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「少子化のワニの口」国民負担率が増えれば増えるほど、婚姻も出生も激減している30年

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

立派なのは理念だけ

今年年頭の岸田首相の「異次元の少子化対策」発表以降、私は一貫してそれが的外れであることを指摘し続けていた。特に、児童手当のバラマキなど子育て支援一辺倒の対策では出生数は増えないことをずっと論じてきた。子育て支援は否定しないが、それを拡充しても出生数は増えないからである。

ところが、先月6月13日に内閣官房から発表された「こども未来戦略方針」の中では、3つの基本理念の第一に「若い世代の所得を増やす」というものが掲げられていた。これには全く異論はないし、その課題認識も間違っていないものだった。

以下、一部を引用する。

我々が目指すべき社会の姿は、若い世代が希望どおり結婚し、希望する誰もがこどもを持ち、安心して子育てができる社会、そして、こどもたちが、いかなる環境、家庭状況にあっても分け隔てなく大切にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会である。また、公教育の再生は少子化対策と経済成長実現にとっても重要であり、以下の基本理念とも密接に関連する。こうした社会の実現を目指す観点から、こども・子育て政策の抜本的な強化に取り組むため、今後、こども未来戦略会議において策定する「こども未来戦略」(以下「戦略」という。)の基本理念は、以下の3点である。

まさに、その通りで、子育て支援の前に、若者がこれから結婚して子育てをしていきたいと思えるような経済環境を整えることが第一なのである。

にもかかわらず、お題目は立派でも実際にやっていることは正反対で、社会保険料の増額や扶養控除の撤廃など次々と実質増税になる話ばかり。要するに、理念と真逆の「若い世代含めこれから子育てを担う世代の負担を増やす」ことをしているのだ。

まるで、社員採用ページに掲げた企業理念はご立派だが、実際従業員に対して過酷な労働環境を強いるブラック企業のようではないか。

国民負担の「ワニの口」

繰り返しこの連載でも書いている通り、出生数の減少は根本的には婚姻数の減少である。そして、婚姻数の減少は、決して「若者の結婚観の変化」などというものではなく、1990年代以降30年に渡って続いている若者の経済環境の停滞である。

以下に、婚姻数と出生数、それと財務省の出している国民負担率の長期推移の相関を見ると、驚くほど強い負の相関があることがわかる。比較をわかりやすくするために、1995年を1とした経年推移としてある。

婚姻数も出生数も1995年比で約40%減している。そして、見てお分かりの通り、出生数は婚姻数の減少と完全にリンクしている。むしろ、2010-2018年あたりは、婚姻数の減少幅より出生数の減少が小さい。これは、少ない婚姻数の中でも、結婚して出産した母親は一人当たり2人以上の子どもを産んでいるからである。

つまり、出生数が激減しているのは、そもそも婚姻数が減っているからに他ならない。ちなみに、2019年の婚姻数だけ突出しているのは令和婚効果である。

それと対照的に、国民負担率の増加は1995年比で約40%増にならんとしている。婚姻数・出生数とあわせてみると2003年頃を始点として、まるで財務省がよく使う「ワニの口」そのものの形である。

写真:イメージマート

同時に、その間、常雇者平均所得にしても、ほぼ1995年の水準に届いていない。もちろん、個人レベルでは、毎年多少なりとも給料はあがっているかもしれない。が、その間、社会保険料や消費税があがっている。国民負担率上昇分が給料上昇額を上回って、手取りは逆に減っているという人も多い事だろう。

若者の未婚化においては、よく氷河期世代や非正規雇用の問題が取りざたされる。それももちろんあることは否定しないが、正規雇用となった若者でさえ、今65歳以上の皆婚世代が若者だった頃とは、国民負担が圧倒的に違うのである。

事実、男性においては非正規雇用者より正規雇用者の生涯未婚者の方が人口としては断然多い。正規雇用ですら結婚できないのだ。

児童手当拡充しても出生増えない

相変わらず、「児童手当など家族関係の政府支出を増やせば出生数は改善される」などと言い続ける有識者もいるが、いくら家族関係の政府支出を増やしても効果がないことはこの何十年の実績で証明済みである。

下記のグラフで一目瞭然だが、1995年比で予算は2倍にも膨らんでいるのに、出生数は4割減である。4割減の出生数ということは子どもの絶対数が減っているということである。にもかかわらず、これほど予算が膨らんでいるというのもおかしな話である。一体、本当に予算は適正に使われているのだろうか。

そもそも日本に限らず、諸外国においても家族関係政府支出と出生数とは関係がないことは以前にも書いた通りである。フランスや北欧でさえ例外ではない。出生率世界最下位の韓国ですらそこを充実させてもむしろ少子化は加速している。

「異次元の少子化対策」を検証する~子育て支援は出生率に影響するのか?

日本が学ばなければならない「韓国の少子化対策の失敗」出生率激減の根本理由

こういうことを書くとツイッター界隈では「じゃあ、児童手当を撤廃すれば出生数は増えるとでも言いたいのか」というわけのわからない声が届く。そんなことは言っていない。何度もいうように、子育て支援と少子化対策は別物であるということだ。

将来のための社会保障費を確保することは必要だし、そこも否定しない。だからこそ、そもそもの国民一人当たりの収入は底上げしていかないといけないし、分配よりも成長が求められる。分配金の成長ではない。分配するにしても無駄のない適正化をしてほしいものである。その意味でも、適正かどうかわからない児童手当の拡充そのものも疑問だし、少なくともバラマキをしても、配った金額以上の徴収をしようとしている現在の政府のマヤカシにはNOというべきではないだろうか。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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