ある2つのキーワードで語る一流ホテルのクリスマススイーツ2017年
クリスマスケーキの季節
11月に入って寒さも深まってきており、多くの百貨店やコンビニエンスストア、そして、ホテルで2017年のクリスマスケーキの予約受付を開始しています。
クリスマス商戦が年々激しくなる中で、昨年はクリスマスケーキ発表会に合わせて、ホテルのクリスマススイーツを網羅的に紹介しました。
キーワード
今年は以下のキーワードを中心にしてクリスマススイーツを紹介します。
- 物語
- シュトーレン
キーワードの意味は以下の通りです。
クリスマススイーツの個性を立たせるために、ますます物語が重要となってきました。ただ単においしくて美しいだけではなく、そのクリスマススイーツだけにしかない物語が秘められるようになっています。
クリスマススイーツが作られた背景に特徴があったり、クリスマススイーツ自体が何かしらの物語性を含んでいるなどしているのです。
クリスマススイーツの定番は今も昔も、ショートケーキであることに変わりありません。しかし、生菓子だけではなく焼き菓子も注目されてきており、特にシュトーレンが非常に充実してきています。
幅広いラインナップのシュトーレンが用意されたり、こだわりのシュトーレンが作られたりしているのです。
物語やシュトーレンといったキーワードを中心にしてクリスマススイーツを紹介しましょう。
ハイアット リージェンシー 東京
ハイアット リージェンシー 東京では、ペストリー・ベーカー料理長 佐藤浩一氏とシェフ仲村和浩氏が新作3種を含む全7種のクリスマススイーツを提供します。
<スイーツの魔術師ジル・マルシャルはなぜ来日したのか? 紡ぎ出すスイーツの意義とは?>でも紹介したように、昨年ジル・マルシャル氏とのフェアを行いましたが、関係性を深めて今年もフェアを行うことになりました。
さらに今年はジル・マルシャル氏の「クリスマスケーキ by ジル・マルシャル」まで販売することになり、世界的なパティシエのクリスマスケーキが味わえるようになっています。
特に注目したいのは、冬の訪れからクリスマス当日までの様子を物語にしたクリスマススイーツです。
クリスマスムードいっぱいの街並みは大きなオーナメントを模した「ブール・ド・ノエル」、夜空を駆けるトナカイはドモーリ社「アリババ」を使った「ノエル・ショコラ」、クリスマスプレゼントが入った大きな袋を携えて到着したサンタクロースは「クリスマスギフト」で表現しました。
仲村氏が「カタログが添えられているので、ケーキを食べながら読んで楽しんでいただきたい」と説明するように、物語にこだわったクリスマスケーキとなっています。
パレスホテル東京
パレスホテル東京は、家族で食べられるようにとアルコールが使われていない7種のクリスマスケーキと、4種のシュトーレンを含む6種のクリスマスブレッドを販売します。
サンタクロースが家に入るシーンをイメージした20台限定の「リーヴル ド ノエル」には3年にも及ぶ長い物語が宿っています。
昨年と一昨年のクリスマスケーキでは、家に入れなかったサンタクロースが、今年になってようやく家に入れたという3部作の完結編になっているのです。
シェフ兼ペストリーシェフの窪田修己氏が「クリスマスと言えば聖夜」と述べるように、聖書をイメージしたブック型のショコラになっており、これを開くと「あまおう」がたっぷりと敷き詰められたショートケーキが現れます。
スーシェフ兼ベーカリーシェフである星敏幸氏が手掛けるシュトーレンは、好評を博したため、昨年よりも1種類増えて4種類になりましたが、シュトーレンにこれだけ力を入れているところも少ないでしょう。
定番のオーソドックスな「シュトーレン」、和三盆を使用した「ボーネン・シュトーレン」、うぐいすきな粉で若草色に仕上げた「加賀ほうじ茶のシュトーレン」に加えて、星氏が「昨年から考え始めて、ようやく完成させた自信作」と述べる「黒ごまシュトーレン」が販売されます。
「黒ごまシュトーレン」は黒胡麻ペーストと黒すりゴマ、洗い黒胡麻、白味噌を使ったシュトーレンで、油の多いゴマは成形するのが大変で通常の倍は時間がかかるために、100台の限定です。
マリオットホテル東京
マリオットホテル東京は6種類のクリスマスケーキスイーツを販売します。
ペストリーシェフの和田忠士氏が「他のホテルが家族向けをターゲットにしているので、あえてミドル向けをターゲットにした。アメリカのスタイリッシュなケーキを標榜している」と述べるように、スポンジの周囲には生クリームを塗らないアメリカンスタイルの「マリオットクリスマス ショートケーキ」を今年も販売します。
バーボン「メーカーズマーク」を使用した「オリジナル シュトーレン」と、ビターなショコラ味と生地に香り高いブランデーを使用した「ダーク シュトーレン」にも注目したいです。ベーカリーシェフの岡本晋氏は「ワインやブランデーを飲みながらつまめる大人のシュトーレン」と、ここでも大人のクリスマススイーツがコンセプトになっています。
マンダリン オリエンタル 東京
