「金がないから結婚できない」東京だけではなく沖縄でもそうなっている
貧乏子沢山?
「金がないから結婚も出産もできない。貧乏子沢山は昔話」という話をすると、必ずそれを頑なに否定してくる界隈がある。勿論、婚姻減は金だけの問題ではないが、金の問題が無関係ではない。しかし、「結婚と金」の話をすると何が不快なのか知らないが、頑なにそれを認めようとしない人達が言ってくる代表的な根拠は以下のふたつがある。
ひとつは、世界的に所得の低い低所得国の方が出生率は高く、先進国など所得の高い国はおしなべて出生率が低いのだから、所得の多寡が結婚や出産に影響するというのなら、「金があれば結婚も出産もしない」というのが正しいというのである。
しかし、「低所得国の出生率が高い」ということは「貧乏なら子沢山になる」ということではない。たとえば、アフリカなどの低所得国では出生率は高いが、その分乳幼児死亡率も高い。なぜなら、まだ医療技術や施設が十分ではないためだ。
4人産んでも2人は5歳になることもなく死んでしまう。そういう状況だからこそ母親は多産をするのである。
これは、戦後直後までの日本も同様である。逆にいえば、先進国で少子化となるのは、2人産めばほぼ必ずその2人は無事に成人してくれるという安心と実績があるからである。
乳幼児死亡率が出生千対10.0を切った国はことごとくが(一部例外の国はあるが)、合計特殊出生率は2.0を切っている。
貧乏だから出生率が高いのではない。産んだ子どもの死亡率が高い国は出生率が高くなるのである。
参照→なぜ昔の日本人は、4人も5人も出産したのか?出生数を見るだけではわからない自然の摂理
沖縄は出生率高い
もうひとつ、「乳幼児死亡率と出生率の関係はわかったとしても、現代の日本において、所得の高い東京の出生率が最下位で、所得の低い沖縄の出生率がトップなのだから、貧乏子沢山ではないか」という指摘もある。
確かに、男女ともに沖縄の年収の絶対額は低いが、出生率は高い。
しかし、別に、沖縄において婚活女子が結婚相手を探す時に、仮に相手の経済力を条件として見た際に「東京の男の年収がこれくらいだから」などと考えるわけではない。沖縄の中で見つけるならば、その中で相対的な判断をする。
問題は、この相対的な経済力基準がインフレを起こしていることで、東京では東京の、沖縄は沖縄の相対基準の中で「結婚や出産に必要な経済力」があがってしまっているということなのである。
これは全国的にも20代の独身男女が結婚や出産できる可能年収だけが爆上がりして、実態がそれに追いついていないという話も過去記事で紹介した。それも2014-15年あたりを境にして、一気にその希望と実態の乖離が進んでいる。
参照→20代の若者が考える「年収いくらなら結婚できるか?子ども産めるか?」その意識と現実との大きな乖離
参照→物価高以上に深刻で急激な結婚のインフレ「店は開いていてももはや買えるような代物ではなくなった」
東京の2007-2022年比較
具体的に、東京と沖縄において、夫婦と子世帯の世帯年収が2007年と2022年とでどれくらい変化したのかについて見てみよう。就業構造基本調査より、世帯主年齢39歳までの世帯だけを抽出して比較したのが以下のグラフである。それぞれの年収中央値も記載してある。
まず、東京から。
2007年の夫婦と子世帯の中央値は617万円で、最頻値は500万円台である。2007年時点ではこれくらいの世帯年収で30代までの若者は結婚し、子を産めていた。しかし、2022年となると中央値は887万円にはねあがり、最頻値は1000-1249万円の世帯となる。それくらい、東京で夫婦と子世帯になるための金銭的ハードルがあがったことになる。
勘違いしないでほしいのは、東京の若者がすべからく高収入になったわけではない。かつて中間層の年収帯である500万円台で多くが所帯を持てたのに、そこの部分だけが激減しているに過ぎない。婚姻数が減っているのに世帯年収800万以上の場合は、世帯数はむしろ増えている。これこそが、収入上位層だけが結婚できて、中間層が結婚できなくなっているという証拠である。
沖縄の2007-2022年比較
一方、沖縄はどうだろうか。
沖縄も2007年夫婦と子世帯の中央値は361万円、最頻値は200万円台だった。それが、2022年には中央値が520万円、最頻値も500万円台にあがっている。そして、東京と同じように、かつて沖縄における中間層だけが激減しており、世帯年収500万円以上は減っていないことがわかる。
東京と比べれば、その絶対額には差があるが、世帯年収中央値の増減率でみれば、東京は43.8%増であるのに対し、沖縄はそれを上回る44.1%増である。
なお、世帯主39歳までの夫婦のみ世帯(まだ子のいない結婚したばかりの夫婦と想定できる)でみれば、その世帯年収の増減率は、東京で44.7%増に対し、沖縄は59.1%と、むしろ沖縄の方が「結婚するためのお金のハードル」が大きく上昇しているのである。
「金がないから結婚できない」と沖縄においても当てはまる話なのだ。
「金がないと結婚できない」呪い
ちなみに、東京の生涯未婚率が高いことは大体の方がご存じのことと思うが、沖縄も負けてはいない。2020年国勢調査不詳補完値ベースで、東京の生涯未婚率は男女ともに1位だが、沖縄も男女ともに7位と上位である。
参照→未婚アリ地獄か?未婚天国か?~東京はもう「3人に1人の男」と「4人に1人の女」は生涯未婚
結婚するための経済的ハードルがあがればあがるほど、それに合致する層は少なくなり、当然婚姻数は減る。婚姻数が減れば自動的に出生数は減る。
当然、若者の所得の問題もあるし、若者の可処分所得の向上も大事なことだが、それと並行して、この「結婚や出産にはお金がかかる」という得体のしれない呪いがいつどこから発生したのかという点を整理することも必要だろう。
確実なのは、それは決して若者の価値観の変化などではなく、社会環境の問題であるということだ。「金なんかなくても結婚できる。昔はそうだった」などと簡単に片づけられることではない。
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