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【冬61%減・夏50%減】激減した音楽特番の旧ジャニーズ──ジャニーズ忖度が終わった先に:5

松谷創一郎ジャーナリスト
2024年7月6日、日本テレビ『THE MUSIC DAY 2024』より。

昨年冬以降の変化

 ジャニーズ忖度は果たして終わったのか?

 それを確認するために、ここまで4回の連載で地上波6局の音楽特番を分析してきた。そこで見えてきたのは、旧ジャニーズ事務所のグループの出演が大幅に減っていることだった。

 NHKとテレビ東京は、2023年冬以降に旧ジャニーズとの取引を停止しているので必然的にゼロとなったが、他の民放4局では共通した傾向が見て取れた。その一覧が以下の表である。旧ジャニーズのグループが、表の右半分でスカスカになっていることがわかる。

筆者作成(2024年8月14日一部修正)。
筆者作成(2024年8月14日一部修正)。

 旧ジャニーズ事務所の性加害問題の大きな分岐点は、2023年9月7日にジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長(当時)がそれを認めたタイミングと言える。このときすでに同年夏の音楽特番はすべて終わっていたため、さまざまな変化が顕れたのはその冬(11~12月)の音楽特番からだった。

 そこで共通するのは、旧ジャニーズの中堅グループの出演がのきなみ減っていることだ。具体的にはNEWS、KAT-TUN、Hey! Say! JUMP、timelesz(Sexy Zone)、Kis-My-Ft2、A.B.C-Z、WEST.(ジャニーズWEST)である。要は1999年デビューの嵐と、2018年デビューのKing & Princeのあいだの約20年間にデビューしたグループだ。そのなかで例外的に出演が見られるのは、SUPER EIGHT(関ジャニ∞)である。

激減した旧ジャニーズ

 若手とベテランに挟まれた旧ジャニーズの中堅グループは、それぞれのデビュー時期があまり離れておらず、SMAPや嵐の人気が極端に高かったこともあり、大ヒットに恵まれていないグループも少なくない。さらにその後、滝沢秀明(現・TOBE)がプロデュースしたSixTONESやSnow Manなど、従来のジャニーズ色とは異なる若手グループがデビューして大ヒットしたこともあって、さらに存在感を弱めた。

 それでも彼らが地上波テレビで露出してきたのは、いわゆるバーター出演(抱き合わせ)だった可能性が高い。人気のあるグループを出演させる代わりに、それほど人気がないグループもいっしょに出演させる手法だ。日本ではどこの芸能プロダクションもおこなっているが、ジャニーズはこれを巧みに利用することで勢力を拡大していった。

 ジャニーズ事務所がこの手法を極めて巧みかつ強圧的に使ってきたことは、連載第一回でも触れた。フジテレビの検証番組でも具体的に報告されている(『週刊フジテレビ批評 特別版』2023年10月21日)。

『週刊フジテレビ批評 特別版』(2023年10月21日)より。
『週刊フジテレビ批評 特別版』(2023年10月21日)より。

 昨年冬と今年夏の音楽特番で軒並み中堅グループが出演していないのは、このバーターが機能していないためだと考えられる。それは、テレビ局が強圧的なジャニーズの顔色をうかがって判断しなくなったためでもあり、同時に旧ジャニーズのタレントが多く移籍したSTARTO ENTERTAINMENTもバーター手法を強圧的に採用していない可能性が高いためでもあるだろう。

 季節ごとの音楽特番で出演グループ数を比較すれば、旧ジャニーズは冬季も夏季も50%以上も減っている。対して競合する非ジャニーズのグループは、冬季は大きな変化が見られなかったが、今年の夏は25%も増えた。

 以上を踏まえれば、「旧ジャニーズ離れ」は徐々に強まる傾向にあり、データからは「ジャニーズ忖度」が終わったことが確認できる。

筆者作成(2024年8月14日一部修正)。
筆者作成(2024年8月14日一部修正)。

Snow Manなどの「人気」は本物か?

 もちろん、それでも旧ジャニーズのグループは多く音楽特番に出演している。

 とくにKing & Prince、SixTONES、Snow Man、なにわ男子の若手4組がそうだ。こうした状況に対し、一部の非ジャニーズグループのファンはそこに「忖度」を読み取ろうとする。つまり、「まだまだ旧ジャニーズはえこひいきされている!」と──。

 だが、これまでの傾向を見る限りおそらくそれは考えにくい。シンプルに、これらの若手4グループは「人気がある」と考えるのが妥当だ。

 もちろんこの「人気」も、なにを基準とするかでその質も異なってくる。

 たとえば音楽人気で考えるとき、そこで重視されているのはBillboard JAPANチャートだ。昨年の年間総合チャート「Artist 100」では、King & Princeが9位、Snow Manが14位、SixTONESが30位、なにわ男子が36位と上位にランクインしている。

 この4グループは2022年も11~23位にランクインしており、しっかりとした人気が確認できる。しかも音楽ストリーミングサービスに配信していないにもかかわらず、ここまでランクは高い(「Billboard JAPAN Artist 100 Year End」)。