マンダリン オリエンタル 東京では、「ピエール・ガニェール・ア・東京」で約3年半ペストリーシェフを務め、独創的な形と食味を紡ぎ出す「KUMO」をシグネチャースイーツとするステファン トランシェ氏が2017年8月にエグゼクティブ ペストリーシェフに就任。今年のクリスマススイーツは既にステファン氏が考えたものになっており、全部で10種類のクリスマススイーツを販売します。
「雪の降る山々」をテーマにし、独創的な見た目と味わいに仕上げた3種のブッシュ ド ノエルに注目したいです。手間が掛かるにも関わらず、わざわざ1人用のプティガトーも用意しているのは、より多く人に食べてもらいたいという気持ちの表れでしょう。
ベルギー産65%のビターチョコレートに、自家製オレンジマーマレードを使用したチョコレートクリームでしっとりとしたココアスポンジを使用した「オレンジとチョコレートのブッシュ ド ノエル」は白樺をイメージしています。洋ナシのババロア、メープルムース、クルスティアンが使われているのは、アルプスの冬をイメージした「メープルと洋梨のブッシュ ド ノエル」。口の中でパチパチとはじけるキャンディーを包んだ「ラズベリーとピスタチオのブッシュ ド ノエル」は、雪の降る山を赤と緑のクリスマスカラーで彩っています。
3種の「ブッシュ ド ノエル」はどれも独創的な見た目と味の組み合わせです。
「シュトレン」はプレーン、チョコレートの2種類があり、どちらとも大小の2サイズが用意されています。
横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ
横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズではエグゼクティブペストリーシェフ武藤修司氏が手掛ける6種のクリスマスケーキと2種のクリスマスブレッドを販売します。
中でも注目したいのは、武藤氏のスペシャリテであり、世界大会で受賞もした「オランジュノワゼット」。オレンジクリームとヘーゼルナッツのキャラメリゼ、オレンジ風味のダックワーズをミルクチョコレートムースと合わせ、プラリネとミルクチョコレートでコーティングした一品です。
武藤氏は2016年5月1日に横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズのペストリーシェフに就任しましたが、納得のいく完成度に高められなかったということから、2016年のクリスマスには、代表作の「オランジュノワゼット」をあえて販売しませんでした。
しかし、1年かけてペストリーチームを育て上げ、安定して高いクオリティの「オランジュノワゼット」を作れるようになったことから、満を持して今年から販売することになったのです。
ロイヤルパークホテル
ロイヤルパークホテルでは、9回目となる恒例の社内コンテストを行って、パティシエ14人の作品を審査し、9種類のクリスマススイーツを販売します。
社内審査で準優勝を獲得した「ボン ルージュ」は、昨年も準優勝を果たした柴井さつき氏の作品です。女性パティシエが考案したというだけあって、大人の女子会を意識しており、クリスマスツリーをイメージした真っ赤なクリスマススイーツは、全方向どこからでも美しく、かつ、見え方が変わるようになっています。
イチゴのコンポート、イチゴのチョコレートムースという構成で40台限定。ケーキが3つ並んだ作りで1つずつ切り分けられるので、最初から最後まできれいな見た目となっています。
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイでは、エグゼクティブ シェフ・パティシエ徳永純司氏が様々な用途に合わせて用意する3サイズの「クリスマスショートケーキ」を始めとして、7種類のクリスマススイーツを販売します。
物語性があるのは、徳永氏が「人と人とのつながり」を表現したと真摯に語る「パリブレストフレーズピスターシュ」。人と人のつながりを、クリスマスリースの輪で表しました。マスカルポーネクリームとピスタチオクリームに苺を合わせ、イチゴの赤とピスタチオの緑でクリスマスカラーを構成しています。
「ザ・ショップ N.Y.ラウンジブティック」マネージャーの鈴木映氏が「遊び心のあるスイーツを提供したかった」という「チョコレートパズル」は、サンタクロースやクリスマスツリーが絵柄となったクリスマス仕様のパズルになっており、他には中々ありません。
プレーン、抹茶、マロングラッセ、フィグルージュといった4種類もの「クリスマスシュトーレン」も用意されており、シュトーレンも充実しています。
リーガロイヤルホテル東京
リーガロイヤルホテル東京はクリスマススイーツ6種類を販売します。昨年はトナカイが、一昨年はサンタクロースがスクラムを組んだ愛嬌のあるクリスマスケーキを創り出しました。
シェフパティシエ石和悟氏が「いつまでも幸せが続くようにと、新しいものを考えた」と説明するように、今年は雪ダルマ家族4人が飾り付けを行う「ゆきだるまファミリー」を考案。父親と母親、長男と次男という家族構成の雪ダルマ家族が、クリスマスツリーに星を飾り付けています。
