Yahoo!ニュース

流行語大賞「インスタ映え」はクリスマスのグルメに影響を与えているのか?

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

クリスマスのグルメ

<新時代における宴会マナー。客と飲食店それぞれに絶対やってもらいたい2つのこと>でも述べましたが、忘年会も既に山場を超え、本日がクリスマス・イヴ、明日がクリスマスと、クリスマスムード一色となっています。

クリスマスには自宅で腕を奮って作った豪華な料理を堪能したり、百貨店やパティスリー、ホテルで予約して購入したクリスマスケーキを食べたり、レストランに訪れて特別なクリスマスコースを楽しんだりするなど、普段よりもワンランク上の食の行動をとる人が多いのではないでしょうか。

「インスタ映え」が流行語大賞

こういったクリスマスのグルメには見た目も印象的なものが多いですが、「インスタ映え」という言葉が今年の「2017 ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれたのは記憶に新しいところです。

「インスタ映え」はクリスマスのグルメにも、何かしらの影響を与えているのでしょうか。

また、「インスタ映え」が食品ロスにつながっているという指摘も散見されますが、どうなのでしょうか。

「インスタ映え」がクリスマスのグルメにどういった影響を与えているのか、食品ロスにつながっているのかについて考察します。

クリスマスのスイーツ

<ある2つのキーワードで語る一流ホテルのクリスマススイーツ2017年>でも色々なものを紹介しましたが、クリスマスのスイーツは全体的に見栄えするものが多く、ボリュームが大きいものもあります。

パティスリーやケーキショップ、百貨店やホテル、スーパーやコンビニエンスストアにとってクリスマスは大きな商戦なので、非常に力が入っています。たくさんのクリスマスケーキが販売されている中で他よりも目立ち、消費者から気に留めてもらい、選択してもらうためには、見た目がとても重要視されるのです。

しかし、見た目が重要な要素となっているのは、「インスタ映え」が年間大賞に選ばれたからではありません。「インスタ映え」という言葉が発明される何年も前から、クリスマスのスイーツは見た目が重要となっており、可愛らしかったり、美しかったりするものが作られているのです。

<どこよりも早い紅葉のクリスマスケーキ発表会2016年>を読めば分かるように、2016年では既に十分に見た目を意識したクリスマスケーキとなっています。

2015年11月には<「オトナカワイイ」デザートブッフェの時代へ>、2016年6月には<いざ!デザートブッフェは撮る時代へ>で紹介したように、デザートブッフェではだいぶ前から撮る時代になっているのです。

また、<「マツコの知らない世界」炎上事件の最終章。本当に「インスタ映えによる食べ残し」は起きているのか?>で、「インスタ映え」がそのまま食べ残しにつながっているということに疑問を持っていることを述べました。

それと同じように、「インスタ映え」するクリスマスのスイーツが食品ロスを助長しているという点についても、疑問があります。

大きなクリスマスケーキも何年も前から存在していますし、そういったケーキは特注で台数限定なので、食品ロスに大きく関与しているとも思えません。しかも、このような特別なクリスマスケーキは高いだけに、撮影だけして食べないで捨てる人など、ほとんどいないでしょう。

最近の傾向ではむしろ、ブッシュ ド ノエルでも1人用のプティガトーを用意したりと、少人数で楽しめたりすることが配慮されています。

「インスタ映え」がクリスマスのスイーツに及ぼす影響はあまり感じられず、食品ロスともほとんど関係していないのではないでしょうか。

クリスマスのレストラン

多くのレストランではクリスマスの時期に特別コースを提供します。その期間は3日だけであったり、1週間や2週間であったりとレストランによってバラバラですが、クリスマスコースを提供することだけはほぼ確かでしょう。

普段よりも品数を増やしたり、食材をグレードアップしたり、ワインやお土産を付けたりして、値段もその分だけ上げています。値段を上げても客は訪れてくれる時期なので、普段と全く同じことをしているはずはなく、特別メニューを提供するのです。

もともとレストランでは、それも、ファインダイニングでは写真を非常に大切にしており、それなりに高いお金をかけて美しい写真を撮影し、ウェブサイトに掲載したり、印刷物にプリントしたり、メディアに渡したりしています。

クリスマスの時期は、普段よりも値段を上げている分だけ、余計に写真に力を入れていると言ってよいでしょう。

また、いくら見た目にインパクトがあったとしても、聖夜に相応しくないメニューは組み込みづらいので、あまり変わったものが提供されることもありません。

いくら「インスタ映え」しそうだからといって、ミシュランガイドで星付きのレストランが何かのキャラクターを模した料理を提供することは、ほとんどないのです。

レストランでは体験が重視されてきているので、クリスマスでは特に、提供や説明の方法、プレゼンテーションのあり方、サプライズ感の演出が重要となっています。

ただ、食品ロスという観点においては、品数やボリュームが多くなりがちなので、残念ながら食べ残しは通常のコースよりも発生し易くなっているのではないでしょうか。

クリスマスのホームパーティー

「インスタ映え」によって、クリスマスのホームパーティーの様相は変わってきていると考えています。

これまで家庭に人を招いて食事を食べてもらう場合には、料理を作る側はおいしいものを作ることに腐心し、作った料理が撮影されたり、SNSで投稿されたりすることはあまり考えていませんでした。もちろん、見た目もきれいに仕上げようとしていたはずですが、レストランやパティスリーのように、深く追求する余裕はなかったはずです。

しかし、レシピサイトの発展によって見た目にインパクトがある料理の作り方が共有されたり、ホームパーティーのようなプチ非日常がSNSで投稿されたりするようになりました。

そのため、クリスマスのホームパーティーでも参加者がSNSで投稿することを意識し、「インスタ映え」するものを提供するようになっています。

食品ロスに関しては、宴会は、事業系一般廃棄物の4割を占めるほど食べ残しが多いです。

ホームパーティーも宴会と同じように、食べることよりもコミュニケーションを取ることが目的であるだけに、多く作り過ぎる傾向にあります。

加えて「インスタ映え」にこだわるようになると、食べ切れることよりも見た目のよさが優先されるので、食品ロスは増えてしまうのではないでしょうか。

食により興味を持ってもらう

「インスタ映え」は、ただ食べたり飲んだりするだけではなく、見た目を楽しんだり、撮影してひとつの作品として写真を投稿したりと、多くの人の食のあり方を変えました。

作った側からしても、料理が冷めたりする前に食べてもらいたい、早く味わってもらいたいという気持ちはあるものの、自身が作ったものを記録として残し、充実した食体験であったと拡散してもらうことを、だいぶポジティブに受け止めています。

私は、より多くの人が食に対して興味を持ってくれるのであれば、「インスタ映え」は基本的にはよいことであると考えています。

「インスタ映え」が、クリスマスのレストランやクリスマスのスイーツに大きな影響を与えていないのではないかと述べましたが、どちらとも「インスタ映え」することは確かなので、味だけではなく見た目も楽しんでもらえれば幸いです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事