英保守党大勝利でNHKの受信料制度廃止に火が付くか
フーテン老人世直し録(481)
極月某日
世界が注目した英下院総選挙はジョンソン首相率いる与党保守党が歴史的な大勝利を収め、ジョンソン首相は公約通り来年1月末のEU離脱を宣言した。
この選挙結果は、2016年の国民投票以来離脱のやり方を巡り3度も離脱を延期するなど、「議会制度の母」と呼ばれた英国政治が混迷を重ね、嫌気がさした国民が中途半端な方針しか示せない野党労働党に愛想をつかしたためだと思う。
しかし都市部や若者の有権者にはEU残留を支持する者が多く、英国全体の世論調査ではわずかながら離脱派より残留派が多い。またスコットランドではEU残留と英国からの独立を訴えたスコットランド民族党が議席を伸ばし、スタージョン党首は独立のための2度目の住民投票に意欲を見せた。独立の機運は北アイルランドでも高まる可能性がある。
ジョンソン首相はこれからEUとの間で自由貿易協定の交渉に入るが、公約通りなら来年末までに交渉をまとめなければならない。それが出来なければ「合意なき離脱」と同様の混乱が起こると懸念する声もある。大勝したからと言ってジョンソン首相の前途には数々の困難が待ち受けている。
しかしジョンソン首相を力強く支援するのは米国のトランプ大統領だ。選挙結果を「素晴らしい」と称賛し、「米英はこれから新しい自由貿易協定を結ぶことが出来る。EUとの間のどんな合意よりはるかに大きく、利益をもたらすものになる」とツイッターに書き込んだ。
米国から見れば、英国がEUから離れ、米国に近づくことは地政学的に極めて重要である。独仏を中心とするEUは米国の世界支配に対抗する勢力になりうるからだ。共通通貨ユーロがドルの基軸通貨としての地位を脅かす存在と認識されたのは、イラクのサダム・フセイン大統領が石油の決済をドルからユーロに移行させようとした時である。
米国はイラクが大量破壊兵器を持っていると嘘情報を流して戦争を仕掛け、サダム・フセインを抹殺した。この戦争で英国は米国の有志連合に参加したが、独仏は米国の戦争に反対を貫く。その独仏がロシアや中国と手を組むことになれば、欧州、ロシア、中国を抱えるユーラシア大陸が一つの塊となる。それは世界の中心が米国からユーラシアに移ることを意味する。
中国の「一帯一路」は中国と欧州の距離を縮め、その中国とロシアの軍事協力は世界最強の軍事国家である米国への挑戦だ。さらに韓国の文在寅大統領の構想を聞くと、釜山から北朝鮮を経た列車がシベリア鉄道に乗り入れ、ロシアを経由して欧州との経済関係を強めると言う。日米間の枠組みより明らかにユーラシアを意識している。
それが実現するかどうかは不明だが、米国としては対抗上、欧州では英国を、アジアでは日本を強く引き付け、両国を米国の意のままにする必要がある。ユーラシアが一つの塊になることを阻止するため、英国のEU離脱は大歓迎ということになる。
しかし英国のEU離脱は、スコットランドや北アイルランドを見ると「連合王国」としての英国の統一を損ないかねない危険性をはらむ。ジョンソン首相は「少数意見を尊重する」と民主主義の基本を強調したが、多数の議席を得たからと言って何でもできるわけではない。
特にかつて労働党支持者で今回は保守党に投票した層には特別に配慮する必要があるだろう。ある種の貧困対策を考えるのではないかと思う。その中でフーテンが注目しているのは公共放送BBCの受信料制度見直しである。
ジョンソン首相は選挙の遊説中に、BBCの受信料制度は「税金」のようでおかしい。視聴した分だけ払う有料放送型に移行させるのが望ましく、選挙に勝利すれば受信料制度の「廃止」を検討すると表明した。
日本のNHKがモデルにしてきたBBCの受信料制度が「廃止」されれば、その影響が日本に及ぶことは必至である。それでなくとも肥大化と政治の介入が問題にされる巨大放送局NHKの在り方については、これを機に徹底して見直す時期が来ていると思う。
受信料制度を見直し、視聴した分だけ支払うスクランブル放送の実現を訴えて「NHKから国民を守る党」が参議院選挙で1議席を獲得した時、フーテンは『NHKは受信料制度だけが問題なのではない』というブログを書いた。
テレビを買えばNHKに受信料を払わなければならない受信料制度は「税金」と同じという理屈から、NHKの経営は国会から監視される。役所と同じように予算は国会のチェックを受ける。良いことのように思えるがまるで逆だ。予算を通してもらうためNHKは多数党に逆らえなくなる。
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