「シュトーレン」は昨年よりもスパイスを弱くして子供でも食べ易いようにし、石和氏が「ベーカリーではなくパティスリーらしいもの」と志向したように、フルーツケーキのようなシュトーレンに仕上げました。
パーク ハイアット 東京
パーク ハイアット 東京では10種類のクリスマススイーツを販売。
「あまおう」の苺ムースを使用した「ブッシュ フレーズ」、濃厚なヘーゼルナッツとヴァローナ社の上質なミルクチョコレートを混ぜ込んで柚子とマンダリンのムースでアクセントをつくった「ブッシュ ノワゼット」、マスカルポーネムースとコーヒースポンジを合わせてティラミスらしい味と香りを再現した「ブッシュ ヴェネト」と、ブッシュ ド ノエルは3種類もあります。
エグゼクティブ ペストリーシェフのパスカル シャルデラ氏(現在は退社)が特に想いを込めたのが「ブッシュ ヴェネト」。伝統のあるイタリアの菓子に敬意を表し、ティラミスの産地であるイタリア・ベネトの名を冠しました。ブッシュ ド ノエルでティラミス風味は珍しいですが、是非ともクリスマスに提供したいと考えた一品です。
シュトーレンも例年通り充実しており、ドライフルーツとナッツの「クリスマス シュトーレン」、大粒の渋皮栗と黒無花果の「マロン シュトーレン」、ケシの実とケシペーストによる「モーン シュトーレン」と3種類あります。
アンダーズ東京
アンダーズ東京では、2017年2月からペストリーシェフに就任した田中麗人氏が考案し、クリスマスの歌をモチーフにした3種類を含めた、5種のクリスマススイーツを販売します。
「サンタが街にやってくる」のワクワク感を、苺のショートケーキ、ピスタチオとベリーのムース、苺とチョコレートのショートケーキ、マンゴーとココナッツのムース、抹茶とチョコレートのムースといった5種類のケーキのアソートで表現した「アソートクリスマスケーキ」は大作です。
「さくらんぼの木のキャロル」からはチェリーを主役にした「グリオットチェリーのレアチーズケーキ」を、「ファースト・ノエル」からは新約聖書からリンゴを連想した「林檎とローズヒップのブッシュ・ド・ノエル」と発想が面白いでしょう。
自家製「シュトーレン」はクラシックなレシピではなく、マジパンが入らない、日本人がより食べ易いものにしました。
ウェスティンホテル東京
エグゼクティブペストリーシェフ鈴木一夫氏は、フランス、イタリア、スイス、ドイツ、オーストリア、日本といった世界の都市をイメージしたスイーツを創り上げています。独自の切り口も関心を引きますが、11種類という多さも驚きです。
鈴木氏が特にお勧めするのが限定10台の「プロフィットロール」。カスタードクリームとクレム シャンティを合わせたディプロマットクリーム、チョコレートクリームの2種類を使い、ペストリーブティック「ウェスティン デリ」で売り切ることが多い、人気商品のシュークリームをミニサイズにして、アーモンドタルトの上に積み上げました。チョコレートソースとベリーのコンポートが添えられているので、好みによって味を変えられるのが特徴でしょう。
シュトーレンは定番1種類だけを販売し、昔から配合を変えず、ドライフルーツとナッツがたっぷり使われています。
ザ・プリンス パークタワー東京
プリンスホテルは、東京のシティホテルが集まったクリスマスケーキ発表会を、初めてザ・プリンス パークタワー東京で実施し、7ホテル10棟で販売される17種類ものクリスマスケーキを披露しました。
エグゼクティブシェフパティシエ内藤武志氏は「本物志向」「みんなで楽しむ」「自分で楽しむ」をキーワードにし、「様々なシーンで食べられるクリスマススイーツを創り出した」と説明します。
ザ・プリンス パークタワー東京では、内藤氏が「女性への贈り物と言えばバッグ。包みを開ける喜びを表現した」という限定20台の「プール マ シェル」や、女性ホテリエによる「TOKYO HONEY PROJECT」が考案し、芝公園の緑と女性らしい優しさをイメージした、ふわふわスポンジの「エトワール ノエル」を販売。
品川プリンスホテルでは、女性ホテリエによる「+Happy Project」が、自分流に楽しめることをテーマとし、3色のパステルカラーのムースに6種類のトッピングを施してオリジナルのスイーツを作り上げる「パステル プティ ヴェリーヌ」を考案しました。
「物語」「シュトーレン」
全国津々浦々にあるコンビニエンスストア、大手スーパーマーケットや百貨店でも、クリスマススイーツの販売にますます力を入れていますが、クリスマススイーツはもともとハレの日に食べるものであるだけに、非日常的であるホテルとの相性はよいはずです。
ホテルのクリスマスケーキ発表会は10月中旬には、ほとんど全てが終わり、この11月からクリスマスケーキ商戦が本番を迎えますが、今年は物語性のあるクリスマススイーツや日本でも多くの人に食べられるようになってきたシュトーレンに期待したいと思います。