何人の市民が警官に殺されているか? 数字から見えてくるアメリカの現実と日米比較
警察の武力行使により命を落とす人の数
警官によるジョージ・フロイドさんの暴行死により、全米では警察の規律や責任が改めて問われている。
全米の警察が絡んだ殺害事件、事故の詳細を記録するマッピング・ポリス・ヴァイオレンス(Mapping Police Violence)というデータベースがある。これによると、アメリカで2019年の1年間で、警官による武力行使で殺された人の数は1,098人にも上った。(日本の数は後述する)
そのほか同ウェブサイトで紹介されているデータはこちら。
2019年、警官による武力行使により・・・
- アメリカで1人も命を落とさなかった日は、27日のみ。
- 全人口(3億2800万人)のうち黒人の人口は13%だが、命を落とした人の24%が黒人。
- 命を落とした人種は黒人、ヒスパニック、白人の順に多い。命を落とした黒人の数は白人の数の2倍。
- 武装していなかったにもかかわらず殺された黒人の数は白人の1.3倍。
- 2013〜2019年に発生した件数の99%が、警官の刑事責任を問われなかった。
- 犯罪件数と、警察による死亡事件・事故の数は比例しない(例えば、オクラホマ州オクラホマシティ市、アリゾナ州フェニックス市の犯罪数は全米他市と比べてそれほど多くないが、警察による武力行使で市民が死亡した件数が断然多い。逆に犯罪数の多いテネシー州メンフィス市、ミシガン州デトロイト市において、くだんの件数はそれほど多くない)
各都市の犯罪数と、警官の武力行使で死亡した市民の数の比較表によると、ニューヨーク市は比較的、犯罪数も警官による武力行使で殺された人の数も共に低い方だ。(下記の右端)
ほかにこのウェブサイトでは、被害者の人種、死因、性別、武器を所持していたか、精神疾患があったかなどの情報が、都市別にソートをかけて可視化されている。
ニューヨーク市内で、警官による武力行使により命を落とした人の数は、2013〜2019年の間で75人だった。人種は黒人男性が圧倒的に多く、ほとんどが銃によって命を落としており、テーザー銃もしくは殴られたり窒息させられ死亡したケースは比較的少ない。(市内の白人人口は42%以上、黒人人口は24%)
一方、2013〜2019年の間の被害者数が214人だったオクラホマ市では、被害者は黒人より白人の方が多い。(市内の白人人口は62%以上、黒人人口は15%)
ジョージ・フロイドさんの暴行死が起こったミネアポリス市での被害者数は8人、黒人男性のレイシャード・ブルックスさんが最近警官に銃殺されたアトランタ市での被害者数は15人ということだ。(いずれも2013〜2019年の数)
また、2013年にNYPD(NY市警察)のパトカーにはねられた小山田亮さんの死亡事件のようなケースはこのデータには含まれていないので、細かく追跡すると実際の数はもっと多いだろう。
米国の発生件数、世界でも断然高し
6月5日、シンクタンクのプリズン・ポリシー・イニシアチブ(Prison Policy Initiative)は「アメリカの警察は他国よりはるかに高い率で民間人を殺している」という記事を発表した。
この記事の発表によると、日本との比較だけでもこのように大きな数の開きがある。
警官による武力行使で命を落とした人の年間数
◆アメリカ(人口3億2820万人)
1,099人(19年)
◆日本(人口1億2650万人)
2人(18年)
そのほか、先進諸国のデータ
カナダ 36人(17年)
オーストラリア 21人(18年)
ドイツ 11人(18年)
オランダ 4人(19年)
イギリス 3人(19年)
ニュージーランド 1人(18年)
アイスランド なし(19年)
ノルウェー なし(18年)
- アメリカの人数は前述のマッピング・ポリス・ヴァイオレンスの発表とは1人の差異があり、各国のデータも1〜2年の差異があるが、あくまでも各国の傾向としてはこのくらいの数値帯で間違いないだろう。
人口1,000万人ごとの年間の発生率の比較表。これも、とにかくアメリカだけ数が突出している。
人口1,000万人ごとの年間発生率
◆アメリカ
33.5人
◆日本
0.2人
このようにアメリカでの発生数だけが圧倒的に多いことから、警官による暴力や過失は単なる偶発的に発生したものではなく、この国の体系的な問題だと記事は指摘している。
体系的な問題の1つに、アメリカが銃社会であることが大きく関連しているのは間違いない。銃に関して規則がとにかく緩く、またレイシャード・ブルックスさんの事件のように、重罪でなくても発砲され殺されているケースが非常に多い。だからこそ、アメリカ全体で警察の規律を正す改革が今こそ必要と叫ばれているのだ。
殉職する警官の数
最後に、年間どのくらいの警官が殉職しているかについてのデータも触れておく。
フォーブスによると、アメリカでは毎年100人前後の警官が勤務中に命を落としている。例えば2018年に殉職した警官の数は、106人(USA Todayの発表では144人)にも上り、半数近くはアクシデント、つまり不意の出来事によるものとある。
また上記USA Todayの発表では、そのうちの3分の1が発砲によるもの、3分の1が車両事故によるもの、残りの3分の1はそのほかということだ。(ニューヨークの場合は、911同時多発テロの後遺症、癌などを含む)
2018年、警官の殉職がもっとも多かったのはニューヨーク州、テキサス州、フロリダ州、カリフォルニア州で各11人だった。
一方、殉職者も懲戒処分も少なく世界的に見ても優秀とされる日本の警官の殉職数は、2014年の少し古い情報だが、警官の殉職者は4人だったということだ。近年のデータもそう大差はないのではなかろうか。
(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止