撃墜されたキンジャール?らしき回転しながら遅く落下するミサイルの検証
1月2日のウクライナ迎撃戦闘(説明記事)で、ロシア軍は「極超音速兵器」のキンジャールでキーウ攻撃を仕掛け、ウクライナ軍は飛来したキンジャール10発をパトリオット防空システムで全弾撃墜したと発表しています。
そして奇妙な動画が報告されます。大きなミサイルが回転しながらゆっくり落下してキーウ市内を流れるドニプロ川に着水する映像です。これは迎撃されたキンジャールが姿勢を乱しながら落下してきたのではないかという推測が広がっています。
くるくる回転ゆっくり落下するキンジャールの残骸?
キンジャールの実態はイスカンデルM弾道ミサイル空中発射型です、最終突入段階ではマッハ4弱で落下して来るキンジャールは、正常ならばこんなに遅くゆっくりと落下してはきません。ただし高速の弾道ミサイルといえど姿勢を乱して回転を始めると、急激な空気抵抗の増大で速度が大きく落ちて遅くなることはトーチカU弾道ミサイルの映像で既に知られています。
参考:くるくる回転ゆっくり落下するトーチカU弾道ミサイルの残骸
上記トーチカU弾道ミサイルの事例は2022年4月27日にウクライナのドニプロペトロウシク州で目撃された落下例です。このケースではトーチカUはクラスター弾頭型で、クラスター子弾を空中散布した後に弾頭のカーゴ部分を切り離して全長が短くなったミサイルが姿勢を乱し、くるくる回転ゆっくり落下してきたというものです。
つまりミサイルがくるくる回転ゆっくり落下してくるケースは以下のような可能性などが考えられます。
- クラスター弾頭を切り離して姿勢を乱した
- 迎撃によって部分的に破壊され姿勢を乱した
それではキーウ市内を流れるドニプロ川に着水した「回転落下物体」について分析していきたいと思います。先ずは着弾地点を特定します。
推定着弾地点:集合住宅「ルサニフスカ・ハバン」背後のドニプロ川
キーウ市内を流れるドニプロ川に着水したミサイルらしき物体の映像を見ると、形状が特徴的な高層マンションが見えます。これを画像検索して絞り込むと位置が直ぐ判明します。キーウ市ドニプロ区の中央あたりのドニプロ川沿いの集合住宅です。複数の棟が纏まって建設されている新築の高級住宅のビル群です。
Житловий комплекс «Русанівська Гавань»
集合住宅「ルサニフスカ・ハバン」 ※画像検索
ミサイルらしき物体が集合住宅「ルサニフスカ・ハバン」の背後のドニプロ川に着水した地点はおそらく座標(50.459244, 30.579642)の周辺になると推定されます。残骸を回収すれば正体がはっきりするでしょう。なお空気抵抗を受けてゆっくり垂直に近い角度で落下して来たので、この映像だけでは飛来方向は絞り込めません。
キンジャール?らしきミサイルが回転しながらゆっくり落下
ミサイルらしきものがゆっくり落下して着水する様子です。着水寸前にミサイルが横倒しになって水面に当たったせいなのか、大きな水柱が二股に別れています。また向かって右側の水柱にミサイルの部品らしき黒い影が写っています。軽い部品が外れて水柱に乗って跳ね上がったのでしょうか?
落下中のキンジャール?らしきミサイルの全長と直径の比率の考察
比較用にイスカンデルM弾道ミサイルを追加
比較用にパトリオットPAC-2地対空ミサイルを追加(TOP絵も同じ)
落下するミサイルの検証まとめ
※ミサイルらしき物体は回転を続けているため完全には真横を捉えている映像ではない可能性に注意。解像度も低く確定的なことは言えないが、ミサイルの全長と直径の比率からは太い弾道ミサイルの特徴が見える。
※鋭く尖った先端が見える。つまりノーズコーンは外れておらず、クラスター子弾を放出した様子が無い。クラスター子弾の放出に失敗したか、あるいは単弾頭型の可能性が高い。すると迎撃の地対空ミサイルを被弾した影響で飛行姿勢が乱れて回転しながら落ちて来た可能性がある。
※鋭く尖った先端があるならば、地対空ミサイルの弾頭が起爆して下半分が落下してきた可能性は低い。
※主翼が見当たらず巡航ミサイルの可能性は低い。
※地対空ミサイルは細長い筈なので可能性は低い。
※太い円筒の部分が半分を占め、尖った円錐の部分が半分を占める構造は、キンジャール/イスカンデルM弾道ミサイルの形状の特徴と一致する。
※S-300V防空システムの9M83地対空ミサイルはウクライナ軍の保有する地対空ミサイルで最も大きく太いものだが、ブースターだけでなくサステナー部分も先端付近から底部まで全体が円錐の形状をしており、上記の構造と異なる。
※IRIS-T SLS地対空ミサイルの細長い安定翼(ストレーキとも呼ぶ)は直径を大きく見せる錯覚を起こすが、映像ではストレーキ後方の尾部(操舵翼ユニット付き、全長の2割近い長さ)が確認できず、遠目でも見える筈の段差が無い。
※ウクライナ軍が保有する地対空ミサイルの種類では特徴が全て一致する形状の物が見当たらない。ただし比較している肝心の映像の解像度は低いので確定的なことは言えないので注意。地対空ミサイルの中でシルエットがやや似ているのはS-300Vの9M83。
※比較図のパトリオットPAC-2地対空ミサイルは本来はキンジャール/イスカンデルMより全長は短いが、直径の太さを比較しやすいように敢えて全長を揃えてある。なおPAC-3はPAC-2より更に細いので比較するまでもなく該当しない。
※比較図にキンジャールではなくイスカンデルM弾道ミサイルを用意したのは、キンジャールの底部空気整流キャップは発射時のロケット点火前に投棄するので、落下中の状態を比較する場合は整流キャップ無しの物を用意する必要があるため。整流キャップの無いキンジャールはイスカンデルMと形状はほぼ同じ。
※2024年1月27日追記:キーウ市のドニプロ川に落下したミサイルを回収、イスカンデルMないしキンジャールで確定
- 川底から回収されたミサイルの残骸に「9M723」と書かれており、イスカンデルMないしキンジャールで確定しました。
参考:キンジャールは極超音速兵器ではなく単なる空中発射弾道ミサイル
※キンジャールは整流キャップをロケット点火前に投棄する。