シリアのアラブ人部族はクルド民族主義勢力に最後通告を突きつける一方、米軍へのロビイングを開始
クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局が支配するシリア南東部のダイル・ザウル県ズィーバーン町で8月3日に発生したアラブ人部族(住民)の抗議デモと蜂起。
有力アラブ人部族の一つであるアカイダート部族の族長(シャイフ)の一人のおじにあたるマトシャル・ハンムード・ジャドアーン・ハフルが何者かによって殺害(8月2日)されたことに端を発するデモは、4日にはハワーイジュ村、ジュダイド・アカイダート村、ジャディート・ジュダイダト・バカーラ村、タヤーナ村、スブハ村、アブー・アブー・ナティール村、シュハイル村、シャンナーン村に波及、住民は北・東シリア自治局の武装部隊である人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍や警察治安組織である内務治安部隊(アサーイシュ)への怒りを露わにした。
シリア民主軍は増援部隊を派遣し、鎮圧にあたる一方、有志連合を主導する米軍も戦闘機やヘリコプターを派遣し、上空から住民を威嚇し、事態の収拾を試みた(「シリア:クルド民族主義勢力の支配地域でアラブ人部族が蜂起、米軍が鎮圧に加勢」を参照)。
だが混乱は8月5日も続いた。
アカイダート部族による最後通告
蜂起を主導するアカイダート部族全体の族長(シャイフ・マシャーイフ)であるマスアブ・ハリール・アッブード(・ジャドアーン・ハフル)氏は声明を出し、シリア民主軍に対して、1ヶ月以内にハフル殺害事件の犯人を特定し、その身柄を引き渡すよう最後通告を出したのだ。
アッブード族長は3ページにわたる声明のなかで、アカイダート部族に対してこう呼びかけた。
そのうえで、シリア民主軍に対して、1ヶ月以内に、ハフルをはじめとするダイル・ザウル県の部族長の殺害事件の犯人を特定し、その身柄を引き渡すよう要求、「これが満たされない場合、家と財産を守るためにふさわしいと考える行動をとる」と表明した。
鎮圧を続けるシリア民主軍
しかし、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団や国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、シリア民主軍の鎮圧は続いた。
シリア民主軍は、抗議デモが発生したシュハイル村、ブサイラ市、ハワーイジュ村、ズィーバーン町を包囲し、検問所を増設するなどして厳戒態勢を強化するとともに、外出禁止令を発出し、デモや蜂起に参加した住民の摘発を本格化させた。
米軍に迫るアラブ人部族
これに対して、ダイル・ザウル県の部族長や名士らは、北・東シリア自治局支配地域に違法に駐留を続け、その軍事的後ろ盾となっている米国へのロビイングを開始した。
アカイダート部族のイブラーヒーム・ジャドアーン・ハフル族長ら、ズィーバーン町、シュハイル村の部族長と名士たちは、シリア駐留米軍の本部が設置されているウマル油田を訪れ、北・東シリア自治局支配下のダイル・ザウル県の社会福祉の状況や政情などについて意見を交わしたのである。
シリア人権監視団によると、この会合で、米軍側は、部族長らに、ハフルらの殺害事件の調査を継続することを誓約した。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)