絶景ロフォーテンで油田開発?ノルウェーの若者が海に浮かび抗議
ノルウェーにおける石油・天然ガス開発は1960年代より始まった。油田の発見が相次ぎ、現在では世界第3位の天然ガス輸出国、世界第8位の石油輸出国となっている。
2016年では石油・天然ガス・コンデンセート(液体炭化水素)の輸出だけで、国内の商品輸出量の47%を占めた。
国内での電力供給は水力発電でまかなえることから、世界有数のエネルギー輸出国に。将来の石油収入の減少に備えて、石油基金が設置されている。
これらのエネルギーはノルウェー政府にとって最も大きな収入源。現在の高い生活水準や社会福祉制度は、油田の発見なしでは実現できていなかったであろう。ノルウェー経済は石油・天然ガス産業に大きく依存してきた。
一方で、「環境先進国」というプラスなイメージを国際市場でもたれてきたノルウェーだが、石油・天然ガス産業は環境に優しいとは言い難い。エネルギーへの依存は市民の環境意識を高めていくこととなった。
抗議活動が強まる北部油田開発
開発鉱区は徐々に北上しており、現在大きく議論されているのが北部油田開発だ。国内では「LoVeSe」がキーワードとなり、石油・環境議論がおこなわれている。
LoVeSeとは、複数の大政党がガス油田の開発を承認したい北部3か所の頭文字をとった言葉だ。ロフォーテン(Lofoten)、べステローレン(Vesteralen)、セーニャ(Senja )の地域を示し、この海域での油田開発の動きに対する抗議活動が勢いを増している。
美しい自然が豊富なロフォーテンで油田開発?
ロフォーテン諸島といえば、美しい自然の写真がSNSなどで拡散し、観光客が増加している。ノルウェーでは9月に国政選挙を控える。このエリアで油田開発が行われるかは、新政権により10月頃に今後の意向が決定される予定。
もし油田開発するなら、若者たちが海の上で抗議活動
もし、新政権がロフォーテンでの油田開発に踏み切る選択をする場合、ノルウェーで国内最大規模の環境青年団体「自然と青年」(Natur og Ungdom)は、「市民的不服従運動」という行為で、抗議活動にでることを明確にしている。
非暴力的手段で公然と違法する行為だが、今回は国会前などで座り込みなどという形ではなく、若者たちが海の上に浮かぶことで抗議をする。
「開発会社スタッフが海上油田施設までに向かう海上の途中で、海面に浮かんで抗議する予定」と団体の代表であるイングリ・ショルヴァールさん(24)は語る。
同団体が非暴力手段で抗議し、一定期間の間、大人たちの行為をやめさせ、メディアに取り上げられ、話題となることは今回が初めてではない。
これらのエリアでの油田開発は国内で議論を醸すことから、政治家たちは過去に何度か開発を先延ばしにして、諦めてきた。
政府が油田開発を決めた場合に備えて、同団体はロフォーテン諸島の海で事前練習を行った。市民的不服従運動などの経験がある国際環境団体グリーンピースにより訓練を受けた。
現場には、大手テレビ局TV2や地元紙の記者の姿があった。
ロフォーテン諸島での油田開発は、自然や漁業、魚の生態系や観光業に悪影響を与えるとされている。
「ロフォーテンの住民たちは油田開発を望んでいません。若者がこのような活動をしようとしていることを、地元の人々には知る権利があるので、ニュースにする価値があります」と、ロフォートポスト紙のステーン記者は話した。
「国会では大多数の大政党が油田開発に賛成ですが、小政党や世論は反対という事実にもっと政治家は向き合うべき。政治家が何を考えているか理解できません」と環境団体のショルヴァールさんは話す。
「ノルウェーでは石油業界は権力をもちすぎており、国会でロビー活動をしています。政治家が意見を変えられない状況には落胆しています」と取材で語る。
政治家が自然を守ろうとしないのでれば、私たちがするしかない
海上での抗議活動の訓練を若者たちに教えたグリーンピース。スタッフのハルヴァール・ハーガ・ローヴァンさん(26)は、市民的不服従運動は多くの国では違法だが、政治家への抗議活動としては、歴史では過去に何度も行われてきたと話す。
「政治家が自然を守ろうとしないのであれば、私たちが行動にうつすしかありません。私たちの行動が正しかったことは、いずれ歴史が証明してくれます」。
海上での訓練に参加した「自然と青年」団体のアルネさん(18)は、「初めての体験だったけれども、練習できてよかった。もし油田開発が起こるとなった時のために、心がまえをしておきたかった」と話した。
Photo&Text: Asaki Abumi