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音楽特番はどう変わったか【TBS・日テレ・フジ】──ジャニーズ忖度が終わった先に:1

松谷創一郎ジャーナリスト
TBS『音楽の日』Xオフィシャルアカウント(2024年7月14日)より。

崩壊したジャニーズ忖度

 そこには、「ジャニーズ忖度」が終わった2024年の夏があった。 

 6月末から7月にかけて、民放各局は夏の音楽特番を放送した。そこには旧ジャニーズ勢の姿もあったが、はじめて出演するグループの姿も少なからずあった。たとえばTOBEのNumber_iがそうだ。

 周知のとおり、Number_iの3人──平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太は昨年5月までジャニーズ事務所でKing & Princeのメンバーとして活躍していた。脱退後は、ジャニーズ事務所の副社長だった滝沢秀明氏が立ち上げたTOBEに合流。そして今年の元旦にデビューし、即座に大ヒットした。

 しかし彼らが2022年に退所を発表したとき、ファンはその先行きを強く心配した。元SMAPの3人のことがあったからだ。2017年にジャニーズ事務所を退所した3人はインターネットメディアなどを中心に「新しい地図」として活動をしてきたが、地上波テレビへの復帰にもとても時間がかかった。

 だが結果的に、Number_iへのそれは杞憂に終わった。まだ半年ではあるが、現在のNumber_iに活動の大きな障害となるような事態は確認されない。今夏の音楽特番にも、Number_iはテレビ東京を除いてすべて出演している。

 テレビ局は、ジャニーズ事務所の顔色をうかがって、競合する若い男性タレントやグループの起用を抑制する状況が長く続いていた。その背景にあったのは、業界内におけるジャニーズ事務所の強大な権力だった。

 だが、そんな「ジャニーズ忖度」が、ジャニーズ事務所とともに崩壊した──。

旧ジャニ中堅勢が激減の日テレ

 ここからは、昨年末と今夏の音楽特番の内容を検証して、「ジャニーズ忖度」の終焉を確認していく。今回は日本テレビ、フジテレビ、TBSを見ていく。

 まず、日本テレビからだ。近年『スッキリ』や『24時間テレビ』、そしてドラマ『セクシー田中さん』など、不祥事が相次いでいる日テレは、冬に約4時間の『ベストアーティスト』、夏に約7時間半の『THE MUSIC DAY』を長らく放送している。

 このふたつの音楽特番は、ジャニーズ事務所と日テレの深い関係を表すものでもある。司会はともに嵐の櫻井翔が10年以上続けており、旧ジャニーズタレントの出演者も多かった。

 しかし昨年12月2日放送の『ベストアーティスト』と今年7月6日放送の『THE MUSIC DAY』で、その状況が大きく変わった。NEWSやHey! Say! JUMP、Kis-My-Ft2、WEST.(旧・ジャニーズWEST)など、30代を中心とする中堅グループの出演がかなり減った。

 一方で、旧ジャニーズ勢と競合するグループはやや増えたという印象だ。BE:FIRSTやDa-iCEは2022年から出演しており、性加害問題以前から「忖度」は緩和していた。

筆者作成。
筆者作成。

バーター消滅?のフジ

 次に確認するのは、フジテレビだ。冬に『FNS歌謡祭』を2回(計9時間半)、夏に約3時間半の『FNS歌謡祭 夏』(旧『FNSうたの夏まつり』)を放送している。他局よりも独自企画が多い印象だ。司会はともに嵐の相葉雅紀が5年以上続けており、2部制の冬は旧ジャニーズ勢が多く出演し続けてきた。

 しかし日テレと同様に、こちらも昨年末の放送で旧ジャニーズ勢が大幅に減った。2022年冬はソロも含めて10組以上が出演してきたが、昨年は4組のみ。姿を消したのは、こちらも中堅が中心だ。

 また、フジテレビは3月いっぱいで、KinKi Kids、TOKIO、SUPER EIGHT、Hey! Say! JUMPの冠番組を終了した(6月にHey! Say! JUMPの番組は復活)。うち3つがベテラン勢による番組で、かつ平日の深夜と週末の日中のものであることから、「忖度」の消滅を強くうかがわせた。

 フジテレビの場合、昨年10月に放送した検証番組において、ジャニーズ事務所側から「番組や案件を横断したバーターの要求」があったと編成幹部が証言していることも確認できる(『週刊フジテレビ批評 特別版』2023年10月21日)。

 以上を踏まえれば、音楽特番に顕れたフジテレビの姿勢は、主体的に「忖度」なく番組制作をしようとしている結果かもしれない。

筆者作成(2024年8月14日、一部修正)。
筆者作成(2024年8月14日、一部修正)。

もともと忖度弱めのTBS

 TBSは、冬は大晦日から元旦未明にかけて5時間強の『CDTVライブ!ライブ! 年越しスペシャル!』を、夏は約8時間の『音楽の日』を放送している。後者の総合司会は中居正広と同局の安住紳一郎アナウンサーが長く務め続けている(2022年は中居急病により出演取りやめ)。

 『CDTV年越しスペシャル!』のほうは、以前から旧ジャニーズ勢の出演は少ない。これは裏で「ジャニーズカウントダウン」ライブを東京ドームで行っていたためだ(昨年は性加害問題によって見送り)。それもあって、さほど有名ではない競合グループも深い時間帯に出演するケースも見られる。

