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「専業主婦は子どもを産まない」は本当か?不毛な二項対立論よりも大事な事実認識と課題の抽出

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

専業主婦の子有り率は低い?

知り合いのメディア関係者から「『専業主婦世帯の約4割が子どもなし』という記事があったのだがこれは本当か?」という問い合わせが入ったので、その回答にかえてここで記事化してみる。

結論からいえば、間違いである。

より正確にいうのであれば、元になる統計の数字それ自体は間違っていないが、それを専業主婦の子有り率として切り出すのは完全に間違いである。

そもそも、元になっている国勢調査だが、対象を「夫就業者」に限定しているのはいい。が、妻の対象を65歳以上の高齢者まで含めた上で、18歳未満の子がいるかどうかでそれを「子有り・子無し」で分類しているのだが、これは全く現実に即していない。

というのも、国勢調査における子どもの数は、産んだ子どもの数を示してはいない。調査時点で同居している子どもの数である。

よって、たとえば、3人子どもを産んだ専業主婦の母親だとしても、調査時年齢が65歳以上で、3人の子どもが全員独立していたとすれば、国勢調査上は「(同居の)子どもの数0人」となる。

どれだけ出産したのかを国勢調査上から類推するのであれば、基本的には妻の年齢39歳までで判断すべきである。もちろん40歳以降で出産する場合もあるが、逆に、20歳代前半で第一子を産んだ場合、40歳以上でその子どもが独立する場合もある。実際妻の年齢35-39歳と40-44歳を比べた時に、子どもの数が全体として減っているケースも地方であればみられる。当然、35-39歳より40-44歳が子どもを産まなくなったということではなく、国勢調査の統計上同居している子の数が減っているだけに過ぎない。

そもそも、実態として、出生数の9割は39歳までで完結しているので、39歳までの子どもの数で見ても支障はない。

つまり、国勢調査の全年齢を対象として「(同居の)子どもの数が何人か」という数字だけを切り出して、それを「何人の子どもを産んだか」などと判断してはいけない。

年齢別子有率の比較

よって、39歳までの年齢において、就業している妻と非就業の妻とで各年齢別に子有り率が変わるのかを見るのが正しい。

結果は以下の通りである。一応、参考のために40-44歳及び1995年の同数値もあわせて掲出する。

ここから読み取れるのは、「専業主婦の子有り率は低い」なんてことは微塵もなく、むしろ際立って違いが明確なのは、20代における共働き妻の子有り率の低さの方である。要するに、就業している20代妻は、20代専業主婦と比べて子無し率が高いということになる。

そして、「1995年時点では専業主婦も共働きも、39歳の最終出生完結時点では子の数はほぼ一緒だったのが、2020年では共働きの方が子有り率が減った」と見ることもできる。いわば、30歳以上においても共働き妻の子有り率の伸びの方が1995年から2020年にかけて減っているということだ。

一生どっちかというわけではない

但し、何もこれをもって「共働きは専業主婦よりも子有り率が低い」などというつもりはない。子が生まれたことで一時的に専業主婦になった(永久になったわけではない)ケースもあるからだ。

ここが大きなポイントで、共働きか専業主婦かは、妻自身の年齢や子の年齢、子どもの数によっても変わるものである。子どもが幼稚園に入ったからと就業再開する場合もあるだろうし、逆に、3人目の子どもが産まれたので専業主婦になったという場合もあるだろう。

要するに、「生涯、共働きか専業主婦か」などと単純に二項軸で分けられるものではなく、同じ妻でも時と場合に応じて、就業したり非就業になったりするのである。

たとえば、35歳まで専業主婦で出産・子育てを一段落させて、就業を再開した39歳妻がいたとして、それは統計上「39歳・就業(共働き)の妻」になるわけだが、出生をした段階では「非就業の専業主婦」であった。にもかかわらず、それを過去にさかのぼって全て「共働きの妻」が出生したことになってしまうのは実態に即していない。

むしろ、現在就業中の妻でも上記の経過を辿った可能性の方が高いのは、2020年の時点でも末子が0歳の妻の専業主婦率は20代では6割近くにあることからも推定できる。

共働き増加といっても…

また、共働きといっても、就業レベルがフルタイムかパートかによっても実は違う。

よくメディアが使う「共働きが増えています」と言いたいがための恣意的なグラフがある。

これを詳細に「妻フルタイム」と「妻パートタイム」で分ければ、増えているのは「妻パートタイム」の共働きであり、「妻フルタイム」の割合は1980年代から一貫して変わっていない。

専業主婦の割合が減っているのは事実だが、注目すべきは、この専業主婦世帯の減少と初婚数の減少とが完全に一致していることである。

つまりは、かつて夫の一馬力でも結婚して子を産めたのに、今やパートで妻が稼がなければ家計が維持できなくなっているという経済問題の方こそ「婚姻減→出生減」の原因ではないかと注目すべきなのだ。

不毛な二項対立論は害悪

結婚しても子を持たない選択や子が産まれても就業を継続したい女性ならそうすればいい。しかし、夫婦間の合意の上で専業主婦を選択することも夫婦の自由である。

しかし、その専業主婦を選択する自由がなくなるほど、夫婦を取り巻く経済環境が悪化しているのであれば、問題にすべきは「共働きを増やせ」ではなく「なぜ、かつては可能だった一馬力夫婦が困難になったのか」の方だろう。

提供:イメージマート

繰り返すが、妻が20代で子どもが0歳時においては、希望の有無にかかわらず、様々な事情により、いずれにしても6割近くの夫婦は一馬力にならざるを得ない。それを考えた時に若い独身男女が経済的に「とても今のままでは結婚できない」と考えるからこそその初婚が減っているという見方もできる。

それを、「共働きと専業主婦とで、どっちが子有率が高いか」などと不毛かつ不要な対立軸の論点を作り出すのは筋が悪いし、問題の本質を見誤る。もし「専業主婦は子有り率が低い」などという大嘘をついてまで、専業主婦世帯を貶めようとする意図があるとすれば、それは間違いである以上に悪意すら感じられる。

そもそも「夫婦が共に就業している」ことを「共働き」というのは賛成できない。それは「共稼ぎ」というべきだ。外で働いて稼いでいようがいまいが、専業主婦であろうと専業主夫であろうと、「すべての夫婦は共働き」なのである。

以前も内閣府の有識者からなる委員会が昨今の未婚化の原因として「若者のデート経験なし4割」のようなミスリード統計を出したことがあって、当連載でその間違いを指摘しているが(参照→「デート経験なし4割」で大騒ぎするが、40年前も20年前も若者男子のデート率は変わらない)、そういう恣意的な数字使いにはくれぐれも注意していただきたいものである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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