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EUで使用禁止の農薬が大量に日本へ 

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

人への影響が懸念されることから、欧州連合(EU)域内での使用が禁止されている農薬が、EUから日本に大量に輸出されていることが、国際環境保護団体グリーンピースなどの調べでわかった。欧州やアジア諸国に比べて農薬の規制が緩いと言われている日本が、世界の農薬メーカーの草刈り場になっている構図が浮かび上がった。

第3位の輸出先

農薬によってはEU内で使用が禁止されていても製造や輸出は可能で、輸出する場合は当局に届け出なければならい。今回、グリーンピースとスイスの市民団体パブリックアイが、欧州化学物質庁(ECHA)や各国政府への情報公開請求を通じて農薬メーカーや輸出業者が届け出た書類を入手し、国別や農薬別にまとめた。

2018年に届け出された書類によると、EU内での使用が禁止されている「禁止農薬」の輸出は、合計で81,615トンに達した。最も輸出量が多かったのは英国で、EU全体の約4割に達する32,200トンを輸出し、他国を大きく引き離した。2位はイタリアで9,500トン、3位は8,100トンのドイツだった。

一方、禁止農薬の最大の輸入国は米国で、2018年の輸入量は断トツの26,000トン。日本はブラジルに次ぐ3位で、6,700トンだった。日本は単純に量だけ見れば米国の4分の1だが、農地面積が米国の1%しかないことを考えれば、非常に多い輸入量とも言える。

パーキンソン病と関連の可能性

農薬の種類別に見ると、輸出量が最も多かったのは、除草剤のパラコートで28,200トン。次が殺虫剤の1,3-ジクロロプロペンで15,000トン。2種類で全輸出量の5割強を占めた。日本は2018年、1,3-ジクロロプロペンを4,000トン、パラコートを250トン、いずれも英国から輸入したことになっている。

1,3-ジクロロプロペンは人への発がん性が疑われているほか、地下水の汚染や、野鳥や野生の哺乳類、水生生物などの繁殖への影響が懸念されている。日本では主に、農作物に被害をもたらす土中の線虫類を駆除するために使用されている。

パラコートは、強い毒性に加えてパーキンソン病との関連が疑われ、EUは2007年に域内での使用を禁止した。米国では先月、パラコートや殺虫剤のネオニコチノイドなど特に危険と見なされる農薬を禁止する法案が議会に提出されたが、この法案に対し、パーキンソン病と闘う俳優のマイケル・J・フォックスさんが設立した「マイケル・J・フォックス財団」は、強い支持を表明している。

アジアでは使用禁止の流れ

また、台湾やタイ、マレーシアなどアジアの国や地域も、昨年から今年にかけてパラコートの禁止に動くなど、パラコート追放は世界的な流れになりつつある。

日本でも、パラコートによる自殺やパラコートを誤って吸引したことによる中毒事故が多発したことから、徐々に規制強化はされてきてはいるが、全面禁止にまでは至っていない。

グリーンピースの調査内容を報じた英高級紙ガーディアンは、「規制の抜け穴によって化学物質が途上国や米国、日本、オーストラリアに送られている」とし、禁止農薬が事実上、自由に輸出できてしまう規制のあり方に疑問を呈した。

同じく、このニュースを伝えた英放送局BBCは、自分たちの人権や自然環境保護は人一倍重視するのに、輸出先の人たちの人権や自然環境を軽視するような行いをするのは、EUの「ダブルスタンダード」だとする批判的な意見を紹介した。

欧州の市民団体は、禁止農薬の輸出禁止を各国政府に働きかけている。フランスは2022年から禁止する方針だが、他国は農薬メーカーに輸出中止を強いることは今のところ消極的という。

行き場を失った農薬が日本に向かう

欧州やアジアの多くの国や地域では、パラコートだけでなく、除草剤のグリホサートや殺虫剤のネオニコチノイド、クロルピリホスなど、人や自然の生態系への影響が強く憂慮されている農薬の規制を強化する動きが急速に広がっている。国レベルでは規制が緩やかな米国でも、自治体レベルでは規制強化が進み始めている。

そうした世界的な規制強化の結果、行き場を失った禁止農薬が日本に向かったり、日本からそれらの地域に輸出できなくなった農薬が、国内の消費に回されたりしている可能性が、今回の調査から読み取れる。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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