【判決速報!】父の足はちぎれ、母は脳挫傷… 居眠りで蛇行続け正面衝突の被告に禁錮2年8ヵ月の実刑
■「居眠りの記憶ない」と否定した被告の主張退ける
「本日、京都地裁において、被告に禁錮2年8ヵ月の実刑判決が下りました」
判決直後、連絡をくださったのは、被害者の長女・星野亜季さん(35)です。
亜季さんは続けます。
「裁判官は、被告の居眠り運転を認め、『記憶にない』『過失はない』といった否認ともとれる発言を批判されていました。ただ、実刑判決はありがたいのですが、求刑は4年でしたのでかなり減ったな……と、正直言って複雑な気持ちです」
本件事故については、2023年1月20日、以下の記事で報じました。
<父の足はちぎれ、母は脳挫傷… 遺族が語る「蛇行で逆走の末、正面衝突の加害者が初公判で主張したこと」>(2023.1.20)
大阪府の岩瀬徹郎被告(当時41)は事故直後、「居眠り運転」を認める供述をしていましたが、刑事裁判が始まるとそれを突然覆して「記憶にない」と否認。執行猶予を求めていました。
本日下された一審判決では、一連の主張は退けられたことになります。
裁判官は、被告の「否認」主張についてどのように判断したのか、判決の詳細については追ってレポートしたいと思いますが、速報と共に、改めて事故の概要を振り返ります。
■対向の逆走トラックが、両親の車を正面衝突で直撃
事故は、2022年9月21日午後1時半ごろ、京都府笠置町の国道163号で発生しました。
岩瀬被告が運転するトラックが、センターラインを大幅にオーバーし、亜季さんの父・山本隆雄さん(65)と、母・倫代さん(65)が乗る軽自動車に正面衝突したのです。
下の写真は、大破した山本さんの車です。
車体の前部が原形をとどめないほど激しく損傷しているのがわかります。
「父は両足ともに膝から下がほとんどちぎれていました。骨盤骨折、多発内臓破裂もあったそうで、胸の形も完全に変形していました。目撃者の話によると、父はしばらくうめき声をあげていたそうで、即死でなかったのだと思うと、戦慄を覚えました。しかし、車の損壊が激しく、救出までに相当な時間がかかり、父は苦しみながら死に至りました。そのときの父と母の絶望感をどのように表現すればよいのか......。さぞ無念であったと思います」(亜季さん)
亜季さんは、父・隆雄さんの葬儀の準備をする傍ら、母・倫代さんの病院にも駆け付けなければなりませんでした。
「救急搬送された京都の病院から奈良の大学病院に移送される際、私が救急車に同乗し、そこで初めて母の姿を見ました。意識も自発呼吸もなく、脳に極めて重いダメージを受けているとのこと、あまりに痛々しい姿に涙と嗚咽が止まらず、過呼吸のような状態に陥りましたが、看護師さんが何も言わず背中をさすってくださったことを覚えています」
■決め手となったか…。法廷で再生されたドライブレコーダー
本件事故は、被告のトラックのドライブレコーダーと、トラックの後続車のドライブレコーダーに衝突までの状況が記録されていました。
2回目の公判では、過失運転致死傷の罪に問われた被告人への尋問の前に、検察側の証拠としてこの2つの映像が流されました。
<両親死傷の瞬間とらえたドライブレコーダー 法廷で蛇行・逆走シーン流れるも、被告は「記憶にない」>
(2023.1.31)
まず、最初に再生されたのは、被告のすぐ後ろを走っていた車のドライブレコーダーの映像です。そこには、動画だけでなく、前車の異常な動きに驚くドライバーの、以下のような声も記録されていました。
「めっちゃフラフラするなー」
「大丈夫? 前の車」
「何しとるん、やばい……」
その直後、ドライブレコーダーには激しい衝突音が響きます。と同時に、「やっぱり、やっちまった!」という、ドライバーの声も記録されています。
