【甘利疑惑】「あっせん、一切ない」と言われるが・・・・・
甘利元大臣は、これまで「睡眠障害」で約4カ月にわたって国会を欠席され、国民の前にも姿をお見せになっていませんでしたが、6日、「活動再開」を表明され、記者団に対して、次のように述べられています。
ここで甘利氏が言われている、「あっせんに該当するようなことは一切したことはない。」という意味は、あっせん利得処罰法における、特定の者の依頼(請託)を受けて、公務員に対して国会議員としての「権限に基づく影響力を行使し」た口利きは行っていないという意味に理解されます。
確かに、あっせん利得処罰法は、政治家のいっさいの口利きを禁じているのではなく、〈権限に基づく影響力を行使した口利き〉を処罰の対象としています。そして、すでに別稿で述べましたように、今回の事件はこの点であっせん利得罪の立証には難しいものがあったのだろうと推測されるのです。
しかし、あっせん利得処罰法で処罰の対象としている行為は、実際の〈権限に基づく影響力を行使した口利き〉だけではなく、そのような〈あっせん行為の約束〉も処罰の対象としているのです。この点は、法案を詳しく審議した、国会の会議録を見ておきます。
すなわち、条文では、「あっせんをすること・・・・・につき、その報酬として財産上の利益を収受し」と規定されていますので、口利きの具体的な依頼(請託)を受けてこれを引き受けた上、将来、口利きをすることの報酬として現金を受け取れば、その後、実際に口利きを行ったかどうかに関係なしに、現金を受け取った時点であっせん利得罪は成立するのです。法務省関係者による解説書でも、そのように理解されています(勝丸充啓編著『わかりやすい あっせん利得処罰法Q&A』大成出版社2001年6月、40頁)。
また、「あっせんを・・・・・したことにつき、その報酬として財産上の利益を収受し」とも規定されていますので、実際に口利きを行い、そのことの報酬として現金を受け取った場合もあっせん利得罪が成立することはもちろんです。
したがって、別稿で指摘しましたように、甘利氏が建設会社から大臣室で現金を受け取った時点であっせん利得罪が成立している可能性があるのです。その後、実際にどのような口利き行為がなされたのかは、この場合、関係がありません。この点は、法の解釈としてはっきりとさせておかなければならないと思います。
一般に、〈請託〉とその〈承諾〉、つまり〈あっせんの約束〉は密室の中で行われることが多いので、その立証は困難だと思われるのですが、週刊文春によれば、大臣室でのこのやり取りについては写真も録音データも残っているということですので、実際にどのような状況で現金の授受がなされたのかは、国民としては夜も寝られないくらい気になるところです。調査を依頼された弁護士には、この点を十分に調査していただきたいと思います。(了)
あっせん利得処罰法
(公職者あっせん利得)
第一条 衆議院議員、参議院議員又は地方公共団体の議会の議員若しくは長(以下「公職にある者」という。)が、国若しくは地方公共団体が締結する売買、貸借、請負その他の契約又は特定の者に対する行政庁の処分に関し、請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したときは、三年以下の懲役に処する。
2 公職にある者が、国又は地方公共団体が資本金の二分の一以上を出資している法人が締結する売買、貸借、請負その他の契約に関し、請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して当該法人の役員又は職員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したときも、前項と同様とする。
【参考】
郷原信郎「特捜検察にとって"屈辱的敗北"に終わった甘利事件」
“真っ黒”な甘利明を検察はなぜ「不起訴」にしたのか? 官邸と癒着した法務省幹部の“捜査潰し”全内幕
なお、甘利疑惑については、次の拙稿もご参照ください。
亡国の犯罪 ―甘利疑惑で問題の〈あっせん利得罪〉とはどのような犯罪なのか―