「スタミナ満点らーめん」「スタ満」の商標権の効力について
「人気ラーメン屋が怒りの投稿"何のための商標登録なんだ" 他店が全く同じ名前で"オリジナル"として販売」という記事を読みました。「らーめんすず鬼(すずき)」というラーメン店が販売している「スタ満そば」という商品と類似名称の商品を販売されたことに対して、すず鬼の経営者が嘆くツイートをしているというお話です。当該ツイートは以下です。
記事もツイートも「スタミナ満点らーめん」「スタ満そば」「スタ満ソバ」「スタミナ満点らーめん スタ満ソバ」と表記が揺れていて、どの商標が問題になっているのかよくわかりませんが、調べると、すず鬼は「スタミナ満点らーめん スタ満ソバ」「スタ満」「スタミナ満点らーめん」を文字商標として登録していました。しっかり、43類(店での提供)と30類(テイクアウトや他店舗での販売)の両方が指定されており、適切な商標登録と言えます(「スタ満」のみ43類のみ指定)。たまに、個人の出願で店でラーメンを提供する際に使用する商標に対して30類しか指定されていないケースを見たりしますが、本件についてはそのようなことはありません。
ところで、商標法の一般的ルールとして、記述的(商品の特性そのまんま)の商標は登録できません。商標の出所表示機能を果たし得ないこと、特定の企業や個人に独占させるべきではないことによります(たとえば、「激辛ラーメン」を商標登録して独占できれば大変おいしいですがそのような虫の良い話はありません)。なお、この点に関する解説YouTube動画を作っていますのでご参照ください。
「スタミナ満点らーめん」等が記述的にあたるかどうかですが、上に挙げた商標は審査段階では問題にされず登録になっています。「栄養満点らーめん」であれば明らかに記述的で登録できませんが、「スタミナ満点らーめん」はぎりぎりセーフといったところかと思います。Google検索すると「スタミナ満点のお弁当」といった表記は見られますが、ほとんどが「らーめんすず鬼」による使用例です。
なお、記述的ぎりぎりセーフの商標は仮に登録できても、侵害訴訟において、被告が抗弁として「記述的にすぎない」と主張すれば商標権の抗力は及ばないとされる場合はあるので、権利としては弱いことがあるという点に注意が必要です。
ただし、今回のケースで問題とされている表記は「スタ満そば」のようなので、「スタ満」の商標権の類似範囲として権利行使が十分可能に思えます。少なくとも私が知る限り「スタ満」という言葉が飲食業界において「スタミナ満点」の略語として一般的に使用されているという事情はないと思いますので記述的であるとして権利が及ばないということはないでしょう。また、「そば」部分は商品の普通名称なので、商標としての機能はほとんどなく、あってもなくても類似の判断には関係ありません。少なくとも差止め請求はほぼ確実に認められそうな気がします。
なお、今回の相手先である麺屋二二一(「ににー」ではなく、漢数字の221で「ふじい」と読ませるようです)は、TKM(卵かけ麺の意)という商品も提供しているようです。TKMという表記を使ってきた元祖的な有名店(すず鬼とはまた別の店)があることから、これもパクリではという意見がXで見られましたが、TKMの文字商標の商標登録出願は記述的であることを理由に過去に拒絶されており、誰でも使える商標(いわばパブリックドメイン状態)になっていますので、この点については(業界の礼儀的な話は別として)商標権的には問題ないでしょう。
この元祖的有名店が、TKMを文字商標として登録したかったのであれば、一般名称として普及する前に出願しておくべきでした。特許と異なり、商標には新規性の要件はありません(既に知られている言葉でも商標登録は可能)が商品の特性そのまんまの表記として業界で広く使われるようになってしまうともう登録はできなくなりますので、早め早めの出願が必要である点は同じです。