北欧ノルウェーが幸福な国である理由を知る、5つの言葉
北欧諸国といえば、幸福度ランキングでよくトップを占めています。
「なんで?」とノルウェーの人に聞いてみてください。「どういう時に、幸せ?」と。
「自然」。
そう答える人が、多いのではないかと思います。
首都オスロは、今年の「欧州・緑の首都」に選定されています。
日本では知られていない賞なので、ぴんとこないかもしれません。
詳しくは「欧州都市が欲しがる「緑の賞」って何? 2021年の首都は、北欧のあの国」。
受賞理由のひとつには、「自然と生物多様性」があります。
それって、つまりどういうこと?
今回は、ノルウェー人と自然との生き方を理解するのに役立つ、「5つの言葉」をチョイスしてみました。
・・・・・
68万人が住むオスロでは、
- 土地の三分の二が、緑地・森林におおわれている
- 市民ひとりあたりに37.2平方メートルの緑地
- 都会であるにも関わらず、98%の市民が、緑地から300メートル以内に住んでいる
1・森林の住民、ノルウェー人の言葉「マルカ」
オスロの森林地帯は、マルカ(Marka)と呼ばれています。ほかの言語には訳しにくい言葉です。
「マルカ条例」により、自治体が保護する森林地帯は、自治体面積の60%をも占めます。
「マルカへ散歩へ行こうか」は、日常生活で自然と耳にする言葉。
アウトドア・アクティビティと自然は、国民のアイデンティティともいえます。
2・自然と共存する暮らし方「フリルフツリヴ」
リラックスしたい時、人々はマルカへ行き、鳥の声を聴き、クロスカントリースキーをし、キャンプなどをします。
フィヨルドで、市民は釣りや水泳を楽しみます。
住宅のすぐ側にある水路は、昆虫や鳥類たちの生息地となり、市民は家から自然へすぐにアクセスできます。
このような「自然と共存する暮らし」は、ノルウェー語で、「フリルフツリヴ」といいます。
3・自然はみんなのもの「自然享受権」
「自然享受権」という言葉を聞いたことがありますか?
他の北欧諸国にもある権利なのですが、自然はみんなのものなので、誰もが自然にアクセスできることを保証するものです。森も、海も、みんなで共有して、大切にしていくもの。
他人の土地でも、所有者の承諾なく、「相手・植物・動物の平和を邪魔しない範囲内で」、自由にキノコ採集などができます。キャンプをする場合も、住宅から最低150メートル離れているなど、一定のルールを守れるのであれば、ご自由にどうぞ。
4・クロスカントリースキー
さて、ノルウェーの国民的スポーツは、なんだと思いますか?
それは、クロスカントリースキー。「歩くスキー」です。
日本でよくある、下りていくスキーとは違って、スキー板で平地を歩いたり、坂を上り下りします。
緑地地帯、マルカがある場所は、冬は「無料のスキー場」となるのです。
クロスカントリースキーは、家からすぐ側の場所で楽しめます。
雪がたくさん積もった日は、クロスカントリースキーで出勤する人や、子どもをソリに乗せて幼稚園や保育園に送迎する保護者もいます。
ノルウェーの政治家というのは、「私たちも、皆さんと同じ、普通の人ですよ~」というアピールが大好き。
ワッフルやピザを食べたり、フリルフツリヴをしている写真をSNSにアップしたりもします。
ソールバルグ首相も、森を散歩していたり、クロスカントリースキーをして、インスタグラムに写真をアップしていますよ。
冬に青空になると、ノルウェーではまだ使用率の高いFacebookで、クロカン写真が大量に流れてくることがあります。
クロカンをした後の気分は最高で、SNSで自分の幸せを記録したくなるのです。
ちなみに、冒頭で説明した、森林地帯マルカを守る「マルカ条約」では、保護地に635キロメートルのスキートラック(走路)も含まれているんです!
市民の税金で、市はスキートラックを整備しています。税金の使い方が、お上手。
5・自然を愛するコミュニティ、山岳協会DNT
今回紹介する5つの用語の中で、日本のメディアで一番まだ紹介されていないのが、恐るべし、ノルウェー・トレッキング協会、「DNT」。
30万人もの有料会員がいて、150年以上の歴史がある巨大組織。大人の年会費は8700円。
オスロでは9万人が会員、つまり首都人口のおよそ7人に1人が加入している、モンスター組織。
というか、私も会員。でもこれは広告記事ではない。自腹記事。
本格的な山登りだけではなく、山から海を含め、自然での散歩やアウトドア活動が好きな人は、このコミュニティに属すると、楽しいことがたくさんあります。
DNTは、
- 市民を代表して、「こういう政策が必要だよ!」と組織に提案したり、
- 子どもや若者が外で活動しやすいように、料金が安めのレッスンや行事をしたり、
- 移民や難民が社会に溶け込みやすいように外へ招待したり、
- 新しいスポーツをしたい市民にレッスンを提供したり
- 全国各地に550のキャビン(自然の中にある宿泊施設)を所有し、会員に提供
そもそもDNTは、自然との絆が特殊なノルウェーの生き方が「コミュニティ」という形になったものだと思っています。類似するような影響力を持ち、人々に愛されている組織は、日本にはないのではないでしょうか。
オスロが「緑の首都」に選ばれた背景には、このような超強力なコミュニティの存在もあります。
・・・・・
「ノルウェーの人って、どうして幸福なんですか」ってよく聞かれるのですが、自然との生き方は確実に関係があります。
他にもいろいろあるのですが、今回はがんばって5点に絞ってみました(最初は3点の予定だった)。
ノルウェーが自然をこのように維持できている理由には、政治家も「自然が大好き!」。自然・環境を、みんなで政治や共同体意識で守ってきたんですね。
一方で、石油・ガス資源に依存しているため、国民の罪悪感は、きゅっと締め付けられることもあります。
「幸せは、探しに行かなくても、あなたのすぐ側にある」と、よく言いませんか?。ノルウェーの人は、身近な幸せに気づくのが上手なのかもしれません。
こちらの記事も参考に
- 「存在感ゼロだった「水路」は癒しスポットになるか?メンタルヘルス向上も ノルウェー」
- 「絶景ロフォーテンで油田開発?ノルウェーの若者が海に浮かび抗議」
- 19日間100時間以上、市民の山歩きを延々と生放送 ノルウェー国営局スローテレビ
Photo&Text: Asaki Abumi