ジャニーズのジレンマ──Sexy Zoneの洗練されたシティポップはやはりストリーミング配信されない
ジャニーズの新しい道?
今年、活動11年目を迎えたSexy Zone。デビューが早かったために、メンバーの年齢はまだ20代半ばだが、ジャニーズのグループでは中堅と呼べるキャリアと言える。
最近のSexy Zoneは、音楽のアプローチが良い意味で“ジャニーズらしくない”ことで注目されている。たとえば昨年2月に発表した全編英語詞の曲「RIGHT NEXT TO YOU」は、非常にスタイリッシュなダンス・ポップとなっており、多くのK-POPや洋楽ファンを驚かせた。
そしてあした発売のニューアルバム『ザ・ハイライト』からは、リード曲「THE FINEST」のミュージックビデオを発表した。日本のバンド・Nulbarichによるその楽曲は、グルーヴィーなベースにカッティングのエレキギターが控えめに絡む、非常に洗練されたシティポップに仕上がっている。
「THE FINEST」は、アートワークも含めて非常に完成されている。80年代を思わせる全編アニメのミュージックビデオは、日本のクリエイターチーム・NOSTALOOKによるもの。そして、初回限定版のCDジャケットを手掛けたのは韓国のイラストレーター・tree13だ。
この両者の起用は、プロデューサーがしっかりとこのコンセプトを理解しているからにほかならない。NOSTALOOKは、DUA LIPAの‘Levitating’のMVを手掛けてグローバルに知られるところとなり、tree13はシティポップをはじめ日本の歌謡曲を世界に発信し続けてきた韓国のDJ・Night Tempoのアルバムジャケットをたびたび手掛けてきた。
このクオリティは、もしかするとジャニーズが新しい道を歩み始めた萌芽なのか。
韓国から5年遅れのシティポップ
80年代前半を中心に日本で流行っていたシティポップは、欧米で2010年代に人気が高まり、韓国でも10年代中期からメジャーシーンで火がついていた(早いものだと、たとえば2017年のEXID ‘Night Rather Than Day’など)。なかには、日本ではモデルとして活動していたYUKIKA(寺本來可)が、日本のアイドルをイメージしたシティポップを韓国語で歌うという現象も生じていた(‘NEON’ 2019年)。
こうしたシティポップの世界的な流行は、音楽が急速にグローバル化したことの反映でもある。海外でもストリーミングやYouTubeなどで、簡便に80年代の日本の楽曲にアクセスできるようになったからだ。竹内まりやの「Plastic Love」(1984年)や、松原みきの「真夜中のドア〜stay with me」(1979年)はこうして発見されて全世界に広がった。
一方日本では、シティポップが日本発であったにもかかわらず、Suchmosやサカナクション以外ではなかなかメジャーシーンで見られることがなかった。山下達郎や竹内まりやなど、80年代前半にシティ・ポップを牽引してきた存在がいまも一線で活躍していることもあるが、その最たる要因はグローバルのポップカルチャーの流行とJ-POPが甚だしく乖離していたからだ。
こうした現象を生じさせたのは、日本の音楽産業が古い体制を必死に維持してきたことによる。インターネットによる音楽配信が主流になりゆくなかで、日本はCD売上に過度に依存し続けてきた。2021年も、日本の音楽売上(ビデオを除く)はその6割弱をCD・レコード=フィジカルメディアが占めている。グローバルでフィジカルメディアはもはや2割ほどでしかないことを踏まえれば、かなり異常な事態がいまも続いている。
そしてこの状況を招いたのが、AKB48や坂道グループ、そしてジャニーズだ。48や坂道グループはCDに握手券などを付けることで複数枚購入を促進し、ジャニーズは嵐など一部のグループ以外では配信に乗り出さないことでいまもファンにCDを買わせ続けている。
ストリーミング配信しないジャニーズ
今回のSexy Zoneのシティポップ「THE FINEST」は、音楽の出来は申し分ないもののその存在性はなんともねじれている。
なぜなら、ストリーミングによってグローバルに火がついた日本を源流とする流行に追従しているものの、この曲はストリーミングで配信されないからだ。新しいメディア(ストリーミング)によってリヴァイヴァルした音楽なのに、古いメディア(CD)でしか聴けないという構図だ。これが「THE FINEST」の“ねじれた存在性”だ。
