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米海兵隊が次期主力長距離兵器の写真を初公開、無人4輪車両に搭載したトマホーク巡航ミサイル

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ軍広報サイトDVIDSより海兵隊の新兵器、無人4輪車両搭載トマホーク

 アメリカ海兵隊は中国との戦争を見据えた島嶼戦に対応するため、次期主力兵器を2種類の対艦ミサイルとする予定です。1つは射程250kmのNSM対艦ミサイルを搭載した無人4輪車両の「NMESIS」、そしてもう1つは射程2500kmのトマホーク巡航ミサイル最新型BlockⅤa(対地・対艦兼用)を搭載した地上発射機ですが、後者の車両が初めて公開されました。

 7月21日の新部隊発足式典の様子が7月24日にアメリカ軍広報サイトDVIDSの記事「第11海兵連隊が初の長距離ミサイル中隊を発足」に掲載され(これは文章中心の記事)、新兵器がトマホーク発射機であることが明言されています。

 それは驚くべき狂気じみた発想の兵器で、我が目を疑うものでした。

 この新兵器の写真は、カリフォルニア州キャンプ・ペンドルトンのアメリカ海兵隊第1海兵師団第11海兵連隊第2大隊facebook「A中隊、LMSL活性化」とアメリカ軍広報サイトDVIDSの「第11海兵連隊が初の長距離ミサイル中隊を発足(写真7枚)」で公開されています。

LMSL:Long-Range Missile、海兵隊での長距離ミサイルの略語。
LRF:Long Range Fires、長距離火力。この兵器の計画名称。
A中隊:アルファー中隊。ABCD…のAで第1中隊に相当する意味。

トマホークを1発搭載した無人4輪車両:アメリカ海兵隊の新兵器

アメリカ海兵隊第1海兵師団第11海兵連隊第2大隊より無人4輪車両搭載トマホーク
アメリカ海兵隊第1海兵師団第11海兵連隊第2大隊より無人4輪車両搭載トマホーク

アメリカ軍広報サイトDVIDSより無人4輪車両搭載トマホーク(画像は明るさ調整したもの)
アメリカ軍広報サイトDVIDSより無人4輪車両搭載トマホーク(画像は明るさ調整したもの)

 なんと海兵隊はNSMだけでなくトマホークも無人4輪車両(JLTVを改造したROGUE Fires)に搭載する気です。我が目を疑いますがトマホーク1発分を収納したキャニスターが無人4輪車両に搭載されています。

 なおトマホークは1発約1600kgに対しNSMは1発約400kgとミサイルの重量に大きく差があります。NMESISがNSMを2発搭載でミサイル重量合計800kgなのに、その2倍の1600kgのトマホーク1発をNMESISと同じ大きさの無人4輪車両に積むというのです。なおキャニスターの重量も加わります。重心が高くなっている筈で、走行時の安定性は大丈夫なのでしょうか。

 いや、それよりも驚いたのは長さです。トマホークの全長はブースター込みで6.25mです。キャニスターも含めるとそれより長くなります。しかしNMESISの原型車両であるJLTVは全長6.2mです。つまり車両よりもミサイルの方が長いのです。走行可能状態にすると水平に倒したキャニスターはエンジンルームの上に載る形になります。あまりにも異常な搭載形態になります。

無人化した理由は小型化するため(無人で戦闘する為ではない)

 無人化して運転席を無くした理由はミサイル搭載スペースの確保のため、通常ならば小さな4輪車両に載せられるはずのない大型ミサイルを搭載するため。その目的は小さな4輪車両で空輸を容易にするため、C-130輸送機への搭載と、CH-53K重輸送ヘリコプターでスリング輸送(吊り下げ輸送)して空中を機動展開するため。

 海兵隊の新兵器であるNMESISとトマホーク無人地上発射機は、無人で戦闘したいから無人化するのではありません。空中機動で何処へでも迅速に展開するために小型化したいから無人化したのです。このような発想で無人兵器を開発したのはアメリカだけです。もはや世界中のどの国もついていけません。

 小さな無人4輪車両が、C-130輸送機とCH-53K重輸送ヘリコプターで空中を機動して短時間に何処へでも出現できる、それが地上を自走して直ぐに物陰に隠れてしまう。これは容易には見付かりません、なんという厄介な兵器でしょうか。

 たとえば現在行われているロシア-ウクライナ戦争ではお互いに航空優勢を奪取できていない状況ですが、射程70~90kmの誘導ロケット弾を使用するHIMARSがまだ1両も撃破されていません(2023年7月26日時点)。戦場の奥に居る射程の長い地上発射兵器が走りながら逃げ回り物陰に隠れてしまうと発見自体が困難なのです。これがアジア方面の島嶼では条件が変わり、狭い島に居たままなら居場所が絞り込みやすくなりますが、島から島へと空中機動して移動すれば居場所が掴み難くなります。そして射程の長いミサイルを用意すれば展開場所の選択も増えて、ますます見付かり難くなり攻撃を受け難くなります。

 海兵隊と同時期にアメリカ陸軍が計画しているトマホーク巡航ミサイルの地上発射システム「MRCタイフォン」は、巨大なトレーラーに4連装垂直発射機を搭載する一般的な有人運転の車両ですが、海兵隊は同じ物を採用する気がありませんでした。陸軍と違い海兵隊のミサイル部隊は敵の攻撃圏内に前方展開して戦うために、空輸性が高く敵に見付かり難い特殊な小型の無人4輪車両をミサイル発射機としたのです。

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 海兵隊のトマホーク部隊は先ずカリフォルニア州キャンプ・ペンドルトンのアメリカ海兵隊第1師団第11海兵連隊に1個大隊(3個中隊)が2030年までに新設される予定です。おそらく第2大隊がこのまま改編されるのでしょう。そして1個中隊分のトマホーク発射機は16両で編制される予定となっています。海兵隊の無人4輪車両は小さく1車両あたりのミサイル搭載数がトマホークだと1発のみと少ないので、中隊あたりの配備車両数はかなり多い編制となります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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