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台風25号が台湾付近で熱帯低気圧に変わり、今冬最初の強い寒気で北陸や東北南部からも初雪の便りか

饒村曜気象予報士
台湾付近の台風25号から変わった熱帯低気圧と日本海北部の低気圧(16日15時)

台湾付近の熱帯低気圧と日本海北部の低気圧

 フィリピンの東からバシー海峡を北上していた台風25号は、11月16日15時に台湾付近で熱帯低気圧になりましたが、南から日本列島に暖気を北上させました(タイトル画像)。

 ただ、11月17日に全国で一番気温が高かったのは、沖縄県・南大東の29.8度で、最高気温が30度以上の真夏日はありませんでした。

 とはいえ、すでに11月中旬であるにもかかわらず、最高気温が25度以上の夏日が34地点(気温を観測している全国914地点の約3パーセント)もありました。

 最低気温が0度未満の冬日は126地点(約14パーセント)でしたが、週明けの11月19日には256地点(約28パーセント)と今冬最多となる見込みです(図1)。

図1 夏日と冬日の観測地点数の推移(11月17日以降は予報)
図1 夏日と冬日の観測地点数の推移(11月17日以降は予報)

 これは、日本海北部にある低気圧が発達しながらサハリンを通過し、この低気圧に伴う前線が北日本を通過し、西高東低の冬型の気圧配置となる見込みであるからです(図2)。

図2 週明けの西高東低の冬型の気圧配置(左は11月17日9時、右は18日9時の予想)
図2 週明けの西高東低の冬型の気圧配置(左は11月17日9時、右は18日9時の予想)

 そして、今冬一番の寒気が南下してくる見込みです(図3)。

図3 令和6年(2024年)11月18日夜の上空約1500メートルの気温分布予想
図3 令和6年(2024年)11月18日夜の上空約1500メートルの気温分布予想

 今冬は、稚内と旭川、網走で10月19日に初雪があり、本州でも11月7日に青森と盛岡で初雪がありましたが、その後は暖気が入って初雪の便りが聞かれなくなりました。

 一般的に、上空約1500メートルが-6度以下であれば、地上では雪が降ると言われていますが、その-6度が北陸まで南下してくる見込みです(図4)。

図4 雨雪判別の予想(11月18日15時の予想)
図4 雨雪判別の予想(11月18日15時の予想)

 北陸の標高の高い所は雪ですが、平野部で雨の予想の所でも、雪が混じって(みぞれとなって)初雪ということになりそうです。

変わった初雪の定義

 令和6年(2024年)10月20日に、気象庁は札幌市で平年より8日、前年より22日早く初雪を観測したと発表しました。

 ということは、札幌の初雪は、平年の値が10月28日、前年の初雪が11月11日ということになります。

 しかし、前年、令和5年(2023年)11月11日の札幌の初雪の発表では、平年に比べて10日遅いとなっています。

 つまり、平年の値が11月1日ということになりますので、10年ごとの平年値改定とは違うタイミングで平年値が大きく変わったことで、このようなことが起きたのです。

引用:読売新聞(令和5年(2023年)11月11日夕刊)

北海道 各地で初雪

 上空に寒気が流れ込んで北海道は冬型の気圧配置となり、札幌管区気象台は11日、札幌市で初雪が観測されたと発表した。平年より10日遅く、昨年より5日早い。

引用:読売新聞(令和6年(2024年)10月21日朝刊)

札幌、帯広で初雪観測=北海道

 札幌管区気象台は20日、札幌市、帯広市で初雪を観測したと発表した。札幌は例年より8日、昨年より22日早く、帯広は例年より12日、昨年より25日早い。

 気象庁では平年値として、西暦年1の位が1の年から、30年後の1の位が0で終わる年まで、30年分のデータについて計算した平均値を用いています。そして、西暦の1の位が1の年に新しい平年値に更新されます。

 つまり、今年は西暦の1の位が4ですので、ほとんどの平年値は、令和3年(2021年)に更新された、平成3年(1991)から令和2年(2020)の平均値を、平年値として使っています。

 しかし、今年の場合は、令和6年(2024年)3月をもって札幌における職員による目視観測が終了したことによる措置です。

 気象庁では、気象レーダーや気象衛星観測などの技術が向上していることから、令和元年(2019年)以降、地方気象台や測候所で順次、観測の自動化を進めてきましたが、令和6年(2024年)4月以降は、東京と大阪の管区気象台を除いて、すべての気象官署の観測が自動化されました。

 そして、目視観測を続けている東京と大阪の観測データと、自動化された観測データとの比較・検証を行うとしています。

 職員の目視による初雪の観測と、自動化による初雪の観測では、もともとの観測方法が違いますので平年値は大きく異なります。

 自動化による観測では、一瞬でも雨に雪が混じるとみぞれとして記録されますが、職員の目視観測の場合、一瞬のみぞれは見逃す可能性があるからです。正確になった半面、多くの人は一瞬のみぞれを雪とは感じないという側面もあります。

 ただ、同じ北海道でも、札幌以外の気象台では、平年値を計算する令和2年(2020年)以前に自動化が行われていますので、令和3年(2021年)から使われている平年値は、自動化による初雪の平年値となっています(図5)。

図5 北海道の初雪の平年日
図5 北海道の初雪の平年日

 そして、今年、西暦の1の位が1の年でないのに平年値が更新されたのは、北海道では札幌だけです。

 筆者が、目視観測が記載されている観測原簿から初雪の平年値を計算すると(筆者の計算ですので、誤差の可能性あり)、1週間程度早まっているようです。

地点名 自動観測による初雪の平年(筆者計算した初雪の平年)

 稚内 10月19日(10月27日)

 旭川 10月19日(10月30日)

 網走 10月30日(11月6日)

 帯広 11月1日(11月8日)

 函館 11月1日(11月7日)

 室蘭 11月2日(11月3日)

 釧路 11月7日(11月13日)

目視による初雪と自動化による初雪

 昔の気象庁の初雪の定義は、「雪、みぞれ、凍雨、細氷(ダイヤモンドダスト)、雪あられが、その年の日平均気温の高極が出た日以後の初めて降る雪」でした。

 現在は、「気象庁における初雪とは、寒候年(前年8月から当年7月まで)に初めて降る雪(みぞれを含む)」に変わっています。

 昔の定義で、「その年の日平均気温の高極が出た日以後」となっていたのは富士山頂に測候所があるなど、標高の高い所でも観測員が目視観測を行っていたことによる規定です。

 夏でも雪が降ることがある富士山は、前年度の終雪は、新年度の初雪かの区別がつかなくなることが少なからずあります。

 その富士山測候所も無人化されましたが、麓の気象台等からの初冠雪の観測が残っており、この規定が残っていた令和3年(2021年)には、甲府地方気象台が2度目の初冠雪の発表をしました。

 この年の富士山頂では、8月4日に平均気温が9.2度まであがり、その後は気温が下がってきたことから、甲府地方気象台は9月7日に初冠雪の発表をしました。しかし、9月20日に日平均気温が10.3度まで記録的に上がったことから、9月7日の初冠雪は取り消され、改めて、9月26日に初冠雪が発表となりました。

 また、雪に「みぞれ、凍雨、細氷(ダイヤモンドダスト)、雪あられ」を含めていたのが、「みぞれ」だけになったのは、自動化では「凍雨、細氷(ダイヤモンドダスト)、雪あられ」の観測ができないからです。

 そして、気象庁以外での目視による観測に配慮したためか、「気象庁における初雪とは」という文言が入っています。

タイトル画像、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2の出典:気象庁ホームページ。

図5の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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