 もちろんこれは、あくまでもBillboardチャートにおける「人気」だが、多くの関係者は5年以上前からそれを重視している(対して、チャートの改善を怠ったオリコンランキングはその信頼を大きく失った)。ストリーミングや動画(YouTube)のポイント比重を強め、CD売上のそれを年々弱めているBillboardでは、「音楽人気」はシビアに判断される。

競合グループの手堅い人気

 旧ジャニーズのグループは、依然としてCD売上に依存しており、ストリーミング配信は一部のグループのみに限られる。よって、全体的にBillboardでは年々「人気」が下がる傾向が見受けられる(旧ジャニーズの一部ファンはこの状況を知らず、オリコンのCD売上で一喜一憂している様子がいまも散見される)。

 実際、年間「Artist 100」では2020~2021年には他の中堅グループが50位圏内にランクインしていたが、2022年以降には順位を下げている。

 その逆に増えてきたのは、旧ジャニーズの競合グループだ。その多くはK-POPだが、JO1やINIなどのK-POP日本版や、Da-iCEやBE:FIRST、そしてNumber_iなどのグループも上位にランクインすることが珍しくなくなった。旧ジャニーズと異なり、ストリーミング等にもちゃんと対応するこれらの競合グループは、確実に「人気」を獲得してきたと見ていいだろう。

 つまり、性加害問題が生じる以前から旧ジャニーズの「人気」退潮は生じていたのである。新しい音楽メディア(ストリーミング)が浸透しているにもかかわらず、それに消極的なのだから人気が減退するのは当然といえば当然だ。

 筆者はずいぶん前からこのことを繰り返し指摘してきたが、旧ジャニーズはいまだに対応せずマーケットを取り逃し続けている(「なぜジャニーズは海外市場を掴めない? BTSとの比較で分かった“日韓アイドル”の圧倒的格差」2021年5月11日)。そして、当事者であるタレントもそうした旧ジャニーズ事務所に危機感を持って離れる傾向が見られる。もちろんNumber_iの3人のことだ。

 Billboardをことさら意識しているわけではないだろうが、昨年冬以降の音楽特番のラインナップは「Artist 100」と似た傾向を見せている。以下の表は、過去4年分のBillboard「年間 Artist 100」を50位まで表にしたものだが、そのランキングを見れば音楽特番の出演者が極端に偏っているとは言えないことがわかるだろう。

 もちろんBillboardチャートは、「人気」を測るうえでのひとつの指標に過ぎない。音楽特番はあくまでも地上波のテレビ局のコンテンツなので、バラエティや情報番組へのレギュラー出演など、タレントとしての「人気」や局への貢献度も(良し悪しはともかく)ひとつの「指標」となっているだろう。

筆者作成。
筆者作成。

「非ジャニーズ忖度」が起こる可能性

 以上を踏まえて結論として言えば、「ジャニーズ忖度」は概ね終わりに向かいつつあると見られる。とくに今年夏の音楽特番で25%増えた競合グループ(非ジャニーズ)の出演数の増加が、それを示唆している。

 ただし、その評価はあくまでも暫定的なものである。なぜなら、たかだか2年間の傾向でしかないからだ。同時に、ジャニーズの性加害問題も決して終わっていない。被害者への補償は一部で調停に発展しており、旧ジャニーズ事務所の藤島ジュリー前社長は音楽や映像の知的財産(IP)を持つ複数の会社の株式を依然として保有しており、STARTO社との経営分離が果たされた状況とは言えない。

 よって、現状は依然として過渡期にあるといえる。今夏の音楽特番の出演者ラインナップも、その時期に生じた特有の現象である可能性は頭に入れておく必要がある。

 噛み砕いて言えば、補償が終わって経営分離が果たされた後に、「旧ジャニーズ忖度」が復活する可能性はある。それには注視が必要だ。

 そして、その逆の現象も想定される。つまり「非ジャニーズ忖度」が生じる可能性だ。「旧ジャニーズ」が「非ジャニーズ」に置き換えられ、それによって競合グループ(この場合は旧ジャニーズ)が排除されるような事態となれば、元の木阿弥でしかない。

 テレビ局が自己検証に消極的である以上、構造的な問題は温存されているので、将来的に一部の芸能プロダクションが勢力を増して競合を排除し、そしてポピュラー音楽文化に悪影響を与えることが起こり得る可能性は十分に残されたままである。

※調査対象の音楽番組は以下。
●冬:日本テレビ『ベストアーティスト』、フジテレビ『FNS歌謡祭』(第1部+第2部)、テレビ朝日『ミュージックステーション スーパーライブ』、NHK『NHK 紅白歌合戦』、TBS『CDTVライブ!ライブ!年越しスペシャル!』
●夏:テレビ東京『テレ東音楽祭』、日本テレビ『THE MUSIC DAY』、フジテレビ『FNS歌謡祭 夏』、TBS『音楽の日』
※2024年の『FNS歌謡祭 夏』のデータにNEWSの出演が反映されていなかったので、その点を修正しました(2024年8月14日)。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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