学会は安倍総理のやることを「道徳的に不適格」とは思わないのか
フーテン老人世直し録(483)
極月某日
トランプ大統領は米国議会下院から弾劾訴追されても、上院で無罪を勝ち取り、それを来年の大統領選にプラスに働かせようとしている。従って建国以来3人しかいない不名誉な弾劾訴追を受けても余裕綽綽である。
民主党による弾劾を「魔女狩り」と呼び、「米国に対する攻撃」と主張して有権者を引き付けようとする。それを手助けするように18日の下院本会議では、共和党議員がトランプを受難のキリストに、民主党を真珠湾奇襲攻撃の日本軍に擬えた。
ところが翌19日にトランプ支持基盤の一角であるキリスト教福音派の雑誌が、「トランプ罷免」を求める論評を掲載し、トランプを慌てさせた。トランプは雑誌を「極左」と呼び、猛然と批判を始めている。
福音派の求めるエルサレムへの米国大使館移転や、「中絶反対」の最高裁判事指名など、福音派のために尽くしてきたのは自分だと主張したが、しかしその雑誌「クリスチャニティ・トゥデー」のマーク・ガリ編集長もCBSテレビやCNNに出演してトランプ大統領を批判している。
ガリ編集長は「自分たちの立場は中道であり、大統領の批判は正確でない」としたうえで、「トランプ大統領は道徳的に不適格だと判断している」と述べた。そしてその可能性は低いことを認めながらも、上院で罷免されるか、来年の大統領選挙で落選させることを考えていかなければならないと主張している。
「クリスチャニティ・トゥデー」はキリスト教伝道者ビリー・グラハムが創刊した雑誌だが、ビリー・グラハムは大衆を集め魂を揺さぶる演説を行い、信仰上の「生まれ変わり」を経験させる伝説的人物である。「生まれ変わった」信者は聖書をありのままに受け入れる。
つまり信者は「悪魔の存在」を認め、また人類がサルから進化したとするダーウィンの「進化論」を認めない。聖書の教えは地球上のすべてを神が創ったからだ。福音派の数は米国有権者の4人に1人と言われ一大勢力である。そのため米国には「進化論」を教えない学校が多数あり、米国民の48%が「進化論」を否定するという調査結果もある。
福音派は「妊娠中絶」を認めないので、福音派に支持される共和党は「中絶反対」を掲げる。だから米国の政治は常に「中絶問題」が選挙争点になる。湾岸戦争に勝利して支持率が90%近くあったブッシュ(父)大統領がクリントンに敗れたのは、経済の落ち込みと共に中絶問題で女性有権者から嫌われたためだ。
ブッシュ(父)が黒人で中絶反対の弁護士を最高裁判事に指名すると、中絶するかどうかは女性が決めると主張する女性たちが、ワシントンで「ブッシュを倒せ!」と10万人規模の大デモを起こした。ワシントンに事務所を持っていたフーテンはそれを見て驚いたが、米国政治には必ず宗教が絡むことを知った。
クリントンの後に大統領になったのは、ビリー・グラハムから洗礼を受けて「生まれ変わった」ブッシュ(子)である。ブッシュ(子)は福音派の熱心な信者で、だからイラク、イラン、北朝鮮を「悪」と名指し、イラクに大量破壊兵器がないにもかかわらず戦争を始めた。
オバマは福音派とは異なるクリスチャンで「中絶容認」の立場だったが、しかし大統領就任式には福音派の牧師を招きその聖書を使って宣誓した。福音派を敵に回すことは政治的に賢くないと考えたためである。
そして元来は民主党支持者で、信仰心があるとは思えないトランプは、ブッシュ(子)のやり方を学習し、福音派に取り入ることが絶対的に必要だと考えて大統領選挙に打って出た。だから米国大使館をエルサレムに移し、中絶反対の最高裁判事を指名するなどして福音派を喜ばせてきた。
しかし「ロシア疑惑」や「ウクライナ疑惑」はトランプが個人の利益のために憲法を裏切っていることを示したとガリ編集長は主張する。そして福音派の別の指導者もガリ編集長の論評を「大きな分水嶺になる出来事」として「トランプが我々の望む裁判官を指名してくれたからと言って、何でも見て見ぬふりは出来ない」と言い、「白人の女性や若い福音派の信者に影響を及ぼすだろう」と予測している。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2019年12月
税込550円(記事6本)
2019年12月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。