シリアのダイル・ザウル県でのアラブ人部族の蜂起はクルド民族主義勢力側と政府側の非難の応酬に発展
アラブ人部族(住民)の抗議デモと蜂起が発生したシリア北東部のダイル・ザウル県では、同地に対して事実上の軍事支配を行うシリア民主軍の鎮圧が続いている。
シリア民主軍は、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の武装部隊。クルド民族主義民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とし、ダイル・ザウル軍事評議会、マンビジュ軍事評議会といった武装集団を傘下に置き、有志連合を主導する米国を後ろ盾としている。
(ダイル・ザウル県での抗議デモ・蜂起の経緯については「シリア:クルド民族主義勢力の支配地域でアラブ人部族が蜂起、米軍が鎮圧に加勢」、「シリアのアラブ人部族はクルド民族主義勢力に最後通告を突きつける一方、米軍へのロビイングを開始」を参照されたい)。
シリア民主軍による住民の追跡続く
PYDに近いハーワール通信(ANHA)は、このシリア民主軍が8月5日、「地元の部族長たちの通報を受けて」、抗議デモと蜂起が発生した町村の一つであるシュハイル村の民家複数棟に対する強制捜査を行い、武装集団と戦闘の末、7人を逮捕したと伝えた。
ANHAによると、逮捕されたのは「シリア政府や親政権民兵に後押され、抗議デモに乗じて、シリア民主軍の治安拠点を襲撃し、蜂起を扇動した」地元の住民だという。
唱えられた陰謀論
こうしたなか、シリア民主軍に所属するダイル・ザウル軍事評議会のアフマド・アブー・ハウラ司令官は、ANHAのインタビューに応じ、アラブ人部族の抗議デモと蜂起に関して、シリア政府とイスラーム国が背後にいるとの陰謀論を唱えた。
アブー・ハウラ司令官の主張は以下のようなものだ。
(アブー・ハウラ司令官の発言の詳細については、「シリア民主軍ダイル・ザウル軍事評議会のアブー・ハウラ司令官はダイル・ザウル県でのアラブ人部族の蜂起の背後にシリア政府とダーイシュがいたと断じる(2020年8月6日)」を参照されたい)
政府に近い部族が声明を発表
これに対して、政府に近いシリア部族長名士評議会は声明を出し、米国とトルコの占領に対して一丸となるよう部族に対して呼びかけるとともに、ダイル・ザウル県で発生している部族長らを狙った殺害事件に関して、米国がアラブ人部族どうしの不和を作り出そうとする試み以外のなにものでもないと非難した。
また、ハサカ県のシャッラービーン部族も声明を出し、アカイダート部族の族長の一人のおじにあたるマトシャル・ハンムード・ジャドアーン・ハドル氏らの暗殺を「愛国的な部族間の連帯や結束に打撃を与えようとするもの」と非難し、外国の占領が助長するテロへの反対を表明、アラブ人部族に対してシリア領内からすべての占領勢力を駆逐するために一致団結するよう呼びかけた。
その一方で、国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、シリア民主軍が8月5日にハサカ市の穀物サイロ局に押し入り、職員を武器で脅して退去させたと伝えた。
SANAはまた、シリア民主軍が、6月27日に接収したハサカ市のハサカ電力公社で、備品などを盗んでいるとし、その「悪行」を批判的に伝えた。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)