シリアのアラブ人部族がクルド民族主義勢力からの「独立」を要求、米国の占領に対する人民抵抗の開始を宣言
ユーフラテス川東岸のアカイダート部族が「独立」を要求
パン・アラブ日刊紙の『シャルクルアウサト』は8月8日、ダイル・ザウル県ズィーバーン町、ハワーイジュ村などでアラブ人部族による抗議デモと蜂起が続くなか、アカイダート部族の族長や名士が有志連合を主導する米軍と会談し、部族側の要求を示したと伝えた。
ダイル・ザウル県では、最近になってアラブ人部族を狙った暗殺が相次いでおり、8月2日にはアカイダート部族の族長の1人のおじにあたるマトシャル・ハンムード・ジャドアーン・ハフルが殺害され、今回の蜂起の発端となっていた。
(これまでの経緯については「シリア:クルド民族主義勢力の支配地域でアラブ人部族が蜂起、米軍が鎮圧に加勢」、「シリアのアラブ人部族はクルド民族主義勢力に最後通告を突きつける一方、米軍へのロビイングを開始」、「シリアのダイル・ザウル県でのアラブ人部族の蜂起はクルド民族主義勢力側と政府側の非難の応酬に発展」、「混乱が続くシリアのダイル・ザウル県でアラブ人部族、シリア民主軍、米主導の有志連合が三者会合を開催」を参照)
『シャルクルアウサト』がアカイダート部族のシャイフの一人の話として伝えたところによると、会合はズィーバーン町で開かれ、米軍の士官複数、クルド民族主義民兵の人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍に近い部族の代表らが出席した。
このシャイフはこう述べている。
ダイル・ザウル県のユーフラテス川東岸の住民はアラブ人だ。
だが、2017年に、米国の支援を受けるシリア民主軍がイスラーム国を掃討して以降は、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の支配下に置かれてきた。
今回の蜂起を受けて、ユーフラテス川東岸のアカイダート部族の族長らはこれに異を唱え、「独立」を要求したのだ。
ユーフラテス川西岸では米軍に対する人民抵抗の開始が宣言
こうした動きに呼応するかのように、シリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸のアカイダート部族も動いた。
国営のシリア・アラブ通信によると、ダイル・ザウル市一帯で暮らすアカイダート部族の部族と名士が8月9日、市内で会合を開き、シリア民主軍が住民に対して行っている攻撃や犯罪行為に対して一致団結して対応する必要を確認し、抵抗の意思を表明したのだ。
会合において発表された声明のなかで、彼らはこう述べ、ユーフラテス川東岸地域の混乱を非難、シリア民主軍がハフル暗殺に関与していると断じた。
そのうえで、次のように宣言したのだ。
賛否の声を挙げる部族
PYDに近いハーワール・ニュースは8月8日と9日、ラッカ県タッル・アブヤド市のアラブ人部族、アレッポ市シャイフ・マクスード地区、ハサカ県シャッダーディー市とタッル・ハミース市の族長や名士が、シリア民主軍支持を表明したと伝えた。
これに対して、SANAも8月10日、ヒムス県スフナ市一帯地域で暮らすアラブ人部族が声明を出し、人民抵抗開始への支持と連帯を表明したと伝えて対抗した。
高まる軍事的緊張
メディアでの喧伝合戦が激しさを増すなか、軍事的な緊張も高まりを見せた。
英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団やSANAによると、北・東シリア自治局の支配下にあるユーフラテス川東岸のシャフア村で8月10日、シリア民主軍の軍用車輌に手榴弾が投げつけられ、爆発が発生した。
一方、ANHAは、シリア軍がユーフラテス川西岸から北・東シリア自治局の支配下にある東岸のガラーニージュ市を砲撃し、住民2人が負傷したと伝えた。
しかし、シリア人権監視団によると、攻撃は、砲撃ではなく発砲で、ユーフラテス川を泳いで渡ろうとした男性2人に向けて行われたものだったという。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)