2023年上半期速報値「出生数▲3.6%」より深刻な「結婚氷河期」の到来
出生減は想定の範囲内だが?
厚生労働省が8月29日公表した人口動態統計(6月までの速報値)によると、2023年上半期(1~6月)の出生数は、前年同期からさらに減って37万1052人だった。
どうやら上半期の速報値比較では、2000年以降最も少なかったらしく、メディア各社はまた判で押したように「少子化に歯止めがかからない」などと「大変だ!大変だ!」と危機感を煽っている。
しかし、そんなことは誰もが想定していた話ではないのか?
ちなみに、速報の数値には、日本における外国人、外国における日本人及び前年以前に発生した事象を含むものであり、最終的な確定報の数字はこれよりも少ないものとなる。
単純に、今までの速報値と確定値との関係をみれば、半年分の実績で大体の年間予測は可能である。
2023年1月から6月までの速報での出生数の前年度同期間比は、▲3.6%である。このまま下半期も同傾向で推移するとすれば、2022年の出生数が約77万人である(概数値)ことから、2023年の出生数予測は約74万人と予想される。
もう誰も記憶にないと思うが、2015年ですら年間出生数が100万人以上あったことを思うと、急激な出生減である。が、そもそも文字通りの母体である出産対象年齢の女性絶対人口が減っているのだから(少母化)当然といえば当然だし、いかんともしがたい話でもある。
実績は低位推計通り
出生数はいきなり増えたり減ったりするものではないし、過去の実績から見れば、社人研の出している推計値の低位推計通りに推移している。
推計には高位・中位・低位の3つがある。原則世の中に提示されるのは、特に断りがなければ、中位推計の数字で、建前上確度の高い数字とされているのであるが、今までの実績で中位推計が当たった試しはない。個人的には「いつまでもあたらない数字を中位推計としているのか」と思うわけである。
多分、官僚が本気で予測しているはいつの時代も低位推計だろう。しかし、それは政治的に許されないために、忖度して「盛った」中位推計などを出している。いわば中位推計とは「政治家にとって望ましい数字」でしかなく、「統計的に正しい数字」ではない。
一方、結果として低位推計は正確であった。その証拠に、出生数の実績は30年近くも低位推計通りに推移しているからである。
社人研が1997年に出した低位推計の出生数は、2018年までほぼ誤差なくピタリと一致している。2017年の低位推計も、多少の上乗せはあるが、推移曲線としてほぼ当たっている。
しかし、今回最新で出された2023年の低位推計はやや不思議な数字となっている。
なぜか2024年は出生数が増えるとされ、それ以降もそれほど出生数は減らないという下げ止まり状態になっているのだが、どこをどう予測したらこうなるのか理解ができない。
普通に実績からの流れをみれば、実績予測で示したように減少し続け、2030年には最悪年間60万人にまで激減する可能性の方が高い。
もはや官僚の矜持でもある低位推計にまで政府への忖度が入ってしまったのだろうか。
注目すべきは婚姻減
出生数が今後も激減するというのは何も適当に言っている話でない。根拠のある話だ。なぜなら、出生数とは婚姻数と連動しているからだ。
その点、今回の速報において注目すべきは出生数の減少より婚姻数の減少である。
出生数の前年比は▲3.6%であるのに対して、婚姻数の前年比は▲7.3%である。実に、出生減の2倍以上婚姻数が減っていることになる。
当連載でも何度か指摘しているが、出生数とは前年の婚姻数によっておおよそ正確な予測が可能である。私が算定している「発生結婚出生数」によれば、前年の婚姻数に対して約1.5をかけたものが翌年の出生数とほぼイコールになる。いいかえれば、婚姻がひとつ減れば、1.5人の出生数が減るのである。
→「出生数80万人割れ?」発生結婚出生数からみれば予想通りの未来がきただけの話
つまりは、出生数が減っているのは婚姻数が減っているからであり、婚姻数の減少率より出生数の減少率が低いのは、「結婚した夫婦はなんだかんだ子どもを産んでいる」のであり、少子化の原因は「婚姻数が減っているから」ということに結論づけられるのである。
だからこそ、少子化対策において子育て支援偏重の政府の対策は的外れでしかない。これは、何度も書いていることである。
恋愛ロックダウンの影響はこれから
この速報値より2023年の年間婚姻数を予測すれば、46万8000組となる。年間婚姻数が47万組を下回るのは、1917年以来106年ぶりの低水準となる。この婚姻には再婚も含まれているため初婚数はもっと少ないだろう。つまりは、若者の初婚が激減しているということである。
しかし、2024年の婚姻数はもっと減るかしれない。
なぜならば、2020-2022年にかけてのコロナ禍において、若者の外出や出会いの機会をことごとく奪った「恋愛ロックダウン」政策がなされたからだ。
特に、大学生などは、3年間誰とも新しい友達と交流できないばかりか、飲食店などのバイト経験もできず、徹底的に新規の出会い機会が奪われた。この時期の恋愛経験の喪失は、そのまま「3年間の人生の空白時間」としてあとあとまで影響するだろう。
大学生だけではない。就職で一人暮らしをはじめた若者も同様である。
ただし、コロナがあろうとなかろうと関係のない恋愛強者たちは問題ない。自ら能動的に出会いを作れる。しかし、7割を占めるのはそうではない受け身で控え目な恋愛弱者である。学校や職場といった自然なお膳立てがないとなかなか出会う機会はない。
結婚氷河期到来
出生動向基本調査によれば、恋愛結婚の場合、出会いから結婚までの交際期間の中央値は約3年である。
本来なら、コロナ禍の3年間内で出会えたカップルが2024年から結婚していたはずだった、その元となる出会いがことごとくなくなったのだとしたら、少なくとも2024年からの3年間の婚姻数は激減するだろう。
→世の中の夫婦は交際何年で結婚しているか?平均値ではなく中央値で見る結婚決断の分岐点
たとえコロナ開けで若者同士の交流が復活したとしても、それが婚姻数としてカタチに表れるのは、順当にいっても2027年以降となる。
結婚が減るのはこれからが本番であり、むしろ2024-2026年の3年間は後世「結婚氷河期」と呼ばれる時代となるかもしれない。
かつての2000年代初頭の「就職氷河期」は就職したい意欲があっても受け入れてくれる雇用先がなかった。今回の「結婚氷河期」も恋愛や結婚したいという意欲はある層にとっては、出会いの機会が奪われてそもそも何一つ行動すらできなかった。就職と結婚と対象は違うが、若者が置かれた環境は同じである。
結婚が減れば、それと連動して、間違いなく出生数もより減るのである。
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