任天堂のマリカー訴訟に関するまとめと追加
「公道カート"マリカー"訴訟、任天堂勝訴が確定に」というニュースがありました。任天堂が公道カート提供会社のマリカー(MARIモビリティ開発)に対して行なっていた訴訟について、マリカーによる上告が不受理となったことにより、知財高裁の判決が確定したということです。任天堂もこの件に関するニュースリリース「公道カートのレンタルサービスに伴う当社知的財産の利用行為に関する最高裁決定(勝訴確定)について」を発表しています。
この訴訟、および、関連した事象については今までいくつか記事を書いてきました(日付順)。
1.「任天堂がマリオカートのコスプレ付カートレンタル業者を提訴」
2.「マリオコスプレ・カートレンタル業者の言い分を検証する」
3.「任天堂、最強の法務部をもってしても"マリカー"の商標登録取消に失敗」
4.「コスプレ付カートレンタルのマリカー社のウェブサイトが全面更新されている件」
5.「任天堂がマリカー業者に勝訴」(注:地裁判決に関する記事)
6.「任天堂vsマリカー訴訟の判決文が公開されました」(注:地裁判決に関する記事)
7.「任天堂vsマリカー訴訟の知財高裁判決文(中間判決)が公開されました」
8.「"任○堂は無関係"商標は任天堂との混同を招くと特許庁が判断」
今回の決定により知財高裁の判決が最終判決として確定しましたので、上記の7.を読んでいただければ、その内容が把握できるかと思います。
簡単にまとめると、任天堂はマリカー側に対してマリオ等のコスチュームの使用等の差し止めと損害賠償請求(5,000万円)を求めていました。その根拠としては、著作権法によるもの(芸術表現の保護の世界)、不正競争防止法によるもの(ビジネスの世界)の両方が主張されていたのですが、裁判所は前者に対しては判断を示さず、不正競争防止法についてのみ任天堂の主張をほぼ全面的に認めました。
著作権上の判断をするとなると、赤い帽子とオーバーオールの衣装が任天堂の著作権を侵害するかという議論をせねばならず、コスプレ関連等への影響が大きすぎるので、不正競争防止法(ビジネスの世界)で閉じた判断が行なわれたのは喜ばしいことと思います。
なお、不正競争防止法による差し止めと損害賠償とは別に、特許庁の商標登録の問題もあります。上記の3.に書いたように、MARIモビリティ開発による「マリカー」の商標登録に対する任天堂の異議申立は失敗しましたが、その後、無効審判により無効にできています(マリカー側は「マリカー」登録商標の分割と譲渡を繰り返していましたが、結果的に全部無効になっています)。
特許庁は、異議申立では「マリカー」はマリオカートの略称としては周知でないとの判断を示しましたが、無効審判では周知であると判断を翻しました。無効審判は異議申立とは別の手続なので結論が異なることは普通です。また、無効審判では、新たな証拠も提出されましたし、新たな論理展開も追加されましたし(たとえば、言語学上、複合語の各要素の語頭から二拍ずつを採るパターンは最も基本的(例:プレイステーション→プレステ)との新たな主張が行なわれています)、そして、おそらくは上記裁判の結果が審判官の心証に影響を与えた可能性もあります。「最強の法務部をもってしても」と釣り狙いでちょっとシニカルなタイトルで書いてしまいました(どうも、すみません)が、商標登録の無効化についても任天堂はきっちりと仕事をしたと言えます。
なお、これはあくまでもマリオ等の任天堂の知財の利用に関する話であって、公道カートビジネスが道交法的にどうかという話はまた別です。現在は訪日観光客がほぼいないのであまり問題になっていないですが、長期的には知財の話とは別に考えていくべき課題でしょう。