19日間100時間以上、市民の山歩きを延々と生放送 ノルウェー国営局スローテレビ
編み物、暖炉で燃える薪、釣り、船や電車からの車窓、鳥の子育て……。ひとつのテーマを、未編集で延々と生放送するノルウェーのスローテレビ。
今回は、夏の特別番組として、ハルダンゲルヴィッダ、ヨートゥンハイメン、ヴェステローレン、インドレ・トロムソという、美しい自然景色が有名な4か所のハイキングスポットから生中継。
7月12日~8月5日まで、ラーシュ・モンセン氏という自然探検家が、番組司会者として各地を順番にまわる(中継は1日に2回に分けて放送。現地時間のスローテレビ放送時間11~16時と、夏の特別番組21~22時)。
現地の芸能人や市民も、ツアーに参加し、延々と山をハイキングする映像が放送される。
・・・・・
ノルウェー流、テレビ番組の作り方
日本のテレビ局と比較して、事前にあまり計画を立てずに、「なにかあったら、その場で臨機応変に対応」、「なんとかなるだろう」というのが、ノルウェーの番組作りの特徴だ。
番組内容も国民性も、のんびりとしているので、小さなハプニングがほほえましい出来事として受け止められる。
コントロールが効かない自然現場での生放送なので、時に放送が途切れたり、カメラがおかしな方向を映している、なんてこともよくある。
ハイキング中には休憩も必要。途中で、チェスをし始めたり(ノルウェー人はチェスが趣味)、川で魚釣りを始めたり、子どもがカエルと遊んだりする様子が初日には流れている。
・・・・・
スローテレビでは、公式HPやSNSで、視聴者と番組スタッフがチャットする様子も話題となる。
フィードバックで、番組の放送の仕方を変えることも。
余計な編集は、いらない。「音楽をかけないで!」
今回は、ノルウェー人が大好きな山歩きということもあり、「放送中に音楽をかけないで!」という声が殺到。
風の音や鳥の声、雑音がない「ありのままの自然」の状態を楽しみたいという声から、番組側は音楽の量をすぐに調整した。
ノルウェー人ならではの価値観がみえる番組
ノルウェー人といえば、シャイな国民性という一方、自然の中では見知らぬ人に挨拶しはじめるという二面性をもつ。
今回も番組中に、「山では他人に挨拶するか?」という話題がでて、公式HPの意見調査では、96%が「挨拶する」と答えた。
北欧の中でも、ノルウェーは自然に恵まれた国。自然と共存する「フリルフツリヴ」という生き方が、今回の番組では満ち溢れている。
市民も、山歩きには自由に参加可能。開始から数時間で、すでに600人以上が登山に加わっている。
「どこから参加できるの?」という質問も、ネットでは殺到中。突然参加の人数は、今後も増加する見通し。
・・・・・
スローテレビとは、一体なに?
人口520万人しかいない小国ノルウェーの「スローテレビ」シリーズが、国際的に注目を集めたのは、2013年。
暖炉でぱちぱちと燃える薪の様子を12時間延々と放送した。国民の5人に1人が視聴し、「不思議な国だ」と、他国で大きな注目を浴びた。
スローテレビは毎年いくつか放送されている。時にはノルウェー皇太子妃までが、自身のTwitterなどで、夢中になって見ていることをつぶやくほどの人気ぶりだ。
昨年は、トナカイの大移動を約1週間、生放送で伝え続け、5人に1人が視聴。
今年6月には、ノルウェーの作曲家であるエドヴァルド・グリーグの音楽を、生放送で30時間放送し続けた(59万5千人が視聴)。
・・・・・
【追記】
NRKに問い合わせたところ、初日の視聴者は26万8千人。11~16時の山歩きを「ずっと」全て見ていた人は、3万7千人。夜の部の特別放送は45万千人。
全ての放送時間は、昼の部で100時間、夜の部でおよそ13時間となる予定。
Photo&Text: Asaki Abumi