両親死傷の瞬間とらえたドライブレコーダー 法廷で蛇行・逆走シーン流れるも、被告は「記憶にない」
昨年 9 月に京都府の国道で発生した死傷事故の第2回公判が、1月24日、京都地裁で開かれました。
*事故の詳細は以下の記事をご覧ください。
●父の足はちぎれ、母は脳挫傷 遺族が語る「蛇行で逆走の末、正面衝突の加害者が初公判で主張したこと」(1月20日配信)
2022年9月21日午後1時半ごろ、京都府笠置町の国道163号線で、大阪府交野市倉治の運転手・I被告(当時 41)のトラックが蛇行運転を繰り返した末に、前から走ってきた山本隆雄さん(65)運転の軽自動車に正面衝突。
この事故で、山本さんは骨盤骨折や多発内臓破裂等で死亡し、助手席に乗っていた妻の倫代さん(65)は脳挫傷等で一時意識不明の重体となり、現在も入院を続けています。
以下の写真は、事故車の後方を走っていたドライバーが撮影し、YouTubeにアップしている事故直後の動画(https://youtu.be/atPUEGKwEns)のキャプチャーです。
■法廷で流された2つのドライブレコーダー映像
この日の法廷では、過失運転致死傷の罪に問われた被告人への尋問の前に、検察側の証拠として2つの映像が流されました。
最初に再生されたのは、被告のすぐ後ろを走っていた車のドライブレコーダーの映像です。そこには、動画だけでなく、前車の異常な動きに驚くドライバーの、以下のような声も記録されていました(遺族のメモをもとに再現します)。
「めっちゃフラフラするなー」
「大丈夫? 前の車」
「何しとるん、やばい……」
しかし、後ろからはどうすることもできません。
その直後、ドライブレコーダーには激しい衝突音が響きます。と同時に、「やっぱり、やっちまった!」という、ドライバーの声も記録されています。
次に流されたのは、被告のトラックに装着されていたドライブレコーダーの映像です。そこには、衝突に至るまでの約 10 分間、トラックが片側 1 車線の国道で蛇行を繰り返し、十数回にわたってセンターラインをはみ出す様子のほか、実際に対向車とぶつかりそうになる場面が映っていました。
被害者参加制度を利用して法廷に入った山本さん夫妻の長女・星野亜季さん(35)は振り返ります。
「衝突時の激しい音、そして、衝撃の大きさ……。映像を見て改めて、この事故がどれほど凄まじいものであったのかがはっきりわかりました。被告のトラックはセンターラインをオーバーし、逆走状態で何の落ち度もない両親の車に、ブレーキをかける様子もなく正面から突っ込んでいました。両親は押しつぶされたあの車内に、1時間以上も閉じ込められたのです。今思い出すだけでも息苦しくなります」
事故現場となった国道163号線は、亜季さんが幼い頃からご両親と共に何度も通ったことがある道です。それだけに、この映像を見ることはとても辛かったと言います。
「よく通っていた道でしたので、事故現場もわかっていました。映像でその場所が近づくにつれ、心拍数がどんどん上がるのを感じました。衝突の瞬間の映像を目の当たりにしたときは、本当に、心臓が握りつぶされるような感覚でした……」(亜季さん)
■供述調書に誤りがあると主張した被告
ではなぜ、こうしたドライブレコーダーの映像が、1回目ではなく、2回目の公判で流されることになったのでしょうか。
被害者参加弁護人を務めるベリーベスト法律事務所の伊藤雄亮弁護士はこう語ります。
「実は、ドライブレコーダーの映像は、静止画像としてすでに裁判所に証拠提出されていました。起訴状には、『眠気を催し、前方注視が困難であったにもかかわらず、運転を続けた過失によって2人を死傷させた』と明記されており、被告自身も対向車線に飛び出した状態で正面衝突したことについては、『事実』として認めています。ところが裁判が始まると、突然、『眠気を催した』という根本的な事実を否定し、事故直後におこなわれた警察での取り調べの内容を全面的に否定してきたのです」
ちなみに、事故直後の供述調書では、
「この辺から眠たくて記憶がないです」
「眠気を催していたことは分かっていた」
などと、居眠りについて具体的に供述していましたが、今回の裁判で被告は次のように述べています。
「(警察には)記憶がないと伝えただけだが、ドライブレコーダーを見て、推測で書かれてしまった。眠気は催していないと言った。修正をお願いしたが、それが出てきていない」
そこで、事故に至るまでの運転状況を改めて確認するため、2回目の公判では2台の車のドライブレコーダーを「音声付きの動画」として法廷で再生し、裁判官とともに確認することになったのです。
亜季さんがこの時の様子を説明します。
「被告も2回目の公判でドライブレコーダーの映像を見て、自分のトラックが何度も対向車線にはみ出している様子を確認していました。ところが、その後におこなわれた弁護士からの質問には、『事故現場から約10km手前の道の駅を通過後、少ししてからは一切記憶にない』と答えました。なぜ蛇行運転をしていたのか? と問われると、『対向車線にはみ出した記憶も、眠気を催した覚えもない。記憶があるのは、衝突の寸前から』だと……。でも、『記憶がない』と言っておきながら、『眠気は催していない』と主張していること自体、そもそもおかしなことです。矛盾を感じざるを得ませんでした」
■検察官による厳しい反対尋問に被告は…
この日は、検察官や裁判官からも被告に対する尋問が行われました。伊藤弁護士はその様子を振り返ります。
「2回目の公判では、検察官による反対尋問が行われました。被告の答弁の矛盾点を追及した上で、『(ドライブレコーダーの)映像を見ても、居眠りをしていたとは納得できないか』と尋ねると、被告は最終的に、『できないけど、そうかもしれない』と答弁。また、裁判官も最後に、『記憶にない理由は何なのか?』と質したところ、被告は『睡魔を感じていたからではないかな、とも思う』と答えていました」
ドライブレコーダーの普及で、事故に至るまでの映像がはっきりと残されるケースが増えてきました。しかし、映像という客観的な証拠があっても、本件のように被告側が供述内容を否定し、主張を変転させるケースは決して少なくありません。
とはいえ、被告は事故の原因が自身のセンターラインオーバーにあることは認めており、検察官の質問に対しては、「事故が起きたことは間違いない。至らない運転だった」「しっかりと前を向いた状態で、車線をはみ出さずに運転できなかった」と述べています。そして、「償いたい、という思いはある」とも……。
しかし、亜季さんは言います。
「被告は検察官から『月命日に手を合わせるということすら思いつかないか?』と指摘される程、償いに具体的な意志が感じられませんでした。また『償う方法について妻と話し合ったか?』という質問に対しては、『二人で乗り越えていこうねとだけ話した』と答えました。最後に私が『何をもって償うのですか?』と被告に直接問いかけると、返ってきたのは『わからない……』の一言でした。父は亡くなり、母は今も入院中で、反論することさえできません。両親に対する懺悔や償いの気持ちがあるというのなら、どうか真実を語ってほしいと思っています」
次回、3 回目の公判は、2023年3月8日(水)16 時から、京都地裁で開かれます。情状証人が証言台に立つ予定です。