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メディアは「暑い」「熱中症に注意」で済ませないで 温暖化どころか地球沸騰化、5月も観測史上最高気温

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
夏の女子高校生(写真:アフロ)

2024年6月14日、東京大学駒場キャンパスで講義した。東京大学農学部のオムニバス講義の一環。90分1コマで、2名の講師が交代で話し、大学1・2年の学生たちに農学について知ってもらうのが目的だ。

東京大学 大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻でVTTフィンランド技術研究センターの五十嵐圭日子(きよひこ)教授は「きのこの酵素で木を利用してSDGsとサーキュラーバイオエコノミーを達成する」について講義した。筆者は「食品ロスと気候変動の関係」について話した。五十嵐先生は、冒頭で、米国元副大統領でノーベル平和賞受賞者のアル・ゴア(Al Gore)氏のレクチャーを2日間受けたこと、気候変動について説明した上で、テレビなどの天気予報で、ただ「暑い」「暑くなる」だけを繰り返すことに立腹していると話していた。

Former U.S. Vice President Al Gore speaks during an interview with Reuters at the United Nations Cli
Former U.S. Vice President Al Gore speaks during an interview with Reuters at the United Nations Cli写真:ロイター/アフロ

アル・ゴア氏は早くから環境・エネルギー問題の啓発に取り組んできた。彼が執筆した『不都合な真実』は、ドキュメンタリー映画にもなった。環境問題に関わる人なら誰もが知っている内容だ。

Former U.S. Vice President Al Gore attends a screening for An Inconvenient Sequel: Truth to Power
Former U.S. Vice President Al Gore attends a screening for An Inconvenient Sequel: Truth to Power 写真:ロイター/アフロ

筆者も2023年8月20日、『「死ぬほど暑い」12万年ぶりの猛暑 なぜメディアは表層的な現象しか報じないのか』という記事(1)を書いた。2023年7月、国連のアントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)事務総長が「地球は沸騰化(boiling)の時代に入った」と述べ(2)、気候変動に対する危機感を表明した。にもかかわらず、日本のマスメディアで「酷暑」と「気候変動」を並列して報じた内容があまりにも少なかったからだ。この記事は、ジャーナリストの高橋真樹(まさき)さんが出版した『「断熱」が日本を救う』という本(3)にも引用された。

U.N. Secretary-General Antonio Guterres, speaks during the Opening UNO Marking 60 years of UN Trade
U.N. Secretary-General Antonio Guterres, speaks during the Opening UNO Marking 60 years of UN Trade 写真:代表撮影/ロイター/アフロ

冒頭で述べた講義をした2024年6月14日の午後、「関東で今年初めての猛暑日」という民放のニュースがYahoo!トップページに掲載された(4)。茨城県で35度に達し、関東で今年初めての猛暑日になった、熱中症対策をしてくださいという内容だった。筆者もオーサーとして気候変動の影響を踏まえたコメントを書いた(5)。他にコメントした3名の気象予報士の方は、気候変動の問題に触れてはいなかった。

なぜ「暑い」「熱中症に気をつけて」だけだとだめなのか

なぜ「暑い」「熱中症に気をつけて」だけだとだめなのか。気温上昇は人間の活動が原因なので、この現象を少しでもやわらげ、地球を存続させるためには人間の行動を変えなければいけないからだ。

President of the Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC) Jim Skea attends a working session
President of the Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC) Jim Skea attends a working session写真:代表撮影/ロイター/アフロ

2021年8月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル: The Intergovernmental Panel on Climate Change)は「人間が地球を温暖化させてきたことは疑う余地がない」と発表している(6)。温暖化の影響を抑えようとすれば、われわれ人間の行動を変える必要がある。「暑い」から「熱中症に気をつけて」、自分の身を守ることも大事だが、生きていくためには、地球の健康も守らなければならない。

前述のオーサーコメントをSNSに投稿したところ、一般社団法人エシカル協会の末吉里花さんから「気候危機に関する気象予報士・気象キャスター共同声明」が公開され、記者発表があったと教えていただいた(7)。気候変動解決のために「気象と気候変動を関連付けた発信を加速していく」としており、44名の方が賛同している。気象キャスターで呼びかけ人となっている井田寛子氏は、2021年12月26日の東京大学のシンポジウムで一緒に登壇した方だ(8)。

東京大学大学院農学生命科学研究科 公式サイトより
東京大学大学院農学生命科学研究科 公式サイトより

気候変動に対し、一人ひとりできることがある

「暑い」ことに対し、何の手立てもできないということはないので、受動的のままではなく、能動的にならなければならない。自分の考え方や行動を変える必要がある。では具体的に何をすればいいのか?わからない方は、書籍『ドローダウン』(9)を読んでみていただきたい。世界の専門家200人近くが、地球温暖化の進行を逆転させる(=ドローダウン)ために、具体的な100の方法を示している。二酸化炭素の削減量、実現可能性、コストパフォーマンスなどの項目に基づいて数値化し、1位から100位までランクづけしている。100位中、3位に位置しているのが食品ロス削減、4位に位置するのが植物性食品を中心にした食生活をすることだ。

2024年5月の世界平均気温は、1940年からの観測史上、最高気温を記録したことが、欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によって発表された(10)。

ただ「暑い」「熱中症に気をつけて」と言われて気をつけるだけではなく、地球の持続可能性を守るために、地球沸騰化現象を少しでもやわらげるために、一人ひとりができることを続けていくしかない。

一人ひとりの意識を変え、行動を促すために、マスメディアや気象予報士などの気象の専門家は、「暑い」「熱中症注意」と言うだけではなく、気候変動に対して一人ひとりにできることがある、ということを、地道に、根強く、伝え続けてほしい。

参考情報

1)「死ぬほど暑い」12万年ぶりの猛暑 なぜメディアは表層的な現象しか報じないのか(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2023/8/20)

2)7月は史上最も暑い月に 国連総長は「沸騰化の時代」と警告(BBC News Japan, 2023/7/28)

3)『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(高橋真樹、集英社新書)

4)【速報】関東で今年初めての猛暑日(テレ朝news、2024/6/14)

5)【速報】関東で今年初めての猛暑日 に対する筆者のコメント

6)温暖化は人間が原因=IPCC報告「人類への赤信号」と国連事務総長(BBC News Japan 2021/8/9)

7)「気候危機に関する気象予報士・気象キャスター共同声明」公開 44名が賛同し気候危機解決の架け橋へ(ELEMINIST、2024/6/11)

8)東京大学大学院農学生命科学研究科【One Earth Guardians 公開シンポジウム2021】農学が示す、暮らしのなかのGX(グリーントランスフォーメーション)

9)『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』(ポール・ホーケン編著、江守正多監訳、東出顕子訳、山と渓谷社)

10)5月も暑っ!!世界平均気温 史上最高 EU機関 12ヶ月連続(中国新聞、2024/6/13)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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