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30以上の虚偽の主張したのはどっち? 米大統領選討論会を主要メディアがファクトチェックした結果...

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

2024年の大統領選シーズン初の討論会が、27日にジョージア州アトランタで行われた。バイデン大統領とトランプ前大統領の直接対決は、2020年の大統領選以来4年ぶりとなった。

90分間で両者は、経済とインフレ、人工妊娠中絶、移民政策と南部の国境、中東とウクライナ情勢、デモクラシーなど多岐にわたり、互いに主張し合って火花を散らした。高齢による不安がささやかれるバイデン大統領は、声がかすれ所々で言葉に詰まる場も。

翌日、有権者を前にした集会でバイデン大統領は自ら、「以前ほど容易に歩けないしスムーズに話せないしうまく討論もできなくなった」と認めた。「しかし私は自分のやるべき仕事を知っている。真実の伝え方を知っている」と、トランプ氏より優れた候補者であると強調した。

ニューヨークタイムズなど米主要メディアは、この討論会ではバイデン大統領が苦戦し、トランプ氏が攻勢だったと報じた。

討論会を主催したCNNでも、この討論会の速報的な世論調査の結果、同様にトランプ氏の攻勢が伝えられた。有権者565人を対象に行った調査で、トランプ氏の方が良かったと答えた人が67%、バイデン氏の方が良かったと答えた人は33%と、トランプ氏のパフォーマンスへの評価が2倍近く上回った結果となった。

一方で、主張の「正確性」については心許無かったようだ。

資料やカンペの持ち込みが禁止され、ライブで行うこのような討論会は、間違った情報やミスリードがつきものだ。

今回の討論会についてCNNは独自のファクトチェックに基づき、「両者共に間違ったもしくは誤解を招く主張をした」と報じた。

「2020年の討論会同様に、トランプ氏による事実と異なるもしくはミスリードする主張の数はバイデン氏によるそれをはるかに上回った」とし、その数はトランプ氏が「30件以上」、バイデン氏が「少なくとも9件」という。

CNNによるファクトチェックの結果(一部)

◉トランプ氏が複数回発言した「バイデン政権が入国を許可した大量の移民がソーシャルセキュリティ(社会保障)、メディケアやメディケイド(低所得者向けの医療制度)を崩壊させている」という主張について

→誤り
「多くの不法移民は働き税金を払っており、それがソーシャルセキュリティやメディケアなどを強化している」

◉トランプ氏による「自分の政権下でテロはなかった」という主張について

→誤り
「2017年にニューヨークで8人が死亡した事件はISISを支援するテロ攻撃だったことなどの事実がある」


◉バイデン氏による、自身が大統領に就任した当時は「失業率は15%だった。(トランプ氏は)経済を壊滅させた。だから当時はインフレが起こらなかった」という発言について

→誤り
「2021年1月の失業率は6.4%だった。またトランプ政権で失業率が15%近く上昇したのは新型コロナのパンデミックによる影響」

参照
Trump made more than 30 false claims during CNN’s presidential debate — far more than Biden

このような大統領候補者による「間違った、もしくは誤解を招く主張」は今に始まったことではない。特にトランプ氏が多いというのは、以前からの御家芸のようなものなので筆者は驚いていない。さらに、筆者は2020年の大統領選のとき、ニューヨークで取材したある有権者が教えてくれたことを思い出したのだった。

「トランプ支持者はトランプについて真剣だが、彼の発言を文字通りに捉えていない。一方、反トランプ派は彼の発した一言一句が気に障る」

参照
「民主党に失望」した一般有権者(NYの中道派)が考える「勝敗シナリオ」とは?(2020年)

また討論会という場についても、筆者は普段から周りの有権者を見ていて思うことがある。それは、人々はすでにどちらの政党や候補者を支持するかを決めているから、討論会でどのような主張があったとしてもちょっとやそっとじゃ彼らの心は揺るがないということ。よってこのような討論会は、誰に投票するかを決めかねている、もしくはまだよくわからない有権者が、向こう4年間やっていけそう素質を持っているのはどちらかの候補者か、そのパフォーマンスを見て参考にする場の意味合いが大きいと思う。前述のCNNの世論調査でも、視聴した大多数は討論会が大統領選びにほとんど、あるいはまったく影響しなかったと答えたとある。

次回の討論会は9月10日の予定。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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