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【速報】政府、最新の食品ロス量(2022年度)公表、食品ロスによる経済損失は4兆円

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
食品ロスの一例(日本フードエコロジーセンター提供)

2024年6月21日、環境省・農林水産省・消費者庁が、2022年度(令和4年度)の食品ロスの発生量の推計値を公表した(1)(2)(3)。

2022年度の食品ロス推計値は472万トン

2022年度(令和4年度)の食品ロス推計値は472万トン。

うち事業系は236万トン(前年度比でマイナス43万トン)

家庭系は236万トン(前年度比でマイナス8万トン)となった。

政府は、2000年度比で2030年までに食品ロスの発生量を「半減(50%減)」させるとの数値目標を立てていた。2000年度に980万トンだったのを、2030年度までに489万トンまで減らすということだ。したがって、2030年度までに待たずにこの目標を達成したことになる。

食品ロス推計値の推移(農林水産省公式サイトより)
食品ロス推計値の推移(農林水産省公式サイトより)

多かった年を基準にしているので目標を下方修正すべきでは

農林水産省は、事業系食品ロスが減った背景として、「新型コロナウイルスによる市場の縮小等の影響があった」としているが、同時に「長年にわたり食品事業者の食品ロス削減の取組が着実に進められた成果」としている。

食品ロス推計値が減ったのは、非常に喜ばしいニュースだ。

一方で、SDGs12.3(ゴール12番ターゲット3)で定めた「世界の小売・消費レベルの食料廃棄を半減」という場合、どの年を基準にするかというのは国によってそれぞれ違っている。

英国は2007年を基準にしているが、英国の場合、SDGs(持続可能な開発目標)が採択されるずっと前から数値目標を独自に立てて削減に取り組んできている。

その他の欧州では、SDGsが採択された2015年を基準にしている国もある。そうなれば、非常に野心的な目標を立てなければならなくなる。

もし日本が2015年(平成27年度)を基準にしたならば、646万トンの半減ということで、323万トンが削減目標ということになる。

オーサーコメント(4)にも書いたが、今よりもずっと多い980万トンを基準にしていたのだから、フォーキャスティングで目標を立てる日本は、それは目標達成がたやすいだろう。(フォーキャスティングとは、目標を立てる際、現在や過去のデータをもとにして立てるやり方。これに対し、未来のあるべき姿から逆算して目標を立てるのがバックキャスティング。SDGsはバックキャスティングで目標設定している)

「できそうな目標しか立てなくて効果があるの?」

以下はデンマークで取材したとき、社会活動家のセリーナ・ユールが言っていたことだ(5)。

「できそうな目標しか立てない?」

「それではたして効果があるのかしら?」

8年前倒しで達成したかもしれないが、そもそも基準にしたのが大きい値だったので、達成した以上は、さらなる新たな削減目標を立てるべきだと思う。

食品ロスによる経済損失は4兆円

また、筆者がこれまで提言してきた、食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量の推計結果を発表してもらえたことは大きな一歩だ(6)。

今回の発表によれば、2022年度の食品ロス推計値を基に推計した場合、食品ロスによる経済損失の合計は4兆円、食品ロスによる温室効果ガス排出量の合計は1,046t-CO2となった。

食品ロスは、経済損失であり、環境負荷の要因であり、社会のさまざまなチャンスを失う原因となる。失われるそのお金があれば、雇用や医療、福祉、教育など、ほかの有用なことに充当できるからだ。

なぜ読売新聞が公表の3日前に報道?

今回不思議だったのは、読売新聞が6月18日付の夕刊一面とオンラインで、政府が発表する前に、食品ロスの推計値を報じていたことだ(7)。「政府関係者」から聞いた、とされているが、本来、政府の公式サイトに公表されてはじめて公式発表となる。どなたが話してどなたがこの記事を書いたのか存じ上げないし、省庁に伺っても情報源がどこなのかわからないとのことだったが、公式発表の前に報じるのは、全国紙の姿勢としてどうかと思う。これで「スクープをとった」と思っているのかもしれないが、今後は政府の公式発表を待ってから報じていただきたい。

参考資料

1)我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和4年度)の公表について(環境省、2024/6/21)

2)令和4年度の事業系食品ロス量が削減目標を達成!(農林水産省、2024/6/21)

3)令和4(2022)年度食品ロス量推計値の公表について(消費者庁、2024/6/21)

4)筆者のオーサーコメント(読売新聞2024年6月18日付記事、国内の「食品ロス」半減、政府目標を8年前倒しで達成していた…家庭の食べ残しや未開封廃棄は課題)

5)『北欧でみつけたサステイナブルな暮らし方 食品ロスを減らすためにわたしたちにできること』(井出留美、青土社)

6)食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量の推計結果(消費者庁、2024/6/21)

7)国内の「食品ロス」半減、政府目標を8年前倒しで達成していた…家庭の食べ残しや未開封廃棄は課題(読売新聞、2024/6/18)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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