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残念な上司の「レベルの低いコーチング」は部下を傷つけるだけ

横山信弘経営コラムニスト
(ChatGPT DALL-E 3 にて筆者作成)

昨今、多くのマネジャーが、部下を動かすためにはコーチングが有益だと考え、会社からも要請されているが、なかなかうまくやれていない。

それどころかレベルの低いコーチングをして部下を傷つけ、退職にまで追いやる例も増えている。

結論から書こう。

コーチングは素人がやるものではない。

書籍を読んだり研修を受けたりして知識を得たからといって、見よう見まねで実施するものではない。病気やケガをしている患者を治すドクター、あるいは健康な人の体を鍛えるジムのトレーナーを思い浮かべてほしい。

にわか仕込みの知識で患者やジムの利用者に接することは許されない。

マイナスの状態にある心をゼロの状態に戻すことをカウンセリングとするなら、ゼロ状態の心をプラスに引き上げることはコーチングと呼べるだろう。ドクターやトレーナーと同様、カウンセラーもコーチも経験を積んだプロが担うべきである。

ところがコーチングという言葉は、急速な外部環境の変化についていけなくなった人たちを支援する妙手として市民権を得てしまった。いろいろな事情が重なったのだろうが、コーチングをリーズナブル(手軽)なテクニックだと受け止めている風潮や空気が昨今あり、それが気になる。

コーチングの定義を、第一人者の言葉を借りて表現すると、

「対話を重ねることを通して、クライアントが目標達成に必要なスキル、知識、考え方を備え、行動することを支援し、成果を出させるプロセス」

となる。

コーチングを否定するつもりなど毛頭ない。せっかくのコーチングがビジネスの世界で今、機能していないことを指摘しつつ、その原因と対策を考えてみた。

■「コーチを名乗る人」のスキル不足

ビジネスの現場でコーチングがうまく機能しない原因は2つある。

(1)コーチのスキル不足
(2)コーチング対象の誤解

まずスキル不足について書く。厳密にいうと、「コーチを名乗る人」のスキル不足である。

それなりのお金と時間を費やし、プロのコーチとして認定され、しっかり経験を積んだ人がいる一方、会社のちょっとしたコーチング研修を受けただけで、部下にコーチングをするように言われたマネジャーもいる。

コーチングを学ぶと、コーチの役割を次のように説明される。

クライアントの中にあるリソースに焦点を合わせた、効果的な質問を通して、クライアントの頭の中を整理させ、別の視点から事物を照らして、気付きを誘発させ、主体的な行動変容を起こさせ、そして、クライアント自らが設定する目標を達成させる。

この役割を果たすには、当然のことながら、何でもかんでも質問すればよいということではない。何でもかんでも「傾聴」すればいいということでもない。

目標達成のための行動変容を促がす気付きを、質問や傾聴によって引き出すのだ。

これは容易なことでない。

どれほど優秀な人であっても、数日間の研修を受けただけで、部下の達成意欲を促すためにコーチングをしようとしてもうまくいかないのは当然だ。

■答えを持たない部下にコーチングは機能しない

どんなにコーチングの技術を持っていても、コーチング対象を間違えていたら、せっかくのコーチングが機能しない。

「コーチング」の基本的な考え方は

「答えはクライアントの中にある」

というものだ。あなたも聞いたことがあるだろう。

答えは自分の中にある。「分かってはいるのだが、なかなか行動が伴わない」という相手に対し、コーチングは威力を発揮する。

今よりもっと速く走りたい、もっと高く飛びたい、と願うアスリートに対して、コーチが手ほどきをする。意欲はあるし能力もある。さらなる結果を出すためには潜在的なパワーを引き出す必要があり、そこにコーチングが役立つ。

「コーチングは目標を達成させるための行動変容を効果的に促すためにある技術」

と説明した。コーチングは素晴らしい技術だが、どういう人に対して、どのような行動変容を、どのような時間軸で実現させるかをはっきりさせて使うべきだ。

「目標達成意欲」と「そのための能力」は前提である。言い換えるとこれら2点がない人はコーチングの対象にはならない。

組織の運営を考えると、ほとんどの場合、経営者やマネジャー側に答えがある。コーチングして、部下の自発的な行動を促したいといっても、相手の中に「答え」がないのであれば、質問を繰り返しているうちに

「自分が本当に何をやりたいのか分からなくなってきました」

「やらされ感を覚えながら仕事をしているとモチベーションが下がるんです」

などと、どこかのネットの書き込みで見聞きしたような言い訳が返ってくるようになる。

部下が最初からそのように考えているのならともかく、ほとんどのケースは質問されてから浮かび上がってくる妄想だ。そうさせたマネジャーの責任は重い。

というわけで、達成意欲もなく、どのような行動を起こすことで結果がもたらされるのか、皆目見当もつかない人にコーチングをしても機能しないどころか有害ですらある。

やってもお互いにとって言いたくもない、聞きたくもないような話が出るばかりだ。

そうした人に必要なのは「ティーチング」である。

つまりコーチングというのは、上司が部下に対してするものではない。一般的には外部のプロコーチが経営者や幹部にするものなのだ。夫婦間のカウンセリングがうまく機能しないのと同様、「上司to部下」のコーチングもほとんどうまくいかないと知っておこう。

コーチング技術のレベルが低いのであれば、なおさらだ。

<参考記事>

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経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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