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自民党の裏金文化の背景にある贈与経済と共生型民主主義

田中良紹ジャーナリスト
(写真:Fujifotos/アフロ)

フーテン老人世直し録(755)

水無月某日

 政治資金規正法改正を巡る動きは、フーテンが予想した通りである。自民党は公明党と維新の提案を丸のみして法案の衆議院通過を図り、参議院で更なる妥協を行うことで会期内の法案成立を目指している。

 立憲民主、共産、国民民主など他の野党は、企業・団体献金や資金集めパーティの禁止など、与党が受け入れられない法案を提出して否決されるのを待つ。どうしたら裏金をなくせるかは考えない。裏金が存続し続ける方が今後の選挙を有利にすると考えている。

 仮に企業・団体献金を禁止しても資金集めパーティを禁止しても裏金がなくなることはない。公然と行われてきた資金集めが闇に潜るだけで、ますます国民には見えない世界になる。フーテンが恐れるのは、そうなることで闇社会や外国勢力が日本の政治に影響力を行使する可能性が大きくなることだ。

 だからフーテンは政治資金の透明化を第一に考え、そのためには規制も罰則も科さないで、政治家に正直に公開させることを主張してきた。違法献金を罪に問うと言えば誰も正直には公開しない。それより正直に公開させて、それが認められるか否かを国民に選挙で判断させる。それが民主主義のやり方だ。

 しかし国民には判断能力などないと考える人たちがいる。その人たちはそもそも民主主義を信じないエリート主義の人たちだ。それが民主主義をおかしくしていると底辺が気付き始めた。アメリカのトランプ現象をはじめ世界で起きている「極右の台頭」と呼ばれるのはそれだと思う。人権や民主主義を掲げて綺麗ごとを言う「嘘」に反発が始まったのだ。

 フーテンは戦後民主教育を受けて育った世代である。共同体社会の古いしきたりや濃密な人間関係は民主的でないと教えられ、個の確立こそが大切だと言われてきた。ところが社会人になると、いたるところに共同体社会の残滓があり、とりわけ霞が関や永田町の官僚と政治の世界にはそれが著しいことを知った。

 官僚たちの机の引き出しには必ず祝儀袋が入っていて、同僚の出張や祝い事には金を入れて渡す。政治家もいつでも金が配れるように祝儀袋を用意している。これは資本主義経済ではない。仲間同士が助け合う相互扶助の贈与の世界である。それが裏金文化の背景にある。

 資本主義だと思っていた日本経済に資本主義以前の「贈与経済」が色濃く残っていた。資本主義経済は民主主義をもたらすが、それは贈与経済をベースにした共同体社会の絆を弱める。そして金が中心の資本主義はいずれ格差を拡大させ民主主義を弱める。

 フーテンから見ると贈与経済が残る日本社会は純正の資本主義でも民主主義でもない。日本を高度経済成長に導いた「終身雇用制」、「年功序列賃金」、「企業内組合」は共同体の仕組みそのもので、それを実現させた戦後政治は自民党と社会党が裏で手を結ぶなれ合いの世界だった。

 そこに一人の異能の政治家が現れた。田中角栄である。田中は戦後民主主義の申し子だ。民主主義は多数決原理で数の多い方が勝つ。だから田中は数を集めた。集めるのに資本主義と贈与経済のやり方をミックスした。お中元やお歳暮、祝い事や出張に金をはずむのだ。これは誰も断れない。

 借金で窮地に陥った人間が相談に来れば3倍の金額を渡し、まずこの金で借金を返せ、次に迷惑をかけた周囲にお礼をしろ、残りを次の災難に備えろと言って励ます。こうして田中は数を集め、さらに官僚が独占する法案作成を、議員の立場で33本も作り成立させた。

 ある官僚がフーテンに「私は国家を支えようと志を抱いて官僚になった。しかし田中角栄を見て打ちのめされた。こんな議員が現れたのでは我々の立場がなくなる」と嘆いた。そのせいか立花隆が月刊文春に『田中金脈研究』を書くと、一斉に田中金権批判が巻き起こった。

 田中が総理を辞任すると、後任の三木武夫が「クリーン三木」を標榜し、政治資金規正法改正に初めて手を付けた。こうして法律に初めて金額の規制が盛り込まれ、それまで政治資金は自民党が大企業から、野党は労働組合から支援されていたのが、企業・団体献金はよろしくない、資金集めパーティで集めろとパーティが奨励された。

 その直後に起きたロッキード事件で田中は逮捕され、「金権腐敗政治家」として日本中から叩かれた。フーテンは東京地検特捜部を取材する社会部記者だったが、特捜部は現場の検事の抵抗で「捜査終了宣言」を出すことができなかった。現場の検事は田中逮捕で捜査を終わらせることに抵抗した。つまり本命は別にいた。

 またロッキード事件は世界各国にまたがる事件だったが、どの国でも逮捕された政治家はいない。米国議会がロッキード社の秘密代理人と名指しした西ドイツの国防大臣は逮捕されないどころか、その地位に何の揺らぎもなかった。

 日本だけが三木元総理の指示で米国に資料を請求し、ロッキード社幹部の証言を根拠に田中を逮捕した。田中の死後、最高裁はロッキード社幹部の証言を証拠採用しなかった。しかし田中逮捕が国民に与えた衝撃は大きく、それ以来「政治とカネ」と言えば直ちに国民の怒りが沸騰する。

 一方、無実を訴える田中は政治の力で無罪を勝ち取ろうと、派閥を膨張させることに心血を注ぎ、150人近い大派閥を作って日本政治を裏から操った。それが日本政治にその後も続く歪んだ構造をもたらしたとフーテンは思っている。

 三木内閣の政治資金規正法改正で、政治資金は闇に潜るようになった。個人献金が上限5万円とされたことから偽名や仮名の献金が増えた。パーティを奨励するため20万円までは氏名が公表されない仕組みが、今回の改正で5万円に引き下げられた。おそらく偽名や仮名を含め購入者の数を増やすだけの結果に終わる。

 立憲民主党はパーティ禁止を主張するが、三木内閣が奨励した仕組みの何が問題なのかを説明すべきだ。そのやり方を改善するのではなく禁止にすれば、パーティに代わる新たな集金方法が生まれ、そちらの方が裏金を作りやすくなることもありうる。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:7月28日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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