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浅野拓磨と久保建英、不可欠の存在に。週中のラリーガ

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ベンチスタートも、試合を変えて評価を上げた浅野拓磨(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

得点やアシストをすると日本の一般メディアにも短信が載る。週中のラリーガ第3節、マジョルカの浅野拓磨もソシエダの久保建英もノーゴール、ノーアシストだったのでノーニュースなのだろうが、だからと言って凡庸な出来だったわけではない。

ゴール、アシストだけを騒ぐのは悪い癖。浅野と久保のプレーは「不可欠の存在になった」と高評価すべきものだった。

■動き出しの質がライバルとは段違い

特に素晴らしかったのは浅野だ。ジャゴバ・アラサテ監督とファンの心をがっちりつかんだことだろう。セビージャ戦(0-0)、浅野は先発を外れたが(これはローテーションだから仕方がない)、65分に投入されると数分でスタジアムの雰囲気をガラリと変えた。

ポジション争いをする先発ラリンがボールにほとんど触れず、あくび連発だったファンを浅野が試合に引き戻したのだ。

ラリンと浅野、何が違うのか? 大違いであることがはっきりわかった。

前回の記事でスピードは互角で、守備は浅野が上だと書いたが、最も違うのは動き出しの質だった。

パサーが前を向く。浅野はまず裏を狙う。オフサイドにならないようカーブを描いたコース取りで相手DFの背後を突く。単純に飛び出さず、パサーにパスを出すためのベストのタイミングとコース取りをする。相手DFの動きをよく見て、最良のパスコースを提供できるまで我慢する。

で、それでパスが出てこなければ、戻って今度はDFの前でパスを受けようとする。この時も単純に下がるのではなく、裏を突くと見せかけるフェイントを入れて相手DFの逆を突きマークを外してから下がる。

■作り直せてアイディアが豊富

で、それでパスが出て来なければ、もう一度裏を突くか、サイドステップで安全なパスコースを確保するか、パサーの前を交差してサイド寄りのレーンを縦に突くか……などなど。こうしたアクションをボールを持っている仲間に対して数秒の間に小刻みに繰り出し続ける。

一度のトライでボールをもらえないと作り直して次のアクションを行う。それがダメだとその次と、その次もダメだと次の次、というふうに。1つの局面で、2つ3つのオプションを刻んで提供できる。

浅野は動き出しのアイディアが豊富、つまりサッカー的に頭が良い、ということだ。

これがラリンはできない。

裏狙いだと裏狙い一本槍、下がるのなら下がるのだけ。で、パスが出て来ないと立ち止まってしまう。作り直して別の動きを提供することができない。

単調・単発なので相手は守り易いし、味方も唯一のタイミングを逃すともうパスができない。一発決まると凄いが、決まらないと、この夜のように消えてしまう。

■マジョルカはこうして活性化した

浅野もラリンもすべてのアクションが決定的である必要はない。

いろいろ顔を出してボールを触ってリズムと間を作って、チームを活性化するのも重要な役割だ。自分の動きのアイディアが豊富な浅野は、仲間を生かすためのアイディアも豊富だからとにかくボールに絡めるし、仲間も彼を探し始める。

ラリンがいた時に回っていなかったボールが、浅野が入ると急に軽快に回り始める。マイボールの時間が増えて、チームは前進でき、敵陣で過ごす時間が多くなり、シュートやセンタリングを試みるようになる。

この目に見える変化がファンを興奮させ、浅野への拍手と歓声を引き出していた。監督にとってこの変化は采配の的中であり、当然大歓迎。監督もファンも誰もがプレーを待ち望み、できるだけ長くプレーしてほしい選手になるのに時間はかからないとみる。

■久保は通常運転。S.ゴメスと併用へ

倒されるのはドリブラーの宿命。ファウルの多さに激高するシーンも。舐められないために怒るのは良いことだ。写真は昨季の同じアラベス戦のもの
倒されるのはドリブラーの宿命。ファウルの多さに激高するシーンも。舐められないために怒るのは良いことだ。写真は昨季の同じアラベス戦のもの写真:なかしまだいすけ/アフロ

ソシエダはアラベスに敗れた(1-2)。これはオヤルサバルが不幸な退場で1人少ない状況だったので仕方がない。

相手を「踏んで」退場になるのは当然だが、出会いがしらに「踏んでしまって」退場になるのはかわいそう。審判が最初、オヤルサバルへのファウルと誤審するほどに暴力的な意図を感じさせないプレーだったのだから……。

退場は、久保とセルヒオ・ゴメスとの併用が機能するかどうかの実験もぶち壊しにした。

前の記事でポジション争いをする2人がいかに違うか、という話をしたが、この試合ではアルグアシル監督は両方を先発させた。S.ゴメスをインサイドMF化して中盤に起用、久保はいつもの通り右ウインガーだった。

だが、オヤルサバル、ベッカー、久保、S.ゴメスとFW4人が勢ぞろいする、この「超攻撃布陣」は機能したとは言い難い。FWをMF化した時の問題はやはりボール出し。スビメンディを徹底マークされるとブライスだけではボールを繫げず、有効なキープができないので、せっかくの攻撃陣も宝の持ち腐れに終わっていた。

■R.マドリー、バルセロナと同様の課題

これ、2強も同じ課題を抱えている。

レアル・マドリーはエムバペ加入で中盤が1人少なくなり+クロース引退もあってボール出しとキープに苦労している。アンチェロッティ監督のアレンジも成功していない。

一方、ラフィーニャをMF化したバルセロナは裏へのロングボールで彼を走らせ、それによりマークが甘くなるサイドのラミン・ヤマルとフェランにロングボールをDFラインから直接入れることで、ボール出しを実現している。フリック新監督さすがである。

ソシエダと久保に話を戻す。

久保は1人少なくなったチームの攻撃の中心だった。ドリブルで抜いて数的不利を解消し、チームを前進させ、ファウルをもらって数的不利のないセットプレーでの得点を狙う。このセットプレーで威力を発揮したのが、S.ゴメスの滞空時間が長く、回転をかけて向かって来るのでシュートし易い、正確な中・長距離のキックだった。ソシエダの得点をアシストしたのはS.ゴメスだ。

今週末のヘタフェ戦で併用されるはずの久保とS.ゴメス。機能ぶりをまた報告したい。

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在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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