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「結婚そのものが生まれなければ子どもは産まれない」が、かつてないほど婚難になった

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

出生率1.20、東京0.99ばかり取りざたされるが

6月5日に2023年の人口動態調査概数が発表され、日本の出生率が1.20、東京は0.99となったことが発表され、メディアやネットで話題となった。

とはいえ、この出生率の数字は少なくとも1年前には予見できたものであり、特に驚くべきものではない。なんなら2023年だけではなく、2025年までの3年間はより落ち込むことが予想される。なぜなら、2023-2025年に本来結婚するであろう若者が結婚相手と出会い、恋愛をする時期が2020-2022年のコロナ禍であったからだ。

結婚に至る交際期間の中央値は約3年である。2023年に結婚するカップルは2020年に交際開始していたはずだった。

しかし、コロナ禍では、学校もバイトも外での飲食機会すら制限され、そもそも出会いのきっかけすらなかった時期である。この「恋愛ロックダウン」の影響は、「空白の3年間」として2023-2025年の婚姻減に大きな影響を及ぼすことは、すでに以前から予言していた通りである。

参照→「空白の3年間」2023年から3年間、婚姻数は確実に減少し、自動的に出生数も減少する

出生数は婚姻数に依存する

婚姻数が減れば、自動的に出生数は減る。出生数は完全に婚姻数に依存する。

2000年を基準として、2023年までの出生数と婚姻数の推移を示したものが以下のグラフである。完全にシンクロしていることがわかるだろう。

そもそも出生数も婚姻数も2000年対比で40%も減少しているわけだが、コロナ禍以前の2018年までは、婚姻数の減り具合と比べて、出生数の減り幅が少ないことがわかる。これは、婚姻数は減少していても、その分結婚した夫婦は子を産んでいるということである(2019年だけ特に逆転しているのは、令和婚効果で、出生と関係のない年齢帯の婚姻が増えたことによる)。

当連載でも何度も書いていることだが、結婚した夫婦の産む子どもの数は減っていないどころか、むしろ1990年代より増えている。にもかかわらず、出生数が減っているのは「出生を生む婚姻」が減っているからに他ならない。

政府の少子化対策について、ずっと「的外れ」と指摘しているのはまさにそれで、政府は子育て支援一辺倒の政策ばかりを掲げるが、それをやってもやらなくても「結婚した夫婦は子どもを産む」のである。

間違いだらけの少子化対策

政府の少子化対策委員会などで、よく有識者と呼ばれる者が「児童手当などの家族関係の政府支出を増やせば出生率はあがる」などと言うが全くの大嘘である。

そんな因果は今までのエビデンスを見返してもどこにもないし、日本に限らず海外でさえ、そんな因果は存在しない。もし、予算を投じれば出生率が改善されるというのなら、今まで30兆円も投じてきた韓国の一向にあがらない低出生率はどう説明するのだろう。

参照→日本が学ばなければならない「韓国の少子化対策の失敗」出生率激減の根本理由

韓国だけではない。1980年代から子育て支援の充実に予算をさいていたシンガポールですら出生率はこの有様である。

参照→「出生インセンティブ政策では出生率はあがらなかった」シンガポール出生率0.97

未だに「少子化対策はフランスを見習え」という有識者もいるが、そのフランスですら、自国のINSEE(フランス国立統計経済研究所)が「近年の出生率低下及び今後の見通しについて、フランス人の出産・育児年代に当たる女性人口の減少により改善は厳しい」と、まさに私がいう「少母化」と同じことを発表している。実に正しい認識だと思う。

ちなみに、2023年のフランスの出生率も1.68と過去最低に下がっている。

参照→フランスでも北欧でも減り続ける出生の要因「少母化」現象が世界を席巻する

同様に「見習え」と言われる北欧でも出生率は低下しており、フィンランドは日本とほぼ同レベルである。

参照→「フィンランドの出生率1.26へ激減」子育て支援では子どもは生まれなくなった大きな潮目の変化

また、「今の子育て世帯が第二子、第三子を産むようになれば少子化は改善される」などという論を展開する有識者もいるが、そんなことは、すでに第一子を産む夫婦がたくさんいるという前提の上でしか成り立たない話である。

第一子が産まれなければ第二子も第三子もない。そもそも、少子化とは第一子が産まれない問題なのである。婚姻が増えなければ出生は増えないというのはそういうことである。

参照→【的外れな上に逆効果な少子化対策】少子化は第三子が生まれないことが要因ではない

1婚姻当たり1.5人の子ども

前掲したグラフに、「発生結婚出生数」の推移を合体させたものが以下である。

「発生結婚出生数」とは、私独自の指標で、婚姻数に対して出生数がどれだけあるかという、いわば「婚姻による出生力」を見る指標である。

それによれば、2000年以降、1婚姻あたり大体1.5人の子どもが産まれていることになる。これは離婚した夫婦も含めて、婚姻がひとつ発生すれば自動的に最低1.5人は子供が生まれてくるということだ(これも2019年だけ大きく1.5人を割っているのは令和婚効果によるもの)。

婚姻数を増やさないと出生数は増えないが、かといって子どもを産む対象年齢以上の熟年結婚が増えても、それは出生に影響しない。

あくまで「20代での結婚」が増えないと出生増にはつながらない。

ちなみに、出生率が減ったとはいえいまだに1.68の出生率のあるフランスと日本や韓国、台湾などの違いは何かといえば、単純に「20代での出生力の差」である。

参照→フランスと日本の出生率の差~日本の20代が結婚できない問題

婚難なものになった結婚

つまりは、「少子化対策とは若者が結婚できるような環境を整えること」なのだが、それらが具体的に実行されたことは一度もない。それどころか、相変わらず若者の置かれている環境は過酷なものだ。

写真:アフロ

若者といっても、大企業勤めの若者と中小企業勤めの若者とではその環境に大きな違いがある。恵まれた環境にある若者は「結婚が難しい」ものとは思わず結婚していくだろう。しかし、そうでない層にとっては、かつてないほど結婚のハードルが高くなっている。まさに「婚難」なのだ。経済的にも社会的にも。

それが、特に中間層における「結婚したいけどできない」不本意未婚5割という現実を生んでいる(2015年まで4割だった不本意未婚は2020年に5割に増えたが、それについては別記事で改めて)。

「20代の若者が20代のうちに結婚できない問題」。これが少子化の解決すべき最大の課題であり、そこを頑なに無視し続けている限り、何も改善されないだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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