 一方、今年の『音楽の日』では明らかに旧ジャニーズ勢が減った。こちらも日テレやフジテレビと同様に、NEWSからWEST.までの中堅どころのグループの姿が消えた(SUPER EIGHTは出演見合わせ)。

 TBSの場合、『CDTVライブ!ライブ!』の通常放送においても性加害問題以前から競合グループが出演していた。たとえば、2021年からJO1やBE:FIRSTが旧ジャニーズ勢と同日に出演していた。つまり、もともと「忖度」が弱かった。

筆者作成。
筆者作成。

 こうした日テレ・フジ・TBSの3社の音楽特番からは、明らかな傾向が見て取れる。

 繰り返しになるが、やはりそれは30代を中心とする旧ジャニーズグループの出演が激減していることだ。より具体的には、NEWS、KAT-TUN、Hey! Say! JUMP、timelesz(Sexy Zone)、Kis-My-Ft2、A.B.C-Z、WEST.(ジャニーズWEST)である。デビュー年で言えば2003~2014年、タッキー&翼とKing & Princeの間にデビューしたグループだ。そのなかで、例外的に出演が目立つのはSUPER EIGHTだ。

 この3番組には、もともとジャニーズの競合グループも出演しており(たとえばw-inds.も2011年に『FNS歌謡祭』に出演している)、忖度の終焉は競合の出演から強く感じられるわけではない。逆に中堅の旧ジャニーズ勢に対するテレビ局の評価からそれがうかがえる。

中居正広「みんな仲間!」

 これらの音楽特番では、昨年から旧ジャニーズ勢と競合グループとのコラボレーションも見られるようになった。もちろん、それまでにも旧ジャニーズ勢が他のアーティストとコラボすることはあった。しかし、男性グループメンバーなど競合とのそれはなかった。その壁も壊れたのだ。それをまとめると以下となる。

筆者作成。
筆者作成。

 その契機となったのは、昨年夏の『音楽の日』だろう。ジャニーズのTravis Japanが参加したこの企画は、予想された以上の反響を巻き起こした。司会の中居正広もかなり楽しみ、そして感激した様子がうかがえた。後日放送された『金スマ』(2023年7月21日)では、企画終了後にCMに入ったとき多くの出演者に向けて中居が声をかけた様子が流された。

「たぶんゴタゴタあったと思う、いろんな会社だから。でも、終わったらみんな仲間!」

 今年の『音楽の日』では、「垣根は越えた!今度はバトルだ!」と銘打ってダンスバトルが繰り広げられた。つまりTBSは公式にこれまで「垣根」の存在があったことを認め、そしてそこには旧ジャニーズのTravis Japanに加えてSnow Manの姿もあった。そして、こうしたコラボが今年の夏の『FNS歌謡祭』や『THE MUSIC DAY』でも見られるようになった。

 それが可能となった背景には、やはりジャニーズ事務所の性加害問題がある。しかし、そこで確実に押さえておかなければならないのは、BE:FIRSTなどのプロデューサーであるBMSGの日高光啓(SKY-HI)が、昨年から日本テレビと組んで始めたイベント企画『D.U.N.K.』の存在だ。それは、「幾多のダンス&ボーカルグループ(アーティスト)が垣根を越えて、日本から世界に発信していくプロジェクト」だ(日本テレビ『D.U.N.K.』公式サイト)。

 「垣根は越えた」と明言した『音楽の日』も、こうした日高の理念の延長線上にある。日高の貢献は、一言では表せないほど大きい。

異常な状態からの脱却

 筆者は性加害が問題化する前から、ジャニーズ事務所に支配されたテレビについて問題提起をし(「ジャニーズ忖度がなくなる日」2023年2月28日)、問題化した以降も繰り返し「ジャニーズ忖度」が生じる業界構造について指摘をしてきた(BS-TBS『報道1930』2023年5月25日ジャニーズ事務所記者会見/2023年9月7日)。

 その立場から言えば、この3つの今夏の音楽特番は正直とても感動的ではあった。そこで思い出したのは、80年代後半の東欧諸国の民主化の光景だった。その一方で、それは正常な状態に戻りつつあると捉えなければならないとも考える。やはり、これまでが異常でもあった。

 そして、これらの音楽特番から出演の声がかからなかった中堅を中心とする旧ジャニーズ勢にとって、この状況は厳しいことには違いない。しかし旧ジャニーズ事務所によって公正な競争(切磋琢磨)が生じなくなっていたことは、音楽業界・テレビ業界にとっての大きな危機でもあった。実際、K-POPに大幅にマーケットを奪われてきたのは明白だ。

 考え方を変えれば、むしろここからは中堅の旧ジャニーズ勢にとっても大きく飛躍するチャンスとも言える。たとえばグループ名を変えて新メンバーを募集するtimelesz(旧Sexy Zone)などは、過去にも意欲的な曲を発表してきた(「ジャニーズのジレンマ」2022年5月31日)。

 ジャニーズ事務所による古いしがらみは、所属グループやタレントにも少なからず生じていた。Number_iの3人がそれから脱するために退所して現在にいたることは、一連の活動から明白だ。

 つまりこのジャニーズ忖度≒しがらみの終焉は、旧ジャニーズの中堅グループにも大きなチャンスである。YOASOBIやNumber_iが示すように、海外マーケットはそれほど遠くはないからだ。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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