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トランプ氏の命を救ったのは、皮肉にもバイデン氏? 指名受諾演説から見えた本当のところ

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
団結を呼びかけながらも、指名受諾演説でバイデン氏や民主党を批判したトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 7月18日、共和党全国大会で共和党大統領候補に指名されたトランプ氏が、92分にわたる長い受諾演説を行った。この長さは、近年行われた受諾演説としては最長だという。

 冒頭、暗殺未遂事件の際、愛と支援をたくさんもらったと感謝を示したトランプ氏は、撃たれた時のことを「何が起こったのか正確にお話しする。皆さんが私からそれを2度聞くことはないだろう。なぜなら、話すのがあまりにも辛いからだ」と前置きし、弾丸が耳に当たった時に「大きなヒューという音」がしたと言いつつ、こう言及した。

「右耳に何かが強く当たるのを感じた。弾丸に違いないと思い、右手を耳に当てて押さえた。手は血で覆われた。そこらじゅうに血が飛び散った。これはかなり深刻なことだとすぐにわかった」

 また、トランプ氏は、「興味深い統計がある。耳は最も出血する部位なのだ。耳に何かが起きると、どんな理由があろうと、体の他の部位よりも出血する」と説明。この説明は、前の投稿で書いたが、トランプ氏の医師がポッドキャストに出演して「耳は血管が密集しているため、ひどい出血だった」との指摘を示しているかのようだ。

 さらに、自分が死んだかもしれないと案じた聴衆が、会場からすぐに立ち去らなかったことにも言及、聴衆に自分が無事であることを知らせるために、右拳を振り上げて「ファイト、ファイト、ファイト」と叫んだと話した。

トランプ氏の命を救ったチャート

 ところで、暗殺未遂事件でトランプ氏がサバイブできたのは、彼が頭を横に傾けたからだと指摘されている。なぜ、トランプ氏がそのような動作をしたかというと、同氏は、会場のスクリーンに映し出されていた、国境警備隊が作成した、近年の不法移民者数を示すチャートを指差そうとしていたからだ。

 トランプ氏は、演説する中で、そのチャートのことを「これが私の命を救ったチャートだ」と会場で披露して、こう言及した。

「前にこのチャートが(集会会場でスクリーンに)掲示された時は、(撃たれたので)実際にそれを見ることはできなかった。しかし、このチャートがなければ、私は今日、ここにいないだろう。しかし、今見ることができている。チャートのことを誇りに思っている」

 披露されたチャートは、バイデン氏が大統領就任以降、国境から流入する不法移民の数が増加している状況を示していた。見方を変えれば、皮肉に聞こえるかもしれないが、バイデン氏が取った移民政策が不法移民の流入の増加に繋がったことが、トランプ氏の命が救われた遠因としてあると見ることもできるのではないか?

鋭いレトリックは変わっていない

 全体的に控え目なトーンで演説したトランプ氏だったものの、演説後半では、バイデン氏や民主党に対し、従来のトランプ氏らしい鋭いレトリックを披露した。

「米国史上最悪の大統領を10人あげて、彼らを足し合わせたとしても、彼らはバイデンがもたらしたようなダメージは与えていない。この言葉は1度だけ使う。バイデン、私はもうこの名前は使わない。1度だけだ。彼がこの国に与えたダメージはとてつもない」

とバイデン氏の名前を1度だけ口にして批判した。
 また、民主党に対しても、

「反対意見を犯罪とみなしたり、政治的意見の相違を悪者扱いしたりしてはならない。最近、我が国ではこれまでにないレベルでそれが起きている。そんな精神で、司法制度を武器にしたり、政敵を民主主義の敵とレッテル貼りするのを民主党は直ちにやめるべきだ」

「民主党が国を1つにしたいのであれば、私が約8年間経験してきた党派的な魔女狩りをやめるべきだ」

「我々の政敵は平和な世界を受け継ぎ、それを戦争の惑星に変えた」

などと述べて批判した。

「米国の半分ではなく、米国全体のための大統領になる」と訴え、銃撃事件を契機に変わったことをアピールしたようにも見えたトランプ氏だが、相変わらずの鋭いレトリックだった。

 結局のところ、本質的には変わっていないトランプ氏が見えたように思う。これからも、トランプ氏がその変わらない本質を示し続けるのであれば、劣勢に立たされている民主党にはまだ勝ち目が残っているのかもしれない。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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