆者は这是我小号4に接触を試みた。「なぜ撮影して公開したのですか??」と質問を投げると、こう回答が返ってきた。

「ただ楽しむために」

日本政府も、自衛隊も、ナメられたものである。もっとも、大惨事になる前に、自衛隊のセキュリティの穴を教えてくれたのだから、这是我小号4には感謝すらしたほうがいいのかもしれないが。

自衛隊関係者は以前、筆者に「実はドローンは日本各地の自衛隊基地に飛来してきている」と話していた。しかも誰が飛ばしているのかがわからないと言っていた。この問題は遅かれ早かれ対処すべきものだったのである。

実は、日本には「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」が存在し、防衛大臣が指定する対象防衛関係施設の敷地や区域、その周囲の約300メートルの上空でのドローンの飛行が禁止されている。だが今回のケースのように、撮影されていたことも気づかないケースでは法律も意味をなさない。

イスラエルのRAFAEL社の「ドローン・ドーム」公式サイト
イスラエルのRAFAEL社の「ドローン・ドーム」公式サイト

ではこうしたドローンの飛来を防ぐ術はないのか。一般的に、ドローンに対処する機器は存在する。例えば、監視カメラやレーダー、電波を受信するセンサー、ドローンの飛行音を拾うセンサーもある。それでドローンを検知したら、妨害電波を出したり、ネットなどで捕獲したり、ドローンの操作を乗っ取ることも可能だ。

さらに諸外国では、例えば、ドローンに対する防衛を行うイスラエル製の「ドローン・ドーム」や、電波を妨害するライフルのような形のジャミングガンなどもある。そういう機器を導入するのも手だろう。

国際情勢アナリスト/国際ジャーナリスト

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。 *連絡先:official.yamada.toshihiro@gmail.com

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