「昔は賞味期限なんてなかった。なくした方がいい」にどう答える?中国では自分で賞味期限を計算する方式?
筆者の取材内容を載せて頂いた書籍『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実』(光文社新書、仲村和代・藤田さつき共著)について、ある先生とメールでやりとりしていた。
その先生は、講演で登壇し、「一般市民を対象に調査したところ、期限切れで捨てられる食品が最も多かった」と話したそうだ。
すると、質疑応答の時に、「昔は賞味期限表示なんてなかった。製造年月日表示があっただけ。(食品ロスを生んでしまうから)賞味期限はなくしたほうがいいのでは?」という質問をする方がいた。
先生は「消費者が求めた結果なので、賞味期間を長くすることはできても、賞味期限表示自体をなくすのは難しいのでは」と答えた。
質問者は、「消費者が求めた」という回答には納得いかなかったとのこと。
いったい、賞味期限は、いつ、どのようなきっかけで始まったのだろう。
昭和60年(1985年)CODEX(食品の国際基準)規格で賞味期限表示が導入された
質問者がおっしゃる通り、昔は賞味期限表示がなかった。
製造年月日表示すら、なかった。
飲用牛乳など、一部の品目に製造年月日表示が初めて義務付けられたのは、昭和23年(1948年)。
その後、昭和36年(1961年)にはJAS(ジャス)マーク品への表示、昭和45年(1970年)には政令で指定された物資(果実飲料など)に製造年月日表示が義務付けられていく。
賞味期限表示が導入されたのは、昭和60年(1985年)。CODEX(コーデックス)といって、食品の国際基準の規格として「賞味期限表示」が初めて導入された。当時、食品の輸出入に際し、(日本の)製造年月日表示を賞味期限表示にすべきとする、諸外国からの外圧もあったと聞いている。
その後、変遷があり、今の「賞味期限」と「消費期限」の2つの期限表示になった。
この経緯については、女子栄養大学出版部の月刊誌『栄養と料理』2018年12月号の取材を受けた際に詳しくお話しした。
取材内容は6ページの特集1、食材のムダをなくす!「だれのため?なんのため?消費期限と賞味期限」として載せて頂いた。
あくまで筆者の知っている範囲だが、消費者側からは、賞味期限表示への移行に際し、賛成も反対もあったそうだ。
反対者側は、「食品ロスが増える」。これは、消費者団体からの講演依頼を請けた際、主催者から直接伺った。
賛成者側は、「どこを製造年月日としてとらえるか、企業や製品によって違う。はたしてどれが本当の製造年月日なのか、わからない」。
賞味期限表示は、消費者の要請もあったかもしれない。が、CODEX(コーデックス)規格や米国の外圧など、世界の中で足並みを揃えざるを得ないことの方が大きかったのでは、と理解している。
消費者庁の加工食品の表示に関する共通Q&A(第2集:消費期限又は賞味期限について)には、「製造年月日表示が返品や廃棄を増大させていた」ことも、賞味期限表示への変更理由の一つとして挙げられている。
諸外国では賞味期限が消費者の消費・購買行動を左右することを認識し、対策を取り始めている
賞味期限を鵜呑みにするのは、日本だけではない。
諸外国でも、賞味期限が消費者の消費行動や購買行動を左右することを認識している。
来日したスウェーデンの女性研究者に聞いたところ、北欧2カ国で、賞味期限表示を、日付ピンポイントではなくアバウトな(おおまかな)形に変えたところ、食品ロスが20%以上削減されたそうだ。
イギリスやトルコ、イタリアなどは、賞味期間が3ヶ月以上18ヶ月未満の食品は「年月」表示、つまり日付を抜くことが許されている。18ヶ月以上の賞味期間があれば「年」表示のみだけでよい、としている。
中国は製造年月日と賞味期間(6ヶ月)などが併記され、自分で計算する
中国では、今でも製造年月日表示がなされており、賞味期間が併記され、消費者は、自分で製造年月日にその賞味期間を足して計算するのだという(「なるほど中国」「中国は賞味期限の表示が違う」より)。
今、手元に、上海(シャンハイ)の会社で製造された、烏龍茶入りのクッキーがあるので、見てみよう。
個包装の袋には、製造年月日である2018年12月5日が印字されている。
裏面を見てみよう。
ちょうど、バーコードの左上あたりに、賞味期間として「12ヶ月」を意味する言葉が書いてある。
そこで、消費者は、「いつまで食べられるんだろう」と考え、製造年月日の2018年12月5日に、12ヶ月(1年)を足し、「ああ、2019年12月5日までが賞味期限なんだ」と理解する。
一見、面倒かもしれない。が、賞味期間が一年間なのだと知ることができれば、「1日や2日過ぎても大丈夫だろう」と、消費者自身が判断できる材料になるかもしれない。
日本でも製造年月日と併記する場合もある
製造年月日表示の義務がなくなった日本だが、賞味期限表示と併記している例もある。先日、ポテトチップスの賞味期限を延長することと、年月日表示を年月表示にすることを発表したカルビー株式会社の製品は、その一例だ。
たとえば、「えだまりこ」の裏面を見てみる。
製造日として「19.4.10」の表記があり、賞味期限として「19.8.10」と表示してある。
日本で年月表記にする場合、半端な日付は「切り捨て」て前月表示する決まり
日本では、3ヶ月以上の賞味期間があれば、日付を省略することができる決まりがある。
だから、「19.8」(2019年8月)という表記に変えたいところだ。
しかし、筆者が思うに「堅苦しい決まり」が日本の政府(消費者庁)にはある。賞味期限表示の半端な日付は、切り捨てして年月表示化することになっている。つまり、この「えだまりこ」を年月表示にしようとすると、現状では、10日分を切り捨てし、前月の「2019年7月」という表示にせざるを得ない。むしろ、今の賞味期限よりも短くなってしまう。
そこで、国(農林水産省など)は、製造企業に対し、「賞味期限そのものの延長」と「賞味期限の年月表示化」をセットで進めることを推奨している。
賞味期限で「思考停止」しないこと
拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』で指摘したが、賞味期限表示は、格好の「思考停止」ポイントになっている。自分の頭で考えることをやめてしまい、その数字を鵜呑みにしてしまう。どうやって決めているのか、賞味期限と消費期限はどう違うのか。街の声を聴いてみるといい。100%の人が答えられる街は少ないだろう。
法律や条例、通知などで決まっていることを、今すぐに変えることは難しい。だが、自分の考え方なら、今、この瞬間でも変えられる。
賞味期限は品質が切れる日付ではない、ということを、より多くの人に知ってほしい。中学校の家庭科の教科書にも書いてあるのだが、履修していない世代もいるし、履修しても忘れている人も多いかもしれない。