もちろんジャニーズもインターネットメディアを使っていないわけではない。積極的になり始めたのは、4年前からだ。まだ正式デビュー前のSixTONESが「ジャニーズをデジタルに放つ新世代。」のコピーとともにYouTubeでMVを発表したのは2018年のこと。そして活動休止を控えた嵐が、全曲をストリーミング配信したのは2019年11月だった。
そこからいよいよジャニーズもストリーミングに本腰を入れるかと思いきや、それ以降はKAT-TUNやKis-My-Ft2の曲を一部配信したのみで、長らく停滞が続いている。
ジャニーズ音楽人気の実態
ジャニーズがストリーミングになかなか乗り出さない理由は明確にはわからないが、状況的には従来のやり方が依然として機能しているからだと推測される。熱心なファンが確実にCDを購入するので、それで十分に売上は見込めるからだ。
それに対し、ストリーミングは1再生の単価が低いために、海外も含めた多くのひとびとに訴求しなければ売上に結びつかない。だが、ジャニーズは地上波テレビなど国内メディアでタレント的な人気をCD売上に結びつけてきたので、音楽人気が直接反映するストリーミングではこの方法論が通用しない。
実際、昨年3月にストリーミングも配信したKAT-TUNの「Roar」は、CDは20万枚弱売れたもののストリーミングでは100位圏内に入ることがなかった(Billboard Hot 100:2021年3月21日付)。固有の熱心なファンはいるものの、音楽的な強度はないことが明らかになってしまった。
ジャニーズの音楽人気がそれほど高くないことは、YouTubeで公開したMVの数字にも顕れている。視聴回数が5000万回を超えたのはSnow Manの2曲のみだ。もちろん国内では十分な結果だが、上位に並ぶのはSnow ManやSixTONES、King & Prince、なにわ男子など直近デビューの4組ばかりだ。さらに現在は、BE:FIRSTなどがジャニーズ人気に迫りつつある。
K-POPでは、今月2日にデビューしたガールズグループ・LE SSERAFIMのデビュー曲‘FEARLESS’の視聴回数が、1週間で5000万回を超えた(現在は7000万回を突破)。海外展開を本気で考えないかぎり、Snow Manでもこれ以上はなかなか数字は伸びないだろう。
留まるもリスク、進むもリスク
そしてこうしたジャニーズの従来のビジネスモデルには、将来的に大きな落とし穴が待ち構えている。若年層ではストリーミングがもはや主流なので、CD依存を続けていれば新たなファンを獲得できない。しかも国内マーケットにも依存しているので、現在囲い込んでいるファンが徐々に離れて確実に先細る。
つまり、確実な売上が見込める古いビジネスモデルに依存しきったからこそ、業界全体を変えつつある新しいビジネスモデルに移行できないという構図だ。これは、業界のトップランナーだからこそ陥る典型的な“イノベーションのジレンマ”(クレイトン・クリステンセン)だ。
現在地に留まることにもリスクがあり、先に進むことにもリスクがある。これまでのような成功は約束されていない。
おそらくジャニーズは、自らの置かれているこうした状況に気づいている。そして、いつかはストリーミングに切り替えることを余儀なくされる。あとはそのタイミングということになる。
K-POPと競えるSexy Zone
今回のSexy Zoneのシティポップは、聴いたひとがアルバムの他の曲も聴いてみたいと思わせる水準にある。もっと言えば、K-POPと十分に競えるレベルだ。
しかしSexy Zoneの他の曲を聴くためには、(いまのところ)アルバムを購入しなければならない。海外のひとびとにとってはかなりハードルが高いことは言うまでもない。そして、ジャニーズはこの段階で獲得できたはずの多くのファンを失っている。そもそも一方で、インターネットメディアに積極的なBE:FIRSTやJO1・INIによって、すでに多くのマーケットをジャニーズは取り逃がしている。
こうした状況が続いている以上、ファンの多くも望むストリーミング解禁の“Xデイ”はもはや待ったなしだ。
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