「民主党に失望」した一般有権者(NYの中道派)が考える「勝敗シナリオ」とは?
アメリカ大統領選の投開票日まであと2日に迫った。前回に引き続き、現地に住む人々に、選挙直前の様子や自身の政治的見解について聞いてみる。
本稿では、民主党の地盤であるニューヨーク州において、中道派の一般有権者に話を聞いた。彼は「決して支持はしていない」が、消極的な理由で「今年はおそらくトランプに投票するだろう」と話し、匿名を条件にインタビューに応じてくれた。
民主党の地盤NY、一般有権者(中道派)のリアルな声
(匿名の男性)Bさん・60代・リタイア
数年前にリタイアしたBさんは、大学時代に政治学の学位を取得し、生命保険会社でビジネス/保険数理アナリストとして活躍してきた。現在はニューヨーク市内の一軒家で、在宅勤務の妻と猫と共に、退職後の穏やかな生活を送っている。
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── Bさんの政治的スタンスをお聞かせいただけますか。
私は中道派*(Centrist)です。18歳で生まれて初めて登録したのは(当時は穏健だった)共和党でした。しかし2000年ごろを境に保守派が共和党を支配するようになってきたので、民主党支持に変更しました。
そんな私ですが、今年の大統領選ではどちらの候補者も支持していません。しかしあえて選ぶとするならば、渋々トランプ大統領を支持します。正直なところその理由は、民主党員への失望からです。
近年の民主党は左に激しく傾いており、私は再び政治的スペクトラム*の真ん中に置き去りにされているように感じています。
- 中道派と政治スペクトラム(政治思想の概念図ノーラン・チャート)
私はフラッキング(水圧破砕法を使った石油・天然ガスの採取)には異論がなく、グリーン・ニューディール(気候変動問題と経済格差問題に対処するための刺激策)のサポートには躊躇しています。警察予算の削減については、人種差別問題への具体的な対処になっていないと思います。
また私が必要だと思っているのは、政治的配慮を捨て、国にとっての最善の利益に注意を払うことです。私は移民の受け入れは反対しませんが、国境を管理するトランプ大統領の政策には賛成ですし、イランへの制裁も賛成です。イランの軍縮協定には賛成しません。
トランプのCovid-19対策は完璧ではなかったかもしれません。しかしこの国の広さと規模、政治構造を考えると、ほかの人が対策をしてもうまくやれたかどうかは疑問です。例えば、中国はウイルスの拡散防止のためにいくつかの地域を完全封鎖できたが、それは独裁的政治だからです。アメリカのような連邦共和国では、そのような即時の服従を人々に要求することはできません。
── トランプの政策でサポートしないものはありますか。
ツイッターにかじりついていることです。彼はあまりにも多くの時間をツイートに費やし、政策の発表をしたりしばしば矛盾した意見を述べたりして、人々を混乱に陥れています。もちろん一部の混乱はメディアの解釈と発信の仕方にも関係していますが、多くは自身の身から出た錆でもあると思います。
またトランプは、政府高官との関係にしばしば亀裂が入っているようです。私の妻は、トランプの失礼な言葉使いや態度に嫌気がさし、彼には投票しないと言っています。そのように言う妻に私は反論することはできません。なぜなら私も妻の見方に同意することが多いからです。
── 今年の大統領選が注目されているのは、そういう要素もやはり関係していますか。
そうですね。やはりトランプがいい意味でも悪い意味でも注目されていて、彼についての有権者の好き嫌いが激しく分かれているんです。
ニューヨークタイムズのコラムニスト、Maureen Dowd氏が以前、トランプに対する有権者の見方について、興味深い分析をしていました。
これはどういう意味かと言うと、トランプ氏はしばしば大袈裟な発言をしますよね。例えば、彼は4年前の自身の大統領就任式について、「歴史上もっとも多くの人々が参加した」というようなことを発言しました。
このような場合にDowdさんの解説によると、トランプ支持者は「はぁ、またトランプが大袈裟に言ってるよ」「何人がそこにいたかはそもそも重要じゃないよね」と聞き流します。一方で、反トランプ派の人たちは「これは正しくない、聞き捨てならない」と真剣に言葉尻を捉え、過去の就任式の参加数を調査して数字を比較し、この発言は嘘であると激怒します。
これはトランプ派と反トランプ派についての、とてもわかりやすい表現だと思います。
── 「隠れトランプ支持者」がメディアでよく話題になります。なぜ一部の人は隠れるのでしょうか?
私はある日、友人の1人に真剣な顔でこのように言われました。「トランパー(トランプ派)を公に表明している人が周りにいたら、交友関係から外した方がいい」と。これはとてもわかりやすい例です。
この国の一部では、彼の支持を表明することで家族関係や友情にヒビが入り、また時に嫌がらせを受けるなど自身や家族の安全性をも危険にさらす可能性も出てきます。
新聞のお悩み相談コラム「ディア・アビー」を読んでもわかります。保護者から「自分の子をトランプ派の親戚から離すべきか」という質問や、「息子が最近トランプ派を表明するTシャツを着て登校したら、学校から安全性を保証できないという連絡があった」などという相談が飛び交っています。
── 今年の大統領選、ズバリどちらが勝つと思いますか?
まったくわかりません。世論調査ではバイデンがリードしていますが、「隠れトランプ」の存在は否定できないので、調査通りだとは思っていません。
ただし、トランプがもし負けるとしたら前述のように有権者の好き嫌いがはっきり分かれているので、それが理由でしょう。もしバイデンが負けるとなると、これまで彼が述べた石油産業の変革とフラッキングについての言及が仇となったからだと、私は考えます。
(注:2回目の討論会で、バイデンは石油産業の変換の移行について述べた。また民主党指名を獲得するためにフラッキング禁止の移行を述べたが、後に「そのような発言はしていない」と主張)
トランプが再選するためのもっとも合理的なシナリオは、前回と同様に「全投票数では少なくても、エレクトラル・カレッジで大統領選を制する」ということです。(注:4年前、敗北したヒラリーは国民投票数で300万票、トランプより多かった)
さらに私はこのように考えます。有権者の注意がトランプの問題(マイナス点)に向けられている場合、有権者はバイデンに票を投じ、有権者の注意がバイデンの問題(マイナス点)に向けられている場合、トランプに票を投じます。
もう1つポイントは、バイデンに投票する人はバイデンを支持しているからではなく「トランプが嫌い」という理由が多いです。そして、これが大統領選にとって非常に重要な鍵になります。なぜなら多くの有権者は、反対派(消極的な理由)であればあるほど、(選挙へのモチベーションが足りないため)投票していないようですから。
私は11月3日に投票所で投票します。結果を待つとしましょう。
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(Interview and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止