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米主導の有志連合とシリアのアル=カーイダが「テロとの戦い」で見せる奇妙なシンクロ

青山弘之東京外国語大学 教授
総合治安機関(Facebook(@GE.SE.SE1)、2021年10月15日)

シリアのアル=カーイダが新興のアル=カーイダを弾圧

シリア北西部のイドリブ市で2月2日、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構の総合治安機関が大規模な治安作戦を実施し、20人以上を拘束した。

シャーム解放機構は、国連安保理決議第1267号(1999年10月15日採択)委員会(通称アル=カーイダ制裁委員会)によって国際テロ組織に指定され、シリア政府、ロシア、イランだけでなく、米国、トルコといった国々もテロリストとみなす組織。かつてはシャームの民のヌスラ戦線を名乗っていたが、2017年1月に現在の組織名へと改称した。

指導者であるアブー・ムハンマド・ジャウラーニーは、昨年11月頃から頻繁に公の場に姿を現し、反体制派が「解放区」と呼ぶイドリブ県中北部、ラタキア県北東部、アレッポ県西部、ハマー県北東部での復興や国内避難民(IDPs)救済を主導する姿勢を示し、同地への支配を揺るぎないものにしようとしている。

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「解放区」は現在、このシャーム解放機構が軍事・治安権限を掌握、シリア救国内閣を名乗る組織に自治を委託している。また、トルコが支援する国民解放戦線(Turkish-backed Free Syrian Army)のほか、シリア政府やロシアが化学兵器攻撃偽装の首謀者とみなすホワイト・ヘルメット、中国新疆ウイグル自治区出身者からなるトルキスタン・イスラーム党、フッラース・ディーン機構などの新興のアル=カーイダ系組織が活動を続けている。

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、総合治安機関が拘束したのは、外国人戦闘員(ジハード主義者)。フッラース・ディーン機構やシャーム・イスラーム運動のメンバーだという。

フッラース・ディーン機構は、アル=カーイダのメンバーとしてアフガニスタンやイラクでの戦歴を持ち、ヌスラ戦線メンバーでもあったアブー・ハマーム・シャーミーなる人物によって2018年2月に結成された組織。ヌスラ戦線がシャーム解放機構へと改称する過程で、アル=カーイダとの関係を解消したことを不服として離反し、アル=カーイダの「再興」をめざし、この組織を結成した。シャーム解放機構とは、ロシア、シリア軍との停戦遵守の是非をめぐって鋭く対立、2020年6月にジハード調整、アンサール戦士旅団、アンサール・イスラーム集団、アンサール・ディーン戦線といった新興のアル=カーイダ系組織とともに「堅固を持せよ」作戦司令室を結成し、抵抗を試みた。だが、これを機にシャーム解放機構の弾圧に晒されるようになっている。

一方、シャーム・イスラーム運動は、2013年8月にグアンタナモ収容所での拘束経験を持つモロッコ人3人(イブラーヒーム・ベンシャクルーン、アフマド・マイズーズ、ムハンマド・イルミー)によって結成された組織。ラタキア県やアレッポ県などで活動、2014年7月にアンサール・ディーン戦線の傘下に入った。米国務省によってFTO(外国テロ組織)に指定されている。

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米主導の有志連合による空挺作戦

新興のアル=カーイダ系組織に攻勢をかけたのはシャーム解放機構だけではなかった。

トルコのハタイ県(シリア領アレキサンドレッタ地方)のレイハンル市やイドリブ県との県境に近いアレッポ県北西部のダイル・バッルート村上空に米主導の有志連合に所属するF16戦闘機とヘリコプター複数機が飛来したのだ。

ダイル・バッルート村一帯地域は「解放区」の北端に隣接し、トルコが占領するいわゆる「オリーブの枝地域」(アフリーン市一帯地域)内に位置している。

米ワシントンDCを拠点とする独立系ニュースサイトのステップ・ニュースやシリア人権監視団などによると、F16戦闘機やヘリコプターは、ダイル・バッルート村西の一帯に対して機銃掃射を行うとともに、空挺作戦を実施した。降下した兵士らは、村の西に位置する学校近くにある民家にいる女性や子供に退去するよう拡声器で呼び掛け、その後この民家を強襲し、中にいた戦闘員と激しく交戦したという。

また、シリア人権監視団によると、この空挺作戦に先立って、有志連合のヘリコプター複数機が、アレッポ県北東部のハッラーブ・ウシュク村近郊に位置するラファージュ・セメント工場に2回に分けて離発着した。

ラファージュ・セメント工場は、2016年3月に米軍が基地を設置、2019年10月まで駐留していた。現在はクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の民兵である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍が駐留、これを管理している。

ヘリコプター複数機は2時間ほど基地に滞在したのち、シリア政府とPYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局の共同統治下にあるアイン・アラブ(コバネ)市(アレッポ県)方面に向かったという。

ヘリコプターがラファージュ・セメント工場に立ち寄った理由は不明だが、1月末にイスラーム国のスリーパーセルが襲撃したグワイラーン刑務所(ハサカ県)から別の刑務所にイスラーム国のメンバーを移送するのが目的だとの情報もある。

追記(2022年2月4日):ジョー・バイデン米大統領は2月3日、この作戦を通じてイスラーム国の指導者アブー・イブラーヒーム・カルスィーを殺害したと発表したが、その詳細については稿を改めて論じたいと思う。

既視感とシンクロ

似たような空挺作戦は実は2年前にも行われている。2019年10月26日の米軍によるイスラーム国のアブー・ムハンマド・バグダーディー指導者暗殺作戦だ。

この時は、米軍ヘリコプター8機がアレッポ県北東部のスィッリーン町近郊(ミシュタヌール丘)にある航空基地から発進し、トルコが占領下に置く「ユーフラテスの盾」地域、「オリーブの枝」地域上空を通過し、シャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県北部のバーリーシャー村にあったバグダーディーの潜伏場所を急襲、殺害に成功した(詳細については『膠着するシリア:トランプ政権は何をもたらしたか』(東京外国語大学出版会、2021年)を参照されたい)。

なお、バグダーディー暗殺作戦に際して、シャーム解放機構は、バーリーシャー村一帯を封鎖し、住民らの往来を禁じた。シャーム解放機構はこの間、イドリブ県の各所でイスラーム国のスリーパー・セル(潜伏メンバー)の摘発を続けていた。だが、彼らがバーリーシャー村で治安活動を行ったとの情報はなかった。

今回の有志連合の空挺作戦であれ、2019年10月のバグダーディー暗殺作戦であれ、そこにはそれぞれの思惑のもとに、政敵、ないしは安全保障上の脅威であるテロリストを追い詰めようとするシャーム解放機構と米国の奇妙なシンクロが存在する。そして、このシンクロこそが、シリアにおける「テロとの戦い」の恣意性を象徴しており、同国でテロリストが跋扈し続けることを可能としている。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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