【甘利疑惑】金はもらった。口利きもあった。金を渡した方も大儲け。しかし、だれも刑事責任を問われない?
あっせん利得法違反と政治資金規正法違反が問題になっていた甘利元大臣とその秘書について、東京地検特捜部は5月31日不起訴処分(嫌疑不十分)としました。そして、この処分が不当であるとして、検察審査会に申立てがなされました。
あっせん利得処罰法は、政治家やその秘書が、国や地方公共団体等が締結する契約または行政庁の処分に関して、依頼者の有利になるように口利きの依頼を受けて承諾し、その報酬を受け取ったり、当該議員等の「権限に基づく影響力を行使して」公務員等に依頼者の有利になるように口利きをし、その報酬を受け取ることを処罰しています。
あっせん利得処罰法第1条1項
衆議院議員、参議院議員又は地方公共団体の議会の議員若しくは長(以下「公職にある者」という。)が、国若しくは地方公共団体が締結する売買、貸借、請負その他の契約又は特定の者に対する行政庁の処分に関し、請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したときは、三年以下の懲役に処する。
「権限に基づく影響力を行使して」とは、具体的には「議会で問題にしますよ」とか、「予算や人事に影響を与えますよ」といったようなことを意味しますが、この点は、従来からあっせん利得処罰法が〈ザル法〉になりかねないと言われていた点で、実際には、権限をチラつかせて、威嚇や恫喝、恐喝まがいの口利きを行う議員などは考えられず、普通は、「◯議員の◯◯ですが、例の件、なんとかなりませんかねぇ、よろしくお願いしますよ」と、やんわりと低姿勢で口利きをするのではないかと思われるのです。実際に、今まで国会議員に対してあっせん利得罪が適用されたケースはありませんが、この要件がネックになっているのだと思われます。
今回、特捜部が不起訴としたのは、この「権限に基づく影響力を行使して」あっせんをしたのかどうかについて、十分な証拠がないと判断したことが大きかったと思われます。
しかし、「権限に基づく影響力を行使して」の要件は、あくまでも相手方公務員に対する口利きの際の要件であって、依頼(請託)を受けるときの要件ではないのです。
この点は重要ですので、まずは国会の会議録で確認しておきたいと思います。
つまり、「請託を受け」の意味は、公務員に対し一定の職務行為を行うことや、行わないことをあっせんするよう依頼を受けて、これを承諾するという意味であって、「権限に基づく影響力を行使して」あっせんすることまでを依頼する必要はないのです。権限に基づく影響力の行使は、あっせんの内容ではなくあっせんの方法だからです。
具体的には、A業者に対する◯◯業の許可を早く出すようにB省の役人に単に「働きかけてください」との依頼や、◯◯業者から◯◯という物品を納入するよう単に「C省の役人に働きかけてください」などの依頼を受けて、これらを承諾した場合が考えられます。法務省関係者による解説書でも、そのように説明されています(勝丸充啓編著『わかりやすい あっせん利得処罰法Q&A』大成出版社2001年6月、27頁)。
もう少しわかりやすく説明します。次の図を見てください。
つまり、あっせん利得処罰法で処罰対象となっている行為は、
- 国会議員等が、国が締結する契約や行政庁の処分などに関して請託(依頼)を受けて、口利きすることを約束し、その報酬を受取ること(実際にあっせん行為を行うことは必要ではありません)
- 国会議員等が、国が締結する契約や行政庁の処分などに関して請託(依頼)を受けて、「その権限に基づく影響力を行使して」口利きをし、その報酬を受取ること
の2つの行為なのです。
第2の「権限に基づく影響力を行使したあっせん」があったのかどうかは、とくに今回はあっせんの相手方である都市再生機構(UR)の職員がそのようなことはなかったと言っているようですので、確かに立証は難しいだろうと予想されますが、第1の行為については、さらに検察審査会で十分に精査してほしいと思います。
そもそも、今回の事件の発端は、週刊文春のスクープです。その記事の中に次のような箇所があります。
問題となるのは、このやり取りです。
この部分が、あっせん利得処罰法第1条1項の「請託を受けて、あっせんすることについて、報酬を得た」に該当するのではないかと思われるのです。
もう一度言いますが、依頼は、単に「口利き」の依頼で足りるのであり、この段階では「権限に基づく影響力の行使」は要件ではないのです。「◯◯に、口を利いてください」との依頼があり、それを承諾して、現金などを受取る。これであっせん利得罪は成立するのではないですか。これについては、その後、実際に「権限に基づく影響力を行使した」あっせんが行われたのかどうかは関係がありません(上記「会議録」2頁)
なお、念のために付言しますと、請託は明示である必要はなく、黙示でも足りますし、承諾も当然黙示の場合もあります。刑法上の受諾収賄罪(刑法197条1項)に関するものですが、次のような判例があります。
検察審査会には、この点を十分に審議してほしいと思います。(了)
【参考】
郷原信郎「特捜検察にとって"屈辱的敗北"に終わった甘利事件」
“真っ黒”な甘利明を検察はなぜ「不起訴」にしたのか? 官邸と癒着した法務省幹部の“捜査潰し”全内幕
なお、甘利疑惑については、次の拙稿もご参照ください。