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日米の不気味なスキャンダルは米国で山場を迎え日本では暗闘となった

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(482)

極月某日

 第45代米国大統領ドナルド・トランプが連邦議会下院で弾劾訴追された。過去に訴追された大統領は民主党の第17代アンドリュー・ジョンソンと第42代ビル・クリントンの2人だけで、共和党では第37代リチャード・ニクソンが訴追される前に自ら辞任し、トランプは共和党初の弾劾訴追された大統領となった。

 アンドリュー・ジョンソンとビル・クリントンはいずれも上院で弾劾無罪となるが、ジョンソンは2期目の大統領選挙に出馬することなく、クリントンは2期目での弾劾だったのでそのまま退任した。トランプが上院で無罪になれば、弾劾されても大統領再選を目指す史上初の大統領になる。

 現実に上院で有罪となるには20人の共和党議員の造反が必要で、無罪になる可能性が極めて高い。しかも民主党が弾劾を急ぐ姿勢が反発されたのか、最近の世論調査では7割の国民が「大統領は間違ったことをしている」と思っても、弾劾反対が賛成をわずかながら上回っている。

 トランプは訴追した民主党を徹底批判し、弾劾無罪を勝ち取ることでそれを大統領選挙にプラスに働かせようとしている。共和党上院議員も本音では国民と同様に「大統領は間違ったことをしている」と考える者が多いと思うが、しかし造反すれば自身の選挙が危うくなるためトランプを守る側に立つことになる。

 実際に下院の採決では共和党からの造反者は一人も出なかった。いや造反が出なかっただけではない。トランプを受難のイエス・キリストになぞらえ、また民主党の訴追を日本軍の真珠湾奇襲攻撃になぞらえてトランプ擁護の演説を行う共和党議員まで現れた。

 共和党支持者の中ではトランプはイエス・キリストの再来であり、トランプを攻撃する民主党はだまし討ちで米国民を殺した日本軍という悪役に置き換えられる。ウォーターゲート事件の時に疑惑の解明に積極的だった共和党の面影はまるでない。

 そのためか民主党のペロシ下院議長は弾劾が訴追されてもすぐに上院に送ることをしない。上院の裁判での公平性が担保されるかを見極めるという。大統領選挙を睨みながらの政治的駆け引きが始まった。今後はミット・ロムニー氏などトランプ大統領に批判的な共和党上院議員の動向に注目が集まる。

 前に『ついに嵐がやって来た!?日米両国の不気味なスキャンダル』(9月30日)というブログを書いた。それはいずれも内部告発による「ウクライナ疑惑」と「関西電力疑惑」を指すもので、トランプ政権と安倍政権を揺るがす事態になると予想した。

 そのうちの「ウクライナ疑惑」は、今回の大統領弾劾訴追で一つのピークを迎えた。決着は上院の裁判ではつけられずに来年の大統領選挙に持ち越される。一方の「関西電力疑惑」は関西電力が作る第三者委員会が調査するということで時間稼ぎが図られた。年を越さなければ報告書は出てこない。

 ところが日本の「不気味なスキャンダル」は他からも出てきて安倍政権を揺るがす事態になった。公職選挙法違反容疑での2人の大臣の辞任と「桜を見る会」である。さらにゴーン事件で国際的に批判された東京地検特捜部が、ここにきて久々の政治家逮捕を視野に入れた「IR疑惑摘発」を始めた。

 それらがフーテンの見るところ、菅官房長官の周辺をターゲットに、菅官房長官の力を削ぐ目的で行われているように見える。つまり安倍政権の権力内部の暗闘が表に出てきたのだ。不気味なスキャンダルが何を意味するか、注目していかなければならない。

 『ついに嵐がやって来た!?』でフーテンは、国税からと思われる「関電疑惑」の内部告発について一つの見方を示した。内部告発文書が関西電力やメディアに送られたのは今年3月で、それは原発推進の汚れ役高浜町元助役の森山栄治氏が死亡した時期である。

 汚れ役の森山氏は原発推進派にとってありがたい存在だった。その森山氏に対し金沢国税局が税務調査の対象とした時期は2011年から18年である。福島原発事故で国民に反原発感情が高まった時期は原発推進派にとって危機であった。

 その時期に大阪府の橋下徹知事や滋賀県の嘉田由紀子知事を説得して関西電力の原発再稼働を認めさせたのは安倍総理の今井尚哉総理秘書官兼補佐官である。上からは今井氏が下では森山氏が原発再稼働を主導した。なぜその時期をターゲットに国税が税務調査を行ったのか。そしてその内容を森山氏が死んだ時期にリークしたのか。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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