バレンタイン春一番に警戒 春一番の定義は地域や時代で異なる
バレンタインデーの14日(日)は、日本海で低気圧が発達し、13日の四国地方に続いて、全国的に「春一番」が吹く見込みで、厳重な警戒が必要です。
立春後の最初の強い南風を春一番と言い、有名となったのは人気アイドルグループ・キャンデーズが昭和50年のアルバム「年下の男の子」の中に収録され、翌51年に9枚目シングル曲として「も~すぐ春ですねえ…」と歌ってヒットした「春一番(作詞・作曲:穂口雄右)」からです。
このため、「春一番」という気象用語がメジャーな言葉となっています。
そして、気象庁に問い合わせが殺到し、本来業務ではない「春一番」に対応せざるをえなくなっています。
全国的に春一番というのはそれほど昔ではない
「春一番」の語源については諸説ありますが、長崎県壱岐郡郷ノ浦町(現・壱岐市)で安政6年(1859年)2月13日に海難で53名が亡くなったことから呼びはじめたということが定説になっています。
この「春一番」という言葉が、広く使われるようになったのは戦後になってから、それも関東地方(特に東京)についての「春一番」からです。
「春一番」という言葉を、気象関係者が使い始めたのは、昭和31年(1956)2月7日の日本気象協会の天気図日記(毎日1枚の天気図に、その日の出来事等を簡潔にまとめたもの)とされています。
また、マスコミに取り上げられたのは昭和37年2月11日の朝日新聞夕刊「…地方の漁師達は春一番という…」と、毎日新聞夕刊「…俗に春一番と呼び…」が最初です。
気象台等がほぼ全国的に「春一番」の情報を発表するようになったのは、表1のようにキャンデーズ以降です。
それほど昔ではありません。
なお、北陸地方の平成10年以前は、新潟を除く福井、石川、富山の各県ごとに発表していました。
また、東北地方と北海道では、「春一番」のような暖かい強い風が吹くのは低気圧がこの季節としてはかなり北の樺太付近を通過するという希な現象ですが、そのときでも、まだまだ冬の気候が続くことから発表はありません。
さらに、沖縄県では、日本海で低気圧が発達しても強い風が吹かないために「春一番」の発表はありません。
昭和52年頃の「春一番」の扱い
東京にある気象庁予報課の天気相談所では、マスコミ等からの問い合わせに応じる形で、昭和30年頃から関東地方の「春一番」の情報を発表していました。
そして、昭和50年からは平年値を使っての「春一番」の情報発表を開始するなど、少し充実させています。
私は、昭和52年に函館海洋気象台(現在は函館地方気象台)から気象庁予報課の予報現業に転勤となりましたが、この年の11月28日に、次のような通達を受けています。
「木枯らし1号」「春一番」の発表は、現在、業務に規定化されていない。しかし、報道機関からはこれらについての発表を求められ、暫定措置として、東京地方については天気相談所がこれらの決定・発表する時には必ず予報現業と連絡して実施する。…。
「春一番」の定義
気象庁のHPには、「春一番」の説明として、次のように記されています。
冬から春への移行期に、初めて吹く暖かい南よりの強い風。気象庁では立春から春分までの間に、広い範囲(地方予報区くらい)で初めて吹く、暖かく(やや)強い南よりの風としている。
平成25年2月2日は、日本海北部の低気圧に南風が吹き込み、北海道の湧別で平年より15度も高い11度を記録するなど、全国的に気温が上昇していますが、立春前であり、「春一番」にはなりませんでした(図1)。
地方ごとに「春一番」の定義は異なる
関東地方の「春一番」については、気象庁天気相談所が、下記の事項を基本として総合的に判断して発表しています。
気候学的な根拠・意味が明確でないため、気象庁では平年値などの統計をとっていませんが、一般からの要望に応え、天気相談所で作業をして、その成果を発表しているのです。
1)立春から春分までの期間に限る。
2)日本海に低気圧がある。低気圧が発達すればより理想的である。
3)関東地方に強い南風が吹き昇温する。具体的には東京において、最大風速が風力5(風速8.0m/s)以上、風向は西南西~南~東南東で、前日より気温が高い。(なお、関東の内陸で強い風の吹かない地域があっても止むを得ない)
また、各地方の最近の春一番(気象庁天気相談所作成)を提供しています。
ここで、毎秒8.0メートル以上の風というと、風力5(疾風)以上の風ということになります。葉のある潅木がゆれはじめたり、池や沼の水面に波頭がたつ風というのが風力5の風です。
関東地方以外の「春一番」については、地方気象台等で、表2を目安に総合判断で決めています。しかし、春一番についての記述や、マスコミ報道なのでは、ほとんどが関東地方のものです。
それを、「全国一律に春一番はこうである」という記述や報道が多いのが気になっています。
日本は各地方で様々な形の「春一番」があり、その地方によって「春一番」の受け取り方は違います。このため、「春一番」の定義は、地方によって異なり、しかも、年とともに多少変化しています(変化したときは、遡って観測データをもとに総合判断のやりなおしが行われます)。
表3は平成4年12月段階での「春一番」の定義をまとめたものですが、20年以上を経過して、多少の変化があります。
現在と違い、九州などでは、「立春ごろから」となっており、立春の前にも春一番を発表する可能性がある定義でした。
「春一番」に警戒を
春は日本付近で低気圧が急速に発達するため、嵐の季節と言われます。冬の特徴である北からの寒気が残っているところに、夏の特徴である暖気が入り始めることから、条件が重なると、強い寒気と強い暖気がぶつかって低気圧が急速に発達することがあるからです。
バレンタインデーの2月14日は、日本海で低気圧が急速に発達ながら千島近海に進む見込みで、北日本から西日本の海上を中心に非常に強い風が吹く見込みです。
このため、全国的に平年より気温が高くなり、13日の四国地方に続いて、全国的に春一番の可能性があります。
キャンデーズのヒット曲「春一番」以降、春を告げる風物詩的に受け取る人が増えたと言われていても、もともとは危険な風です。
強い風だけでなく、日本付近に南から温かい空気が流れ込むため、大気の状態が非常に不安定となり、落雷や竜巻などの激しい突風の恐れもありますし、積雪の多い所では融雪やなだれに注意が必要です。
バレンタイン春一番に警戒が必要です。