北朝鮮が核兵器用(と推定)の大重量弾頭を搭載した新型短距離弾道ミサイルを公開
北朝鮮は3月26日、前日3月25日に2発を発射した短距離弾道ミサイルの正体を写真付きで公表しました。其処には今年1月15日の平壌での軍事パレードで初めて登場した5軸10輪の発射車両(TEL)の新型ミサイルが写っていました。なお金正恩の視察は行われていません。
短距離弾道ミサイルとしては破格の大重量弾頭2.5トン
新型ミサイル(5軸10輪TEL)はイスカンデル型とATACMS型の両方の特徴を併せ持ちつつ、イスカンデル型(4軸8輪TEL)よりも一回り大型化しています。その大型化した理由は射程延伸ではなく、短距離弾道ミサイルとしては破格の2.5トンもの大重量弾頭化にありました。
3月25日に発射された北朝鮮の新型ミサイルは、韓国軍が観測した数値では水平距離450km・最大高度60kmと、過去2019年に北朝鮮版イスカンデル(最長記録で水平距離600km・最大高度50~60km)が飛行した数値よりもむしろ若干射程が短いくらいだったのです。
ただし、3月25日の韓国軍や日本自衛隊の観測では水平距離450km前後の飛翔だったのに、3月26日の北朝鮮の発表では600kmとされているのは不可解な点となっています。
※2021年3月30日追記
3月29日、韓国国家情報院は「450kmの射程は滑空せずに自然落下した場合を推定したもの」と弾道終末は観測できなかったことを認め、翌30日に韓国軍合同参謀本部も「東方向へと発射されたことにより、探知に限界があった」と認めました。
これは目標がレーダーに対して遠く離れていく方向に飛んで行ったため、ある時点で水平線の陰に入って見えなくなったことを意味します。機動式弾道ミサイルは弾道後半でプルアップ(機首引き起こし)して滑空に入って、速度を落とす代わりに射程が伸びるのですが、この滑空飛行部分が観測できていなかった可能性が高くなりました。
北朝鮮の主張する射程600kmの方が正しいのかもしれません。
※2021年4月28日追記
目的は大きく重いままの核弾頭の搭載か
一般的な短距離弾道ミサイルの弾頭重量は500kgが平均的で重くても1トンなので、2.5トンは破格に大きな数字です。大重量弾頭化の理由としては二つの動機が考えられます。
- 貫通弾頭の搭載(通常弾頭)
- 大きく重い核弾頭の搭載
大重量の貫通弾頭を搭載した短距離弾道ミサイルならば韓国軍でも弾頭重量2トンの「玄武4」が開発中です。しかしもし戦争が始まった場合に強力な米韓軍に航空優勢を奪われてしまうことが確実な北朝鮮軍にとってみれば、貫通弾頭はあまり必要ではない装備です。空爆に脅え地下に籠って戦う必要があるのは自分たち北朝鮮軍であって、相手の韓国軍や在韓米軍こそが貫通弾頭を使ってくる側です。北朝鮮軍は使う側ではないのです。
つまり北朝鮮の新型ミサイルが大重量弾頭でなければならない理由は、大きく重いままの核弾頭を搭載する必要に迫られたからではないでしょうか。彼らはまだ核弾頭の小型化を達成できていないのです。そうすると今回の「新型戦術誘導弾」は韓国を射程に収めた核兵器で脅迫するための装備になります。
一方で対アメリカ本土攻撃用のICBMが火星14(8軸16輪TEL)、火星15(9軸18輪TEL)、2020年10月10日登場の新型(11軸22輪TEL)と次々に大型化していったのも、大重量の核弾頭を搭載してアメリカ本土まで飛べる射程を確保するためにはミサイルの大型化しか方法が無かったのでしょう。火星15の時点で車載移動式としては世界最大のICBMでしたが、それでも搭載量と射程が足りなかったのです。
核弾頭を小型化できた場合、射程が延伸されて対日本用に
しかし何時かは北朝鮮は核弾頭の小型化を達成する筈です。大き過ぎて使い難いICBMは小型化して使いやすくしようとします。そして今回の大重量弾頭を搭載した短距離弾道ミサイルは軽量な核弾頭に積み直した場合には射程が延伸されて、対日本攻撃用に回される可能性があります。対韓国用には小型化した核弾頭を搭載した従来のイスカンデル型・ATACMS型という振り分けです。
北朝鮮の目指す核抑止力の完成には核弾頭を搭載したアメリカ本土攻撃用のICBM(大陸間弾道ミサイル)と韓国攻撃用のSRBM(短距離弾道ミサイル)が最優先ですが、余力が生じれば必ず対日本用のMRBM(準中距離弾道ミサイル)を用意する筈です。
北極星あるいは火星12の大重量弾頭化の可能性
あるいはもう既に核弾頭の小型化を待たずに対日本用として新たな大重量弾頭型MRBMを開発中かもしれません。SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の北極星シリーズを改造すれば直ぐにでも用意できるでしょう。またはグアム攻撃用のIRBM(中距離弾道ミサイル)である火星12を大重量弾頭化して日本向けの射程とする方法もあります。
5軸10輪TEL「新型戦術誘導弾(신형전술유도탄)」の特徴
北朝鮮が5軸10輪の新型弾道ミサイルを初公開(2021年1月15日)
- 5軸10輪TEL搭載と大型化(イスカンデル型は4軸8輪TEL)
- 発射形式はイスカンデル型そのまま(クランプ取り付け発射方式)
- 弾体形状はATACMS型の特徴も採用(ノーズコーン形状が滑らか)
- 2.5トン大重量弾頭(核弾頭搭載と推定)
- 射程は従来型SRBMと同等(韓国観測450km、北朝鮮主張600km)
- 機動式弾道ミサイル(低空を飛行し滑空可能)
- 固体燃料一段式(公式発表に記載、噴射炎の色も固体燃料)
- 操舵翼4枚、推力偏向ベーン4枚(イスカンデル型と同様)
従来のイスカンデル型を元にした拡大改良型で、ミサイル弾体の空力設計にATACMS型の特徴も取り入れています。イスカンデル型のノーズコーン形状は明確に途中で角度の変化のあるバイコニック(bi-conic)式ですが、ATACMS型は先端から胴体まで滑らかなラインで繋がっていて、空力的特徴の最大の相違点です。新型のノーズコーン含む胴体形状はATACMS型のラインを多く取り入れてイスカンデル型のラインも一部に残っている感じを受けます。参考:Nose cone design - Wikipedia
発射形式は2本のリング状クランプでミサイルを固定し、この部分でランチャーに固定し据え付けてクランプごと発射して、発射直後にクランプの爆破ボルトを起爆し分離してミサイルから外すという、ロシア軍の本家イスカンデルの特徴を忠実に受け継いでいます。イスカンデル模倣の短距離弾道ミサイルは世界各国に数多くありますが、この独特の発射システムを採用しているのはロシアと北朝鮮だけになります。
固体燃料ロケット噴射孔に推力偏向ベーン(Jet vane)らしきものが見えます。4枚の操舵翼と4枚のベーンで制御するイスカンデルと同じ方式です。
シリアルナンバー
- ㅈ19992891 (2021/03/26朝の公開写真)
- ㅈ19992892 (2021/03/26夕の公開写真)