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「ここまでやる?」激しい性描写と裏腹に低体温な大学生と人妻。『さっちゃん、僕は。』の不倫はクズか?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『さっちゃん、僕は。』より木村慧人 (C)『さっちゃん、僕は。』製作委員会

 先月まで、TBS火曜深夜の「ドラマストリーム」枠で放送されていた『からかい上手の高木さん』。中学生の清々しい初恋模様が描かれ、近年ないほど心洗われる青春ドラマだった。

 その枠で6月11日から『さっちゃん、僕は。』が始まった。主人公は大学生の片桐京介(木村慧人)。そのアパートの隣に住む人妻が国木田紫乃(石川恋)。さわやかだった前作とは一転、1話の冒頭から激しいベッドシーンが30秒にわたって繰り広げられた。

1話冒頭からベッドも軋んで生々しく

 昨今、コンプライアンスが厳しくなっている中でも、『離婚しない男』や『東京タワー』(共にテレビ朝日系)など、濡れ場が話題になったドラマはあった。しかし、『さっちゃん、僕は。』は輪を掛けている。

 シーツを掛けてはいるが、紫乃と体を重ねた京介の腰の動きが激しく、キスする音やベッドの軋みも生々しい。SNSでは「序盤からこんな過激とは」「地上波で流していいの?」といった声が上がっていた。

 演じる木村はLDHのダンス&ボーカルグループ・FANTASTICSのパフォーマーで、ドラマでは単独初主演。石川は『ビリギャル』こと『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の書籍表紙モデルから注目されて、女優へ活動を広げてきた。30歳になり、こうした大胆なシーンのある役は初めてとなる。

『さっちゃん、僕は。』より石川恋 (C)『さっちゃん、僕は。』製作委員会
『さっちゃん、僕は。』より石川恋 (C)『さっちゃん、僕は。』製作委員会

地元には遠距離恋愛中の彼女が

 原作は過激さが話題を呼んだ朝賀庵のマンガ。京介は大学進学のために1年前に上京して、ひとり暮らしをしている。地元には中学時代からつき合っている彼女の“さっちゃん”こと小山内早智(中山ひなの)がいて、遠距離恋愛中だ。

 早智は「京くんから形があるものが届いたら安心する」と手紙を送り続け、返事を心待ちにしているが、京介は一読して箱に入れるだけ。返事を書いていない。

 ある日、アパートの前で偶然、洗濯ものの赤いブラジャーを拾い、届けるために隣室へ。そこで現れたのが、風呂上がりで黒のキャミソール姿が色っぽい紫乃だった。

 その後、郵便受けから早智の手紙を取ったところで声を掛けられ、「片桐くんって童貞? 私が相手してあげようか?」と頬に手を当てながら言われたり。

部屋に入り濃厚なキスから服を脱いで

 紫乃は夫の国木田要(桜田通)の出張が多いため、自宅と別にアパートの一室を1人で借りていた。キスしている2人と出くわした京介は、紫乃に「旦那さんがいるのに、あんなことを言ったんですか?」と問う。

 「関係が明確でも、愛してるかわからないってこと」「言ってることがよくわからない」「ここ(紫乃の部屋の扉)を越えたらわかるかもしれないね」

 そんな会話のあと、吸い寄せられるように紫乃の部屋に入った京介は、濃厚なキスから抱き合い、お互い服を脱いでベッドへ……と冒頭のシーンに繋がったのが1話だった。

生気がない顔と虚ろな目と

 2話の冒頭では、紫乃のベッドで目を覚ました京介が「マジか……」と呟き、大慌てで服を着て、逃げるように出ていった。だが、隣室の紫乃が壁をトントン叩いてくると、フラフラと部屋へ行き、さらに激しいベッドシーンを見せた。

 紫乃の両足を掴んで開いて、自分の肩に乗せて体を揺さぶったり。そこに「さっちゃん、僕は夫のいる人とセックスをしました」とのモノローグが流れる。

 そんな強烈な性描写のある2人だが、それ以外のシーンでは、むしろ低体温を感じさせる。京介は上京する際、地元の駅で早智と別れたときから、泣きじゃくって「浮気しちゃダメだよ!」などと言う彼女に、「するわけないでしょう」と言いながら、電車が来たらすぐ乗ったり、どことなく素っ気なかった。

 アパートに友だちと帰ってきたところを紫乃が見て、「随分つまらなそうに笑うね」と言われていたが、確かに京介は美しい顔に生気がなく、目も虚ろに見える。感情表現も少ない。

 石川恋は「それぞれのキャラクターに少しずつ欠けているところがある」とコメントしている。紫乃は帰ろうとする京介に「1人にしないで」とすがったり、夫がいても愛は冷めた寂しさが推し測れる。では、京介の欠落は何なのか?

欠けたものがあって溺れるように

 1話の冒頭から激しいベッドシーン、と書いたが、正確にはその前に、水中で溺れる京介が「お母さん!」と叫ぶイメージシーンが入っていた。何やら親に関わるトラウマがあるらしい。2話からもオープニングテーマのバックで、京介が溺れる映像が挿入されている。

 地元に健気な彼女がいながら、都会で人妻と不倫に走る。原作マンガのレビューでは、京介に対して“クズ”との声が見受けられる。ドラマでも、同じ大学のチャラいプレイボーイの黒磯朝日(のせりん)に、「お前のほうがタチが悪い。俺はクズの自覚がある」と言われていた。

“いい思い”をしている感じは皆無で

 確かに、やっていることはクズだろう。早智役の中山ひなのが、返事が来なくても毎週手紙を書き続ける、一途で素朴な遠距離彼女を体現しているだけに、その気持ちを思うといたたまれなくもなる。

 かと言って、ただのクズと切り捨て難いところも、木村慧人が演じる京介にはある。あんなにきれいな人妻に向こうから誘われたら……という身勝手な擁護はさておき、直な意味で、まさに溺れているようなのだ。

 裏切りではあるにせよ、京介には“いい思い”をしている感じがまったくしない。だから、激しいベッドシーンもただ煽情的というより、何かに必死にすがろうとしている姿を見せているように思える。

破滅の気配と苦しみの行方は?

 次回の3話では早智が、音沙汰がない京介に直接会おうと東京に来る。予告では「他の女の子なんか見ないで」とキスを交わすシーンも。高校時代に早智は一度、京介に求められて「やっぱり怖い」と拒んでいた。

 また、要は紫乃のアパートに盗聴器を仕掛けていて、彼女が京介に抱かれて喘ぐのを自分の部屋で聴いているシーンが1話であった。これから4人はどう絡み合っていくのか。

 不倫というより、互いの欠落を埋めるように求め合う京介と紫乃。恋愛感情はないこの関係は、低温やけどのようにジワジワと痛みが広がっていく気もする。

 京介に共感ははばかれるし、イケメンだけに感情移入もしにくい。ただ、溺れかけている中で何かにすがろうとしているなら、少しだけわかる気持ちではある。性描写が話題になっているが、破滅の気配を感じながら、それぞれの苦しみの行方がどうなるのか、見届けたいドラマだ。

(C)『さっちゃん、僕は。』製作委員会
(C)『さっちゃん、僕は。』製作委員会

ドラマストリーム『さっちゃん、僕は。』

TBS・火曜23:56~ 公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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