次に流されたのは、被告のトラックに装着されていたドライブレコーダーの映像です。そこには、衝突に至るまでの約 10 分間、トラックが片側 1 車線の国道で蛇行を繰り返し、十数回にわたってセンターラインをはみ出す様子のほか、実際に対向車とぶつかりそうになる場面が映っていました。
被害者参加制度を利用して法廷に入った亜季さんは振り返ります。
「衝突時の激しい音、そして、衝撃の大きさ……。映像を見て改めて、この事故がどれほど凄まじいものであったのかがはっきりわかりました。被告のトラックはセンターラインをオーバーし、逆走状態で何の落ち度もない両親の車に、ブレーキをかける様子もなく正面から突っ込んでいました。両親は押しつぶされたあの車内に、1時間以上も閉じ込められたのです。今思い出すだけでも息苦しくなります」
事故現場となった国道163号線は、亜季さんが幼い頃からご両親と共に何度も通ったことがある道です。それだけに、この映像を見ることはとても辛かったと言います。
「被告も2回目の公判でドライブレコーダーの映像を見て、自分のトラックが何度も対向車線にはみ出している様子を確認していました。ところが、その後におこなわれた弁護士からの質問には、『事故現場から約10km手前の道の駅を通過後、少ししてからは一切記憶にない』と答えました。なぜ蛇行運転をしていたのか? と問われると、『対向車線にはみ出した記憶も、眠気を催した覚えもない。記憶があるのは、衝突の寸前から』だと……。でも、『記憶がない』と言っておきながら、『眠気は催していない』と主張していること自体、そもそもおかしなことです。矛盾を感じざるを得ませんでした」(亜紀さん)
■執行猶予を願った被告だったが……
3回目の公判(結審)は3月8日に開かれました。以下の記事は当日の傍聴レポートです。
<加害トラックはなぜ10kmも蛇行を続けたのか… 両親死傷の長女が公判でぶつけた怒りと疑念>(2023.4.17)
実は、岩瀬被告の勤める運送会社には、事故の9か月前に被告自身の危険な運転に対して第三者からクレームが入っていました。そのことについて、情状証人として証言台に立った社長はこう答えました。
「後方を走る車の運転手から『蛇行運転をしている』と会社にクレームの連絡がありました。それを受け、当社の運行管理責任者より本人に指導をおこない、それ以降はクレーム、交通違反はありません」
しかし、被告はこの指導を受けた後も再び蛇行運転をしてセンターラインをオーバーし、結果的に「対向車と正面衝突」という重大事故を引き起こしたのです。
この事実について社長は、「重く受け止めている」「再発防止のため週一回のミーティングを行うようにしている」「被告人には、2週間の謹慎と減給1割の懲罰を与えた」などと答えましたが、蛇行運転へのクレームが入った時点で、会社として「絶対に同じことを繰り返させない」という徹底した対策が実行されていれば、この事故は防げたはずです。
続いて証言台に立った被告の妻は、夫の加害行為を詫び、「今後免許は取らせない。しっかり監督していく」と答えました。そして、小中学校に通う3人の子どもがいること、自分の収入だけで育てるのは大変であること、子供の教育のためにも、夫が刑務所に服役したら困るという趣旨の証言を行い、執行猶予を求めたのです。
しかし、裁判官はこうした事情もくみ取ることはしませんでした。
増田啓祐裁判官は最後に、岩瀬被告に対してこう説諭したと言います。
「刑事裁判が終わり、刑に服しても、それで終わりとは思わないように。被害者には終わりがないことを忘れず反省してほしい。被害者の娘さんからの意見陳述でもあったように、自分の発言で遺族がどのような気持ちになったのか、考えるべきである」
控訴期限まで2週間。検察側、弁護側が「禁錮2年8ヵ月」という判決に対してどのような動きに出るか……、注目したいと思います。