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「高校卒業までの恋愛経験率」の差は、未婚と既婚とを分けるのか?

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

「若者の恋愛離れ」は不正確

未婚化や非婚化の原因をすぐ「若者の草食化」や「若者の恋愛離れ」のせいにしたがる界隈というものがある。内閣府の「令和4年版男女共同参画白書」が発表された際に「20代男性の約4割はデート経験なし」という調査結果を出して、メディアに大きく取り上げられたことは記憶に新しい。

しかし、そんなことは今の若者に限ったことではなく、40年前の若者とてたいした違いはないという記事を当連載で私が出した途端、メディアは掌返しで「デート未経験4割は昔から」となったこととがある。

「デート経験なし4割」で大騒ぎするが、40年前も20年前も若者男子のデート率は変わらない

昨今の婚姻減については、若者の価値観の変化などといういい加減な原因にするのではなく、若者を取り巻く経済や雇用の環境の問題に目を向けなければならないだろう。人間の価値観を決める大きな要因は、彼らの置かれた環境によって影響されるからである。

そして、単に若者といっても、20代で結婚して家族を持つ者もいれば、未婚や恋愛をしたことのない20代の若者もいる。同じ20代といっても、その環境要因や本人の特性によって大きく違うことも事実である。

各年代別の恋愛経験率

20代から50代までの未既婚男性が、高校卒業までの間に、恋愛経験(告白・デート・キス・セックス)をどれくらい実現させたかの調査をしたことがある。それぞれ未婚と既婚とで差が出ている。

(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久
(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久

まず、興味深いのは、50代男性で見ると、未婚も既婚も高校卒業までの恋愛経験率はほぼ変わらないということだ。既婚者の方が多少、高校時代までに「告白」経験が勝っている程度である。むしろ、50代未婚の生涯未婚者の方が、高校時代までにセックスを経験した割合が、既婚者よりほんの少し上回っている点などは面白い。ちなみに、この調査では、この経験者の相手を付き合った恋愛相手とは限定していない。

40代になると、未婚と既婚の差が開いてくる。「告白・デート・キス」の経験率が未婚より既婚の方が上回る。そして、その差は30代でさらに広がる。

既婚者だけの推移をみると、50代→20代にかけて、わずかずつだが高校までの恋愛経験値はむしろあがっている。しかし、これをもって「若者が草食化したどころか、肉食化した」と断じることはできない。

50代では、高校時代までの恋愛経験値があろうがなかろうが、社会に出て、その後なんとかなったケースが多いのだ。しかし、40代以下の世代は、すでに婚姻数の減少が始まった世代である。むしろ、結婚して既婚者になる層と未婚のままの層との格差が明確になったといえる。

そもそも、高校時代までに恋愛ができる層というのは、いわゆる恋愛強者の部類であり、それが早くに結婚してしまうのは当然だろう。しかし、30-40代の未既婚とで高校時代までの恋愛経験率の差が如実に開くのは、もともと恋愛力のあったものだけが、その後結婚できたとみることも可能である。

20代の恋愛力があがった?

しかし、20代を見ると、ちょっと様相が変わる。20代で既婚者となる早婚層は各年代でMAXの経験率であるが、一方で、20代の未婚者もまた恋愛経験率は30代以上の未婚者よりも上回っている

写真:アフロ

しかし、これも、決して「20代の若者が肉食化した」のではない。20代での婚姻数は激減している。むしろ、高校時代までにどれだけ恋愛経験を積もうとも、はたまた、恋愛強者であっても、今の20代は結婚にたどり着けないという面を示しているだろう。

当連載でも何度も書いている通り、今の20代の若者の給料はこの30年間変わらないという最悪状態である。加えて、50代以上の層が若者だった頃とは違って、税金や社会保障費が増えて、可処分所得でみれば30年前より減っている始末だ。

恋愛するのに経済力はいらないが、こと結婚となると経済力のない男は結婚できていないという話はこちらの記事にも書いた通りである。

年収100万未満でも恋愛はできるが、結婚となると必要な年収はいくら?

さらに、未婚女性の希望する結婚相手の条件に「経済力」だけではなく「容姿」も重視されてきているというデータもある(2021年出生動向基本調査)。

もはや無理ゲーとなった結婚~「金」も「顔」も両方なければ選ばれない

これも、「経済力+容姿」というより、いつまでたっても給料のあがらない男性たちを見て、「それくらいの年収しか稼げないのであれば、せめて容姿を…」という感情の表れではないか。

結婚に至らない構造の病

若者の恋愛力が落ちているわけでないし、草食化も恋愛離れもしていない。しかし、恋愛はできても結婚に結び付かない。

むしろ、黙っていても、勝手に恋愛し結婚していた3割の恋愛強者でさえ、その経済環境の悪さによって、マッチングアプリでブイブイ言わせることしかできなくなっているとみる事もできる。恋愛強者でさえそんな有様なのだから、いわんや恋愛弱者をや。

写真:アフロ

それどころか、なまじ恋愛強者がいつまでも結婚せず、未婚のまま方々に手を付けまくっているために、恋愛弱者は割を食うことになる。恋愛力があろうとなかろうと、どっちにしても結婚できない。

たとえ恋愛弱者であっても、社会人になってそこそこの給料を稼ぎさえすれば結婚できた皆婚時代とは、環境が圧倒的に違う。

婚姻減をありもしない「若者の草食化」や「若者の恋愛離れ」などという要因に結び付けるのではなく、結婚に至らない構造の病であることに目を向けないといけないだろう。

ちなみに、この県愛経験値の女性版もあるが、そちらの結果も面白いので別記事で公開したい。→女性篇「高校時代モテモテだった恋愛強者女性が「モテるのに未婚」のまま30代後半を迎えてしまうワケ」

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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