任天堂vsマリカー訴訟の知財高裁判決文(中間判決)が公開されました
マリカーの名称で公道カートビジネスを行なっていた業者(株式会社MARIモビリティ開発)とその代表者(以下、「マリカー側」と呼びます)を任天堂が訴えた裁判の知財高裁における控訴審の中間判決文が公開されました。130ページと結構長いですが別途要旨も公開されていますので時間がない方はそちらをご参照ください。
この裁判の地裁判決については、過去に書いています(「任天堂がマリカー業者に勝訴」、「任天堂vsマリカー訴訟の判決文が公開されました」)。
元々の訴えでは、大きく、(1) マリカーという名称、そして、マリオ、ルイージ、クッパ等のキャラの使用が不正競争行為に当たるか、(2) maricarを含むドメイン名の使用が不正競争行為(ドメイン名不正使用行為)に当たるか、(3) マリオ、ルイージ、クッパ等のコスチュームの貸与が著作権侵害に当たるかという3点が争点になっていました。
地裁判決では、前2点については、任天堂の主張が“ほぼ”認められましたが、最後の1点の著作権については請求棄却または判断なしとなりました。コスプレ衣装が二次著作物に当たるか、というのはかなり他への影響が大きい論点なので、裁判所も敢えて触れたくなかったのだと思われます。
知財高裁での控訴審でも著作権に関する議論はされていません、任天堂は前2点についてのみ控訴しましたし、マリカー側は「任天堂が著作権を権利行使できない」との確認訴訟を求めましたが、訴えの利益がないとして却下されています。
今回の判決と地裁判決の違いは、第一に、地裁では、任天堂の「マリオカート」という名称が商品等表示として周知とされたところ、知財高裁では著名とされています。「著名」は「周知」よりも有名度が高いことを意味します。不競法の文脈では「周知」ですと消費者が混同していることを立証しなければなりませんが、「著名」ですとその立証は不要で類似の表示を勝手に使っただけで不正競争とされ、差し止めや損害賠償が可能になります。
第二に、地裁判決では、日本語を解しない外国人にとっては「マリオカート」は周知ではないので、外国人向けのウェブサイトやチラシでの使用は不正競争に当たらないとされたところ、知財高裁判決ではその制限はなしになりました。
第三に、損害賠償金額が1000万円から5000万円に増額となりました。(追記:すみません、これは勘違い、損害論はこれからです、控訴審で任天堂が損害賠償金額を引き上げただけのことでした)。
その他、代表者についても故意または少なくとも重過失があることが認定されています。
ということで、地裁判決よりもさらに任天堂側の主張が認められた判決と言えます(前述のとおり、著作権についてはノータッチですが)。
なお、ちょっと興味深い点として「打ち消し表示」の争点があります。マリカー側は、タイトル画像(筆者が運転中にたまたま撮影した写真)にあるようにカートに「任天堂とは無関係」と表示する等の措置を取っているので消費者の混同は生じないと主張していましたが、「高速で走行するカートを見た一般人が適切に全体を認識できないものであること..(等々)からすると、同表示は打ち消し表示に当たるものではなく、それによって不正競争行為該当性が否定されるようなことはない」と裁判所に一蹴されています。
さらに、余談になりますが、この「打ち消し表示」のひとつ「任天堂は無関係」は商標登録出願されています(さらに、伏せ字付きの「任○堂は無関係」も出願されています)。出願人は、公道カート運営業者と関係があるのではと噂されている企業です。この出願はまだ審査中で特許庁の見解は出ていませんがどのように扱われるか大変興味があるところです。「任天堂の名前を勝手に使って誤認混同を招く」という理由で拒絶になるのでしょうか?しかしそうすると「“無関係”と言っているので誤認混同は生じない」と反論されそうです(禅問答のようです)。追記:よく考えれば「任天堂は無関係」の方は「他人の名称の著名な略称」を含むということで4条1項8号で拒絶になる可能性が高そうです。「任○堂は無関係」は微妙ですが、審査官がこれを登録したら業界秩序を損なうと判断すれば4条1項7号(公序良俗違反)で拒絶になる可能性が高いのではと思います。